イヴたちの館

さくら乃

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第一章

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 会釈して顔を上げると、部屋の先人が上から華を覗き込みじっと顔を見ていた。
(え……?)
 華は内心酷く驚いていた。
「あの……綾部さん……」
 訊ねたいことがあったが綾部は、
「華さん……わたくしはこれで」
 と言って去ってしまった。
(ええーっ)
 黒染涼は何も言わないまま中に入って行った。華は仕方なしに扉を閉め、自分も中に入って行った。
「……」
 どうしたらいいのか立ち尽くしていると黒染が、
「こっち来て」
 と短い言葉で華を呼び寄せた。
 扉の前は共有スペースらしく絨毯が敷かれた部屋にローテーブルやクッションが置いてある。テレビなどの娯楽設備はないようだ。
 黒染が先に足を踏み入れた部屋には、狭い隙間を隔てて左右にベッドと勉強机が設置されている。
「こっちがあんたのだから」
 酷く冷たい声音で右壁のほうにあるベッドと机を親指で差した。
「あ……はい」
(なにか……歓迎されてないような感じ……)
 どうして良いのわからず、黒染のあとをついて元の部屋に戻る。黒染はローテーブルの前に座って本を読み始めた。恐らく華が来る前にそうしていたのだろう。
「あの……」
 この空気に耐え切れず口を開いてしまったが言うことは決まっていない。いや、聞きたいことはある。でも、言っていいものか先程から考えていた。
「なに?」
 本から目を離さずにぴしゃりと言う。
「あのっ……黒染『りょう』さん? でいいですか。ここ男子もいるんですね。女子高だって聞いてましたが」
 黒染の冷たい声音に驚いて頭の中にあったことがそのまま飛び出してきてしまった。
「何言ってんの?」
 黒染の怪訝そうな顔が華のほうに向けられた。少し間を置いてから「ああ」と小さく口の中で呟く。
「すず」
「え?」
「くろぞめすずっていうんだ、わたしは」
「…………」
 華は黒染が言ったことを頭の中で反芻して、噛み砕いた。
「女子校に男子がいるわけないだろ。しかも、男女同室とかありえない」
 嘲るように口の端を上げる。それからまた本に目を落とした。彼女の中ではこの話は終了したらしい。
 長身で手足が長いスレンダーな体格。面長で顎が尖り気味の、綺麗な顔の『少年』。華にはそう見えた。声も低めだ。それに着ている制服がスラックスだ。
 だけど。
(そう……だよね。女子高に男子がいるわけが……)
 レトロな女子高だと思ったけど、今時にスラックスの制服も取り入れているらしい。
「ごめんなさい、変なこと言っちゃって」
 初対面でいきなり失礼なことを言ってしまったと、小柄な身体を更に小さくして謝った。
「べつに」
 もうどうでもいいと言いたげな声音だった。ますますどうしていいのかわからなくなって立ち尽くす。

    
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