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第五章
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しおりを挟む翌朝二度目の鐘が鳴る。
弔いの鐘だ。
「おはようございます」
もう既に支度の整っている涼の前に恥ずかしそうに華が姿を現した。
「おはよう」
「あのっ昨夜は申し訳ありませんでした」
深く頭を下げると不思議そうな声が聞こえた。
「何が」
「いろいろと。お恥ずかしいところを」
「別に恥ずかしくなんかないだろ。あんなものを見ちゃったら誰でも取り乱すさ。慣れてない人間なら特に」
『慣れてない人間』というところにこの学院の恐ろしさが潜んでいる。華以外のこの学院の人間は皆慣れているということになるのだから。
「華、急いで支度して。今日は朝食の前に礼拝があるから」
「あ、はいっ」
慌てて隣の部屋に引っ込もうとして立ち止まる。
「あの……」
「なに?」
「『華』って……」
昨日から気になっていたけどそんな些細なことは頭の片隅に消えていた。一晩経ってまた浮かんできたのだ。
ずっと『百瀬』と呼ばれていた。それが昨日急に『華』に変わったのだ。
「ん?」
ちゃんと最後まで言わないせいで何のことだかわからないらしく、少し考える素振りを見せた。
「――ああ。嫌ならやめるけど」
「嫌なわけないです。それで大丈夫です」
本当は凄く嬉しいと思った。また少し心を開いてくれたような気がした。でもそれを素直に口に出すのは恥ずかしいような、一歩間違えれば引かれるような気がして言えなかった。
「華も。昨日はもうちょっと砕けた話し方してたみたいだけど。何で元に戻ってるの?」
(そう言えば……そうだったかも)
「あっ昨日はそのっあんなことがあってちょっと興奮してしまっていてごめんなさい」
「謝ることもないけど。別にあのままでも」
「そんなそんな」
目の前で手を振る。
「歳上ですし、この学院にも長くいらっしゃるし」
「まぁどっちでもいいけど」
必死なところが可笑しかったのかくすっと笑われた。
「皆さん坂井結依さんの為に祈りましょう」
礼拝堂の壇上で喪服を着たイヴリンが言い、弔いの鐘が鳴る中皆が両手を組み合わせて祈る。仲の良かった子もいるのか、それともその場の雰囲気でなのか啜り泣く声が聞こえてきた。
坂井結依の遺体がそこにあるわけではなかった。両足を切断され、両目をくり抜かれた遺体はどうなったのか。両親か親族に引き取られて行くのだろうか。
それとも……。
(それともって何? そんなの引き取られて行くに決まってる)
華は自分が思い浮かべようとしたことを振り払った。
具体的にどうなるとか想像もしたくもない。
しかし、無残な遺体は更に無残な末路が訪れるのではないか。そんな最悪な想像をしてしまうような雰囲気がこの学院にはあった。
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