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第六章
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「華の言う通り……ここは歪に歪んだ匣庭なんだ……」
自分が言ったことは漠然と感じたことなのだが、涼は本当に重大な何かを抱え込んでいるのではないかと思えた。
「涼さん……」
身体が勝手に動いた。
涼の背中から両手を回し温めるように柔らかく抱き締めた。自分より背の高い涼が小さく見えたような気がしたのだ。
「華」
名を呼ばれて、自分のしたことに驚いた。
(やだ……なんで、わたし)
慌てて離れようとすると、涼の手がそれを引き止めた。涼の前に回した手に涼が自分の手を重ねた。
「わたしはね、華。」
涼には珍しい疲れたような声だ。こんなに間近でなければ聞き取れないかも知れない。
「華と同じで親がいない。だからここに入れられた。それまでは普通の女子で特に男っぽく見せようと思っていたわけでもない、転入当初は皆と同じ制服を着ていた。勿論当時からスラックスとワンピースどちらも選べるようになってはいたんだけど」
そうなのか、と華は思った。今の涼はここに来てからの涼だったんだ。
もともと綺麗な顔をしている涼だ。背が高くて細身でスラックスも良く似合っているけど、ワンピースだったらまた違ってより女性的な美しさを醸し出していたかも知れない。
「わたしが今のわたしになったのはここに来てからだ。今ではもう染みついてしまったものだけどーー元々は美への歪んだ執着を持つ者への反発から始めたことなんだよ」
(美への歪んだ執着……? 誰のことを言っているんだろう)
「……華にはいつか全部話すよ、聞いてくれるなら……」
常と違う弱々しさで、その手が自分に縋りついてきているようだった。
きゅっと胸が鳴るような感覚した。
「いつか……聞かせてください」
「……ありがとう……」
しばらく二人で温め合うようにして抱き締め合った。
その日を境にシスターユリアの姿が見えなくなった。そして、もう一人姿を消した者がいる。庭師のジョンだ。
誰がいなくなろうともこの学院では誰も気に止めない。まるで最初からいなかったかのように。
初等部の子たちの世話は新たなシスターが。そして庭師の補充はなかったが別な新たなシスターが庭の花々の世話をしていた。
いなくなった生徒を埋めるように転入生が入り、いなくなった『イヴさまの館の番人』も補充されている。本当はどれだけのシスターがこの学院内にいるのかと思うくらいに。
自分が言ったことは漠然と感じたことなのだが、涼は本当に重大な何かを抱え込んでいるのではないかと思えた。
「涼さん……」
身体が勝手に動いた。
涼の背中から両手を回し温めるように柔らかく抱き締めた。自分より背の高い涼が小さく見えたような気がしたのだ。
「華」
名を呼ばれて、自分のしたことに驚いた。
(やだ……なんで、わたし)
慌てて離れようとすると、涼の手がそれを引き止めた。涼の前に回した手に涼が自分の手を重ねた。
「わたしはね、華。」
涼には珍しい疲れたような声だ。こんなに間近でなければ聞き取れないかも知れない。
「華と同じで親がいない。だからここに入れられた。それまでは普通の女子で特に男っぽく見せようと思っていたわけでもない、転入当初は皆と同じ制服を着ていた。勿論当時からスラックスとワンピースどちらも選べるようになってはいたんだけど」
そうなのか、と華は思った。今の涼はここに来てからの涼だったんだ。
もともと綺麗な顔をしている涼だ。背が高くて細身でスラックスも良く似合っているけど、ワンピースだったらまた違ってより女性的な美しさを醸し出していたかも知れない。
「わたしが今のわたしになったのはここに来てからだ。今ではもう染みついてしまったものだけどーー元々は美への歪んだ執着を持つ者への反発から始めたことなんだよ」
(美への歪んだ執着……? 誰のことを言っているんだろう)
「……華にはいつか全部話すよ、聞いてくれるなら……」
常と違う弱々しさで、その手が自分に縋りついてきているようだった。
きゅっと胸が鳴るような感覚した。
「いつか……聞かせてください」
「……ありがとう……」
しばらく二人で温め合うようにして抱き締め合った。
その日を境にシスターユリアの姿が見えなくなった。そして、もう一人姿を消した者がいる。庭師のジョンだ。
誰がいなくなろうともこの学院では誰も気に止めない。まるで最初からいなかったかのように。
初等部の子たちの世話は新たなシスターが。そして庭師の補充はなかったが別な新たなシスターが庭の花々の世話をしていた。
いなくなった生徒を埋めるように転入生が入り、いなくなった『イヴさまの館の番人』も補充されている。本当はどれだけのシスターがこの学院内にいるのかと思うくらいに。
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