はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
70 / 185
第十四章

 2

しおりを挟む
「ああ、隣にいる」
 僕はほっと息を吐いた。
 ちっと樹が舌打ちをするのが聞こえた。続いてぼそっと呟く。
「あいつら……誕生日だっつーなら、二人で出かけろよな」
「えっ? なんで? みんなでお祝いしたほうが楽しいよね」
 一人言だったのかも知れない。でも僕はそれに答えてしまった。
 上からまじっと見下ろされる。
「だって、水族館だぜ」
「うん」
「…………」
 樹が言わんとしてることがよくわからない。
「ナナ……ずっとそのままでいろよ」
「んん?」
 更にわからないことを言われるが、樹はそれについては何の説明もしない。

 よくわからないまま、僕の身体は後方へと向きを変える。人混みの中を一歩踏み出そうとして。
「ちょっ、待てっ。どこ行くんだ」
 樹に腕を掴まれ、吃驚して立ち止まった。
「どこって、大くんたちのところだけど?」
 内心どきどきしながら答える。
「逆走してどうするんだ、潰される」
 もちろん特に進行方向が決まってる訳でもないのだが、こう人が多いと流れは決まってくる。樹の言う通り、二人とは距離もあるのでそこまで行くのはかなり辛いかも知れない。
「ちょっと待って」
 僕の腕を離してスマホを弄り始める。
 ピコンっと送信すると、明のほうに顔を向け頭上で軽く手を振った。僕も同じ方向に目を向ける。明が両手で大きく丸を作っているのが見えた。

「なに?」
「昼ご」

 僕らくらいの年頃の女子の騒がしい集団に囲まれ、樹の低い声が掻き消される。
「え?」
 ちょっと背伸びして少しでも聞き取ろうとすると、樹が屈んで近づいてきた。僕の耳の後ろから囲むように手を置いて、口を近づける。
 そう、内緒話をするような仕草だ。

「ひ・る・ご・ろ・ごう・りゅう・す・る・こ・と・に・し・た」

 聞き取り易くするためか、一つ一つ区切って伝える。
 なんだか酷く擽ったい。


(いっくん、なにっ、近いよ近いよ。
 これってなんだか)


 恋人同士がするみたいだ。
 なんて馬鹿なことを考えて、かーっと顔が熱くなる。言葉で答えることができずに、うんうんと大きく頷いた。

 僕だけがそんなふうで、樹はすっと離れ先を歩き始める。
 それを見た途端酷く寂しくもなったが、冷静にも慣れた。


(ほんと、バカだな)


 
★ ★



 少し胸に残った寂しさも、二人で水族館内を回っているうちに次第になくなっていった。
 樹は相変わらず言葉少なだけど、すごく自然な形で隣を歩いていられているような気がした。
 二人で頭を突き合わせて小さな小窓を覗き込んだり、水槽の下をくぐって頭上を泳ぐ大きな魚を眺めたり。
 樹の表情は余り変わらないけど、それでも楽しんでるのがわかる気がした。

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...