はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
71 / 185
第十四章

 3

しおりを挟む
 

(そう言えば、子どもの頃……)


 小学生の頃、一緒に動物園や水族館に行ったことを思い出す。
 僕の家族と行ったり、時には樹の母親も一緒だった。あの頃から樹の父親の影は本当にない。
 樹は何処に行っても、いつもきらきらな瞳で動物や魚を見ていた。笑顔で、はしゃいで、本当に楽しそうだった。
 

(顔には出ないけど……ちょっと面影あるかも)


 そんな樹を見れて嬉しかった。



 水槽の中をふわふわと泳ぐ海月。
 ここはいろいろな種類の海月が細長い水槽に分けられているゾーン。

 海月は好きだ。
 ふわふわしている姿はなんだかとても癒される。
 ずっと見ていられる。

「…………」
「……海月好きは相変わらずか」
「えっ」
 隣に樹がいるのをうっかり忘れそうになってしまった。
 いったいどれくらいの間見ていたのだろう。
「……覚えてた……?」
「まあね」
 自分の世界に入ってしまっていたことに恥ずかしくなる。
「僕も覚えてるよ。動物園に行っても水族館に行っても、いつも一番はしゃいでた」
 恥ずかし過ぎて余計なことを口走ったかなと、ちらっと横を見る。昔のことを話すのはもしかしたら樹は嫌がるかも知れない。
「忘れろ」
 一言そう言われたが、恥ずかしいのをちょっと我慢しているような顔だった。


(ふふ。
 なんか可愛い。
 ぜったい言えないけど)


「海月……なんか、ナナみたいだ」
「え? そう?」
 

(どういうことだろ。
 言われたことないけど)


 ぽけっと樹の顔を見たままでいると、ふにっと頬を摘ままれる。
「なんか、ふわふわした感じで……癒される……」
 
 どきんっ。
 心臓が大きく音を立てる。

 すぐに手は離され、
「そういう間抜けな顔が」
 そうつけ加えられた。
「間抜けって、ひどっ」
 でも、背を向けて他の水槽に行く直前の照れたような顔を僕は見てしまった。
 
 

(何今の。
 癒されるって)


 いつも他人に対して固く閉じている心。
 表情もそれと同じくらい固く暗いに違いない。
 それに。
 仲良かった頃ならともかく、ずっと避けられ再会した頃は冷たくされていた。
 嫌われてると思ってた。
 そんな僕を、本当はそう思ってくれてたのか。


(僕……嫌われてない……?
 いっくんも、昔と同じ気持ち……?)


 じんわりと温かな気持ちになる。

 最近は少しずつ距離が近くなってきたとはいえ、まだまだ元に戻っている程でもないし樹が本当はどう思っているのかもわからない。
 未だに聞けていないこともある。
 樹が僕から離れて行った理由とか。
 嫌われていなかったとしたら、いったいどんな気持ちで、離れていったんだろう。
 それを考えるとまた重い気持ちになるけれど。


(今は、そう。
 少しずつ少しずつ。
 いっくんに近づいていきたい。
 あの頃のように。
 一番の友だちとして──)


 一番の友だち。
 そこまで考えて、ふと自分の心の中に別な感情があるような気がしたけれど。

「ナナ。カナがそろそろ集合しようって」
 
 そう声をかけられて、は掴めずに消えていった。

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...