はじまりの朝

さくら乃

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第十四章

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 もう少し二人で見ていたかったけれど。



 僕らは海月ゾーンから抜けて行った。階段を上がり、三階へ。
 そこには軽食と土産物の売店がある。

「そこで何か買って、イルカショー見ようってさ。ったく、子どもか」
 明の提案だろう。
 子どもか、という樹が、子どもの頃率先してイルカショーを見ていたことを僕は思い出した。
 くすりと笑いが零れる。
「なに?」
「ううん、なんでもない」
「変な奴」
 顔を顰めながら店内を見回す。
「まだいないみたいだな──その辺見てるか」 
「うん」
 水族館にありがちな土産物を見回りながら、そう言えば昔お揃いのキーホルダーを買ったことを思い出し、また自然と笑みが浮かんでくる。本当にありがちなものだったけど、二人で話し合って決めて買った。
 今の樹には興味なさそうなものばかりだ。
 そう思っていながら、ふと顔を上げるとレジの前に立っている樹の背が見えた。


(あれ? 何か買ったのかな?)


「ナナ」
 ぼーっと突っ立ってる僕の目の前に、小さな硝子のイルカが揺れていた。
「え? なに?」
 無表情な大男が可愛らしいイルカのストラップを持っている姿は、何処か滑稽というか可愛らしいというか。


(なにこれ? 
 どういうこと?)


「誕生日プレゼント」
「誰の?」
「おまえの」
 酷く間抜けな会話が続く。
「僕の誕生日、だいぶ先だけど」
「知ってるよ。去年のプレゼント分……じゃなかったら、クリスマスプレゼントでもいい」
「クリスマスもだいぶ前……」


(僕にプレゼント?
 プレゼントというと、あのプレゼント?)


 頭の中で自問自答。
 思いも寄らなさすぎて、妙な考えしか浮かんでこない。


(え? まさか。
 いっくんが?)


 嬉しいのが半分。何かの冗談? と信じられないのが半分。
 僕の反応の薄さに業を煮やしてか、僕の片手を掴んで自分のほうへと引く。無理矢理掌を開かせ、その上に載せた。
「俺の誕生日プレゼントのお礼でもいい──あの時は悪かった」
 本当に申し訳なさそうな声に、ふるっと首を横に振る。
「僕こそ突然押しかけてごめん。彼女いたみたいなのに」
 また余計なことを口走ってしまった。
 樹は決まり悪そうに、僕は自分の思い描いた絵に少し顔を熱くしながら、お互い無言で見つめあう。
「彼女じゃ……いや、ナナはわからなくていい」


(わからなくていい。
 そう言うけど、いっくん。
 何もわからない程子どもじゃないよ。
 僕)


 これまでも樹の女性関係の話は何度か耳にした。
 それが彼女かどうかは関係ない。
 樹の話を聞くと何故か切なくなり、重ねるごとにその度合いも増していった。
 

(どうしてなんだろう)

 
    
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