はじまりの朝

さくら乃

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第十六章

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 外に出ると、樹が玄関前に立っていた。
「いっくん」
「ナナ、こんな時間に呼びだしてごめん。それから、今日来れなくて……」
 僕は「ううん」というように、首を横に振った。
「これ」
 樹が手に持っていたものを僕に押しつける。
 ガサッとした紙袋の感触がする。
「え? なに?」
「プレゼント、用意してたんだ。明日もバイト入ってて、どうしても今日渡したかった」
 少し照れ臭い顔をしている。
「いっくん……ありがとう。えっと、虫とかじゃないよね?」
 思いもかけない言葉とプレゼントが嬉しすぎて、妙なことを口走ってしまった。
 子どもの頃の樹からのプレゼントはそんなものが多かった。今でも大事に取ってある。
「いつの話だよ、それ」
 ぷっと吹きだす。僕も一緒になって笑った。


(昔に戻ったみたいだ)

 
 懐かしさとまた一歩近づけたような嬉しさに、ぽっと温かい気持ちになる。
 が、すぐにはっとして。
「いっくん、ちょっと待ってて」
 そう言って中に引っ込んだ。
 バタバタ部屋に戻り、バタバタまた降りて来る。
 なにごと? というように見る二人の前を通り過ぎた。

「いっくん、お誕生日おめでとう。僕も用意してたんだ。今日渡せるかと思って」
 樹は黙って受け取った。
「今いっくんが何欲しいかわからなくて。たいしたものじゃないんだけど」
 

(ほんとに。
 全然たいしたものじゃない。
 捨てられても仕方ないくらいに)


「ナナ──ありがとう」
 樹はラッピング用の小さな袋を、大事そうに手の内に包み込んだ。

 


「おやすみ」を言い合って別れた。
 ベッドに腰かけて紙袋ごと掲げる。プレゼント包装されていない素っ気なさが樹らしい。
 よく知っている書店のロゴの入った紙袋。


(本……だよね? たぶん)


 雑誌くらいの大きさで少し固い感触がする。
 勿体なくてすぐに開けられず、暫くそのまま眺めていた。
 それから、ゆっくりと袋を留めてあるテープを剥がし、中身を取り出した。


(あ、海月……)


 全面が海を思わせる青色。そこに半透明の海月がふわふわと浮かんでいる。
 そんな表紙だった。
 ぱらぱらとページを繰ってみると、いろいろな種類の海月の写真が載っている。


「海月の写真集かぁ……」
 くすっと笑みが零れる。
 樹も今の僕に何をプレゼントしようか、すごく迷ったのかも知れない。
 写真集の入った書店の紙袋は、最寄りの駅ビルの中に入っているものではなく、駅から離れたショッピングモールの書店のものだった。
 わざわざそこまで見に行ってくれたのだと想像する。
 今の樹がそうやって僕のことを考えてくれていた。
そう思うだけで胸がきゅうっとする。
「いっくん……」


(大切にする……。
 今までくれたプレゼントと同じ……ううん、それ以上に)


 僕はその写真集を抱きしめた。




★ ★




 僕が樹に贈ったもの。
 ペンギンのストラップ。水族館で買ったわけじゃないけど。 
 本当はイルカにしたかったけど、お揃いみたいで嫌がるかと思って。
 それでも、なんとなく繋がりのあるものを。
 そして、それはスマホにもリュックにもついていなかった。
 でも。
 後日、樹の自転車の鍵についていたのを発見したのだった。
 
    
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