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第二十一章
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しおりを挟むこんなに間近で樹の顔を見るのは、春休みにBITTER SWEETで会った時以来だった。
あの時にも怪我の痕が気になったが、今はそれ以上に増えている。
顔には傷、痣。暑くなってきて折り曲げたワイシャツの袖から出ている腕にも。
『──通りで最近ぼろぼろだと思ったよ』
明の言ったことを思い出す。
それから、大地が見たという喧嘩の場面も。樹が一方的にやられていた──。
「いっくん、どうしてあの人たちと一緒にいるの?」
「なんでって、『仲間』だからだろ」
面倒臭そうに答える。
樹は僕の顔を見ていなかった。
入学したての頃『怖い集団』の中にいる樹に声をかける勇気はなかった。話をする機会があってもいつも冷たくされて怯んでいた。
でも今は違う。
樹の本心を知りたい。
「仲間じゃないって大くんが言ってた。一方的にいっくんがやられてたって」
「彼奴……っ」
(あ、いけない。
誰にも言うなって、大くんにラインしてたんだっけ。
もう、いいや。
ごめん、大くん)
何かを言わせる前に更に畳み掛ける。
「何かあるんじゃないかってメイさんは思ってるよ。『仲間』の振りをしなきゃいけない『何か』。僕もそう思ってるよ」
「そんなんじゃ……」
言い淀んで唇を噛み締めた。
「僕らが……危ないから、とか」
一瞬はっとした表情をしたが、すぐに何も感情を感じさせないものになった。
「もう、俺の傍に寄るな」
BITTER SWEETでは『しばらく来るな』と言った。それが『俺の傍に寄るな』に変わった。それ程状況は良くないということだろうか。
それから僕の脇をすり抜け、階段を降りて行こうとする。
僕はその背に向けて、心の底からの叫びを上げた。
それは実際に飛び出してきた声の大きさよりも、ずっとずっと大きな心の叫びだった。
「俺が守るって言った! いっくん僕にそう言ったよ!」
くるっと振り返る。
「もう! お前のことは守れない! 他に守りたい奴ができたから!」
突き放された。
(守りたいやつ……それって、『彼女』のこと?)
階段を駆け降りて行く音。
「うぁぁぁん」
僕は声を上げて泣いた。その場にしゃがみ込み、小さな子どものように。
小さい頃でさえ、こんなふうに泣いたことはなかった。
一瞬、足音が止まった。でも、すぐにまた駆け出し、次第に聞こえなくなって行く。
僕は泣いた。
泣き過ぎて目を腫らし──初めて授業をさぼった。
樹のいない新しいクラスは、僕がいなくても、誰も気にも止めない。
あとで、具合が悪くなったとでも言っておこう。
僕はそのまま家に帰ることに決めた。
★ ★
ここ数日、目に見えてしょんぼりしている僕を心配して、放課後になると明が校門まで見送ってくれる。
『大丈夫?』『駅まで送ろうか?』『なんだったら家まで』
そんなふうに言ってくれる。
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