はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
107 / 185
第二十一章 

 2

しおりを挟む

 こんなに間近で樹の顔を見るのは、春休みにBITTER SWEETで会った時以来だった。
 あの時にも怪我の痕が気になったが、今はそれ以上に増えている。
 顔には傷、痣。暑くなってきて折り曲げたワイシャツの袖から出ている腕にも。

『──通りで最近ぼろぼろだと思ったよ』

 明の言ったことを思い出す。
 それから、大地が見たという喧嘩の場面も。樹が一方的にやられていた──。

「いっくん、どうしてあの人たちと一緒にいるの?」
「なんでって、『仲間』だからだろ」
 面倒臭そうに答える。
 樹は僕の顔を見ていなかった。
 入学したての頃『怖い集団』の中にいる樹に声をかける勇気はなかった。話をする機会があってもいつも冷たくされて怯んでいた。
 でも今は違う。
 樹の本心を知りたい。
「仲間じゃないって大くんが言ってた。一方的にいっくんがやられてたって」
「彼奴……っ」


(あ、いけない。
 誰にも言うなって、大くんにラインしてたんだっけ。
 もう、いいや。
 ごめん、大くん)


 何かを言わせる前に更に畳み掛ける。
「何かあるんじゃないかってメイさんは思ってるよ。『仲間』の振りをしなきゃいけない『何か』。僕もそう思ってるよ」
「そんなんじゃ……」
 言い淀んで唇を噛み締めた。
「僕らが……危ないから、とか」
 一瞬はっとした表情をしたが、すぐに何も感情を感じさせないものになった。

「もう、俺の傍に寄るな」

 BITTER SWEETでは『しばらく来るな』と言った。それが『俺の傍に寄るな』に変わった。それ程状況は良くないということだろうか。
 それから僕の脇をすり抜け、階段を降りて行こうとする。
 僕はその背に向けて、心の底からの叫びを上げた。
 それは実際に飛び出してきた声の大きさよりも、ずっとずっと大きな心の叫びだった。
「俺が守るって言った! いっくん僕にそう言ったよ!」
 くるっと振り返る。
「もう! お前のことは守れない! 他に守りたい奴ができたから!」
 突き放された。
 

(守りたいやつ……それって、『彼女』のこと?)


 階段を駆け降りて行く音。

「うぁぁぁん」

 僕は声を上げて泣いた。その場にしゃがみ込み、小さな子どものように。
 小さい頃でさえ、こんなふうに泣いたことはなかった。

 一瞬、足音が止まった。でも、すぐにまた駆け出し、次第に聞こえなくなって行く。

 僕は泣いた。
 泣き過ぎて目を腫らし──初めて授業をさぼった。
 樹のいない新しいクラスは、僕がいなくても、誰も気にも止めない。
 あとで、具合が悪くなったとでも言っておこう。
 僕はそのまま家に帰ることに決めた。



★ ★



 ここ数日、目に見えてしょんぼりしている僕を心配して、放課後になると明が校門まで見送ってくれる。
『大丈夫?』『駅まで送ろうか?』『なんだったら家まで』
 そんなふうに言ってくれる。


 
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...