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第二十五章
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しおりを挟む樹の声は少し怒っているように聞こえた。
その言葉を頭の中で反芻する。
「言っ……」
(言ったよね? えっと、ラインがきて……あの時は……それから……)
『言った』と言おうとしてから巻きで記憶を遡る。
樹から誘われた時に、僕は『またみんなで行きたいと思ってたんだ』と送った。
(そう言えば、あの後しばらくいっくんから何も来なくて……)
それから日にちとバスの時間なんかを決めた。
「言って……ないね?」
疑問形で返事する僕に、
「言ってない」
と無愛想に言い切った。
「──俺と二人じゃ……嫌か?」
さっきまでの怒ったような声とは裏腹に自信なさげな表情で。
「今日はナナと二人で来たかったんだ」
「いっくん……」
(そんな……嬉しすぎること、言ってくれるの? もしかして……僕と二人で来たくて、わざと言わなかったとか?)
そこまで考えると少し──いや、かなり自惚れすぎだろう。
樹と僕の『想い』は違う。
樹は友だちとして幼馴染として、言ってくれてるんだ。
それでも僕はその言葉に胸が熱くなる。
僕の『想い』の全ては伝えられないけど。
「いっくんと二人が嫌なわけないよ!」
つい食い気味に言ってしまい、ぱぱぱーっと顔が熱くなる。
変に思われていないか少し不安になって樹を見る。
「良かった……」
樹の口からほっと安堵の息とともにそんな言葉が漏れた。
「四人で行くのも楽しいけど──いっくんと二人で行くのもすごく嬉しい」
樹は「うん」と照れたような顔をした。
(わぁ。何この可愛い顔は)
きゅんとしてしまう。更に。
「行こ」
と僕の右手の指先を軽く握ってきた。
きっとたいして意味はない。でも僕は『デートみたい』という言葉を胸に秘めた。
(思うだけなら……いい……よね?)
僕らはエスカレーターを昇り、順序に沿って水槽を眺めて行った。
手はすぐに離されたけど。
肩が触れ合うような位置に立ち、顔を近づけて小さな窓を覗いたりもした。
一昨年ここに来た時は、昔と変わってしまった樹といることに不安や遠慮もあった。それでも楽しかった。今日はそれ以上に楽しい。
一頻り巡ると、十三時近くになった。
「腹減ったな、ナナは?」
「うん、僕も」
「じゃあ……イルカショーでも見ながら食べるか」
「いいねっ」
これは前回の明の発案。お互いにそれを思い出したんだろう。顔を見合わせてくすくすと笑う。
売店で軽食を買うと「ちょっと待ってて」と言って樹は土産物コーナーのほうに行った。
待っている間に、一人で水族館に来た時のことを考えていた。この土産物コーナーにも立ち寄った。
あの時僕は。
ふと人の気配を感じ顔を上げると、目の前で海月がゆらゆらと揺れていた。
そう、僕の脳裏に浮かんだのはまさにこの海月のチャームだ。
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