Engagement(エンゲージ)―約束― 花色の章

さくら乃

文字の大きさ
7 / 25

7

しおりを挟む
「詩雨ちゃんとハルくんて仲良いんだね」
「え? ああ。仕事でいろいろ関わりあるからね」
 詩雨さんは俺たちが同居していることは言ってくれない。親しい間柄の人間にはもう周知のことなのだが。

「もういいです。俺帰ります」
「ハル?」
「詩雨さん、とにかく用心に越したことないから」
 やっぱり心配で彼の両肩を押さえて念押しした。



* *



 大手服飾企業『タチバナ』のブランドの一つ『Citrusシトラス』の本社。その六階で、秋冬コレクションの仮縫い作業が行われていた。

羽衣はごろもさん。俺、これが最後っすよね」
 俺の足許に屈んでいる『Citrus』のメインデザイナー・羽衣陽向ひなたに向かって言った。
 只今スラックスを確認中。
「今日はずいぶんそわそわしてるね」

(バレバレだ。俺、そんなにわかり易くなったのか?)

 過去には表情筋死んでるとさえ言われたこともある。この無表情のせいで何度喧嘩を吹っかけられたことだろうか。

「あ、わかった! 今日詩雨さん、ロケから帰って来るんでしょ」
 と隣で別のスタッフに仮縫いをして貰っているモデルの『RINAリナ』がテンション高めに訊いてくる。
「あ、なるほど。通りで。キミは詩雨さん絡みの時だけわかり易く態度に出るよね」
「え、そうですか?」
 とぼけてみせたが、たぶんそうなんだろう。
 俺にとって詩雨さんだけが特別だ。他に俺の心を揺さぶるものはなく、自然態度にも出てくるのだろう。
 そうは言っても、普段から親しい人間以外には俺の変化に気づきもしないだろうが。
「今回の映画、あのカイト・ウェーバーが主演なんでしょ。彼かっこいーよね。爽やかだし」
「……」
 聞きたくもない名前だ。
「あれ? どした?」
 無言。むっとした顔をしている自覚はある。
「まさか、詩雨さんと何か――とか、心配してるわけじゃないよね?」
「してない」
 それは自分の為にも断固否定したい。
「図星かー」
 何故かリナと羽衣さんハモる。
「いくらなんでも、それはないんじゃない? もちろん、詩雨さんは素敵な人たけどぉ」
 詩雨さんが好きで俺と一悶着あったリナがそれを言うか。



 しかし、それはあくまで俺の感なので言うことはできない。
「よし。OKだよ」
 OKが出た瞬間俺は部屋を飛び出した。
「お疲れ様でしたー」
 の言葉を残して。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...