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俺は夏生と一緒にその個展に訪れた。俺が思っていた以上に会場は賑わっている。
彼『SHIU』の作品は、学生の頃から注目を集めていた。
彼の通う大学の一階ロビーはギャラリーとして一般公開されており、学内コンクールでの優秀な作品が展示されていた。『SHIU 』の作品は必ずと言っていい程その中にあった。
彼は学校外の会場で行われる学生のグループ展にも積極的に参加していた。
今回の個展は、大学で講師をしていたプロの写真家と、グループ展の会場だったギャラリーの薦めで、在学中から計画していた。
展示されている大小様々なフォトをゆっくりと見ながら、隣に並んで歩いている夏生がそう説明してくれる。
俺は撮影された側ではあったが、『SHIU 』の作品を見たのはこれが初めてだった。
自然や街の風景が中心だった。人物もその風景の一部だ。
それらを見て、俺はまた、あの時と同じ感覚を覚えた。
初めて彼のピアノを聴いた時、きらきらと天から音符が降り注いでいるような気がした ── それと、同じような感覚。
彼の作品から、あのピアノの音が聴こえてくる。写真の一枚一枚から、優しくて愛おしい、あの音が。
ピアノを奏でていた時の彼と、きっと今も変わっていない。俺にはそう感じられた。
奥に進んで行くと沖縄で撮影された写真が飾られている。その中央に、一際大きいサイズのパネル。
緋色に染まった海。そして、緋色に染まった男の背。
俺も風景の一部だった。
( こんな風に撮られていたのか…… )
酷く圧倒される。
( これは、激情か ── )
この作品に、俺は彼の中の苦しいくらいの激情を感じた。
「これ、卒製で特賞取った作品だよ」
自分の世界に入り込んでいた俺は、夏生のその言葉で現実に戻される。彼はその作品を見ながら、眩しそうに眼を細めていた。
( ああ、そうだ。やっぱり…… )
緋色に染まるその写真をもう一度見つめる。俺はこの時、ある決意を固めた。
高揚した気持ちでそのまま進み、出口付近で一枚の写真を見つけた。それは今までで一番小さく、ともすれば見逃されてしまいそうなものだった。
しかし、それは今の俺の高揚した気持ちに影を差すには充分だった。
── 一面の緑。
景色は“あそこ”に良く似ていた。
でも、違った。
下方は水面になっているようで、そこに木々が映っている。深い緑の奥の方に、小さなふたつの人影が見える。一見緑の中に埋もれてしまって分からないくらいに、小さな影。
( これは……あのふたり……? )
いつもあの人が、辛そうに見つめていた、ふたり。
この写真からは今までで、一番綺麗で、そして、一番哀しい音が聴こえる。
彼がずっと抱え続けている哀しみに触れたような気がした。
そのことは、俺の心の中に一滴の黒い雫を落とし、奥底に沈んで、いつまでも住み続けることになった。
彼『SHIU』の作品は、学生の頃から注目を集めていた。
彼の通う大学の一階ロビーはギャラリーとして一般公開されており、学内コンクールでの優秀な作品が展示されていた。『SHIU 』の作品は必ずと言っていい程その中にあった。
彼は学校外の会場で行われる学生のグループ展にも積極的に参加していた。
今回の個展は、大学で講師をしていたプロの写真家と、グループ展の会場だったギャラリーの薦めで、在学中から計画していた。
展示されている大小様々なフォトをゆっくりと見ながら、隣に並んで歩いている夏生がそう説明してくれる。
俺は撮影された側ではあったが、『SHIU 』の作品を見たのはこれが初めてだった。
自然や街の風景が中心だった。人物もその風景の一部だ。
それらを見て、俺はまた、あの時と同じ感覚を覚えた。
初めて彼のピアノを聴いた時、きらきらと天から音符が降り注いでいるような気がした ── それと、同じような感覚。
彼の作品から、あのピアノの音が聴こえてくる。写真の一枚一枚から、優しくて愛おしい、あの音が。
ピアノを奏でていた時の彼と、きっと今も変わっていない。俺にはそう感じられた。
奥に進んで行くと沖縄で撮影された写真が飾られている。その中央に、一際大きいサイズのパネル。
緋色に染まった海。そして、緋色に染まった男の背。
俺も風景の一部だった。
( こんな風に撮られていたのか…… )
酷く圧倒される。
( これは、激情か ── )
この作品に、俺は彼の中の苦しいくらいの激情を感じた。
「これ、卒製で特賞取った作品だよ」
自分の世界に入り込んでいた俺は、夏生のその言葉で現実に戻される。彼はその作品を見ながら、眩しそうに眼を細めていた。
( ああ、そうだ。やっぱり…… )
緋色に染まるその写真をもう一度見つめる。俺はこの時、ある決意を固めた。
高揚した気持ちでそのまま進み、出口付近で一枚の写真を見つけた。それは今までで一番小さく、ともすれば見逃されてしまいそうなものだった。
しかし、それは今の俺の高揚した気持ちに影を差すには充分だった。
── 一面の緑。
景色は“あそこ”に良く似ていた。
でも、違った。
下方は水面になっているようで、そこに木々が映っている。深い緑の奥の方に、小さなふたつの人影が見える。一見緑の中に埋もれてしまって分からないくらいに、小さな影。
( これは……あのふたり……? )
いつもあの人が、辛そうに見つめていた、ふたり。
この写真からは今までで、一番綺麗で、そして、一番哀しい音が聴こえる。
彼がずっと抱え続けている哀しみに触れたような気がした。
そのことは、俺の心の中に一滴の黒い雫を落とし、奥底に沈んで、いつまでも住み続けることになった。
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