66 / 123
― 22
しおりを挟むエレベーターが十階に到着した。
この階の扉は二つ。迷いもなく奥に進む。シウさんはノックもせずに扉を開けようとしたが、アッと小さく声を上げて留まった。それから、少しだけ静かに扉を開け、そっと中を覗く。
「今日は大丈夫」
ホッと息を吐いた。
「何?」
「いや、なんでも」
ハハッと笑って、今度は思い切りよく扉を開いた。
正面は一面窓だった。青い空と、高いビルが見えている。窓際に立ち、背を向けていた男が振り返る。
「詩雨」
低いが、良く通る声が彼の名を呼んだ。
( こっちも、名前呼びかよ )
「いつも、突然だな」
彫刻のように整った顔に、やや優しげな表情を滲ませている。
「いやぁ、今日は誰もいなくて良かったよ」
シウさんはそう言いながらその男に近づき、男の方も二、三歩歩み寄る。
「なんの話だ」
「おまえのキスシーンなんか、見たくねぇつうの」
( ……? )
言っている意味は良く解らないが、ふたりがかなり親しいのは感じられた。
シウさんは彼のすぐ傍らに立つ。ふたりが並んでいると、そこだけが特別なオーラを放ってるようだ。
なんとなく入って行けず、俺はドアの傍に立ったまま、それを見ている。
シウさんは割りと背の高い方だが、この男はそれをかなり上回っている。俺と同じくらいかも知れない。
三つ揃いを着こんだ肉体は、モデル並みに均整がとれている。
年齢は、シウさんよりも少し上のように見えるが……。
( あれ、この男、もしかして…… )
確信はないが、この男について、ひとつ思い当たることがあった。
ふたりはかなり近い距離で話をしている。時折男は、シウさんのさらりとした黒髪に指を入れる。ごく自然に。
( なんだ、あれ )
俺はムッとした。ずっともやもやしていた胸の内は、それを通り越し、どんよりと黒い雲に覆われる。
「ハル」
不意に名前を呼ばれる。
「あれ、なんでそんなことにいるの?入って来なよ」
彼はまるで此処が自分の部屋でもあるかのように言い、手で招き入れる仕草をした。
俺は返事もせずに中に入り、静かに扉を閉めた。呼ばれるまま彼らの方に歩を進めるが、少し距離をあけたところで、立ち止まる。
「夏生のとこのモデルで、『ハル』だよ」
簡単に紹介されたので、
「こんにちは」
とりあえず挨拶をした。この男に対して、他に何を言っていいのか分からなかった。
男は少し近づいてきて、真正面に立ち、数度上から下まで視線を走らせた。
またか、と思いながらも、俺はその間、男の顔をじっと観察した。
( やっぱり、そうだ )
あの頃も大人っぽい顔つきをしていたが、今はそれに加えて、落ち着きや貫禄が滲み出ている。
0
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる