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しおりを挟む( ……誰かを、イメージ。繊細……儚げ…… )
これは、シウさんでは、ない。
俺はそう思った。
シウさんも、細身で、繊細な部分もあるのは知っている。でも、彼にはそれを覆い隠す、凛としたものがあり、そして、誰をも魅力するような華やかさがある。
橘冬馬の心に住んでいるのは、違う人 ── たぶん、あの写真に一緒に映っている少年。
シウさんは、あの頃の“想い”を叶えてはいなかった。
それでも、俺の心は晴れない。黒い雫は、変わらず、少しずつ少しずつ俺の内に溜まっていく。
何故なら、叶わなくても、それでも、シウさんは、あの男を想っているから。そのことを、全く想像させない表情の下で、ずっとずっと想い続けているから。
それを知ってしまった俺は、やっぱり、自分の気持ちを隠し通すしかなかった。
**
コレクション用の衣装が全て出揃い、会場内外に飾られる大型パネルと、パンフレット用の写真の撮影に入る。
シウさんとの撮影で、スタジオを使うのは初めてで今まで以上に緊張したが、あの瞳に見つめられていると思うと、胸が熱くなった。
俺の撮影が終わると、また別のモデルの撮影に入る。
それが、彼の仕事だ。
仕方のないことだ。それでも、俺は、それが嫌で堪らなかった。シウさんが、別の誰かを見つめることが、辛くてしようがなかった。
もっともっと、俺を見てほしい。
無に近い表情の下で、そんなことを考えているなんて、誰も思わないだろう。いや、気づかせてはならない。勿論、シウさん本人にも。
全ての撮影を無事に終え、あとはリハーサルと最終調整のみとなる。
そのタイミングで。
「あー、やっぱり、何処か行くかー。前に撮影したとこがいいかな。沖縄の。今度はハルをメインにするから、また違ってくると思うよ」
シウさんが、そう提案する。わくわくした顔が可愛くて、沈みがちだった俺の心も浮上してくる。
「打ち合わせをしよう」
そう約束していたの日の前夜、彼から時間をずらして欲しいと連絡が入った。
打ち合わせ場所は、シウさんの仕事場兼自宅だ。ここへ来るのは初めてで、事前に住所を送って貰い、ルートはスマホで調べた。洒落た住宅街の一角にある、やっぱり洒落た三階建ての建物だ。
迷うことも考慮して早めに家を出たが、逆に時間より早く着きすぎてしまった。
シャッターの閉まったガレージの前に、バイクを置く。
念の為、インターフォンを押してみることにした。目隠しの壁の内側に入ると、玄関の扉には『STUDIO SHIU 』というプレートが下がっていた。
インターフォンを押してみたがやはり応答はなく、玄関脇の壁に凭れて待つことにした。
スマホを出して、とりあえず連絡関連を確認する。
(沖縄か……)
六年前の突然の旅行を思い出しながら、あの時訪れた場所を検索する。
前回は二泊三日だったが、今回は一週間だ。初の大仕事後ということもあって、社長提案の休暇も兼ねた日程に、シウさんも乗ってくれた。勿論、今回の旅費は事務所持ちだ。
( あん時、いろいろヤバかったな…… )
今回はふたりきりの時間が長すぎる。前回みたい景色の一部ではない俺自身を見つめられ続けたら……。
俺は、自分を抑えきれるだろうか。
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