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ハルの写真集の依頼を受けてから、四月五月は近場で撮影をしていた。
撮影といっても、最初は気負わずラフな感じで。「さあ、撮影をするぞ」という形を取ると、まだオレがダメなような気がしたから。
卒製の時のように。歩きながら話ながら、自然に。そうしていても、最初の頃は指が動かなかったり、ブレたりしていた。
間近でハルを撮ることによって、気持ちが昔に ── 冬馬に帰るかも知れないという心配は、杞憂に終わった。
そんなことはなかった。やはり、冬馬への想いはもう形を変えていたんだ。
だだ、この仕事がまた上手くいかないのでは、という不安はまだ心中にあり、それがオレの指を鈍らせていた。回数を重なることでそれを克服し、それがまた自信にも繋がり、次第に思うようにハルを撮れるようになっていった。
六月の初め。
ハルはCM撮影の為、パリへ。
そして、オレも彼の仕事が終わる頃に日本を発ち、パリで合流した。
「シウさん、なんか、無理してませんか?」
もうずっとテンション高めのオレに、ハルが心配そうに言う。
「ムリなんか、してないよ」
オレは唇を尖らせた。
その時、風が吹き、オレの項を撫でた。
「さむっ」
東京に比べ、やや気温が低め。川からの風は少し冷たかった。
「まだ、ちょっと慣れないかな。なんかスースーしちゃって」
オレは自分の項に手を当てた。
記憶にある頃から、オレの髪の長さは常に肩よりも下だった。小学四年生になってからは、冬馬から貰った紅い組紐で、その髪を結っていた。ライトブラウンの髪を黒に染めていた時も。もう、ずっと長いこと。
一年半前、髪を染めるのを止め、黒のカラコンも外した。次第に地の色に戻りつつあった間も、癖のようにその紅紐をつけていた。
それが良くなかったのか。そのせいでハルは、オレの中に冬馬の存在を感じ、まだ踏み込めないでいる部分があるのも知れない。
オレはこの一年半の間、自分の中で何度もけじめをつけ、ハルへの想いを確認してきた。
天音に真相を聞く。ピアノを再び弾き始める。カメラを構え、四年前にやり遂げられなかったハルの写真集に携わる。これは今度こそやり遂げられると確信している。
そして。
この旅行は、最後のけじめだった。
パリで合流した時の、ハルの驚いた顔。
かなり見物だった。
オレは思い出して、くすっと笑う。
オレは長かった髪を、項が見えるくらいバッサリと切ったのだ。
もちろん、紅紐で結うことは、もうない。
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