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しおりを挟む「フィンは……怪……我を……?」
視界が歪むなかで、やっとそれだけを口にする。
「ああ……かなり、酷い怪我だ、獣にでも噛み千切られたみたいな……」
噛み千切られた……女の子……。
脳裏に浮かぶのは……。
恐怖に見開かれた瞳。蒼白な顔。夥しい血。衣服も肉も喰い千切られ……。
「フィンは、助かるの?」
何処か遠い世界の出来事のように、口だけが動く。
「…………お医者様は、今夜が峠だと…………」
フィン……ボクの可愛い従妹。
いなくなってしまうんだろうか……。
脳裏で、血塗れの女の子は消え、無邪気に笑うフィンに変わる。
それを掻き消すように。
「あの男がやったんだ! フィーネもっ! イオもっ!」
カイトの背後から狂ったような声がする。
「イオはフィーネを見つけて家まで運んできてくれただけだろ。第一、あの子の傷はどう見ても、人間につけられるものじゃないよ。あれは獣の牙で裂かれた傷だ」
娘を思えば、そんな心境でもないだろう。それでも静かな声音で妻を諭す。
しかし、彼女は更に言い募る。
「だからじゃないのさっ! あの男がやったんだっ! あの男は、人間なんかじゃないっ。“悪魔の谷”の魔物なんだよっ」
「リィナ! もういいから。フィンのところに戻れ」
カイトは、傍にいた数人の男たちに託すように、妻のぐいっと背を押した。
「あたし、知ってんだよ。あの男の髪が真実は銀の髪だってこと! それに、あの開かない瞳が銀色だったこともね。リリカが言ってたんだからっ。あははははーっ」
狂人のような笑い声。
男たちに両腕を取られながら遠ざかっていく。
「きっと、リリカもあの男にーぃ」
その場には、カイトとトールだけが残った。
「悪かったな。リィナが変なこと言って」
「伯母さんが言ってた……イオのこと……母さんのこと……」
「トール」
呆然と呟くトールの肩に、ぽんっと慰めるように両手を置く。
それに弾かれたように顔を上げ、カイトを見つめる。
「イオはどうしてこんな村外れに住んでるの? どうして村の人たちはあんな眼でイオを見るの? どうして父さんは、母さんの話を一度もしないの? それって伯母さんが言うようにっ」
どうして? どうして? どうして!!
「莫迦言うな、そんな筈ないだろう」
一気に疑問を投げつけようとして、途中で遮られた。
「イオが“悪魔の谷”の魔物だなんて。そんなこと誰も思ってやいないさ」
そう……? そんな筈、ない……?
「じゃあ、どうして……」
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