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リボンを握った手の甲にぱらぱらと水滴が落ちた。
そうなって初めて彼は自分が涙を流していることに気づく。
オレ……なんで、泣いてるだ……。
指を当てると頬は濡れていた。
何処か遠いところから、この哀しみや切なさはやってきて、今の自分には訳がわからない。
つんつんと頬を突かれた。
鹿の鼻先だった。膝の上には兎、肩の上には栗鼠。
「なんだ、お前たち、慰めてでもいるのか?」
ぐいっと涙を拭うと、訳のわからない切なさも霧散した。
トールが谷に来ると動物たちは、決まってこうやって集まってくる。
オレは“狩る者”なのに。
彼らはオレに優しい。
勿論無闇に狩っているというわけではない。生活の為の最低限の狩りだ。
それでも、だ。
彼らにとっては、そんなことは全く関係ない。
自分の命を守っていい。オレの傍から逃げていいんだ。
なのに。
こうして傍にいてくれる。
オレが狩る時には、まるでその身体を差しだすように……。
…………。
…………。
そういえば、そんな光景を前にも…………。
またひとつ新しい、ほんの小さな記憶の破片が生まれた気がした。
「ここは──いいところだ」
雄々しい岩肌も、綺麗な水の流れる川も、その両の岸の緑と小さな花々も、それら全てが合わさって美しい景色となっている。
「それに、お前たちもいるしね」
動物たちに笑いかける。
そうやって笑うと少年の頃の面影が残っている。しばらく、村の誰も見ていない笑顔だった。
「“悪魔の谷”とか、なんだってそんなこと言われてるんだ。あの伝説のせいか。銀の魔物なんて、本当にいるわけないのになぁ」
銀の魔物なんて、いるわけ…………。
夜半に見た幻。
銀色の影が…………。
それに……父さん。
叔母さんが言っていたこと。
父さんは、“銀の魔物”に喰い殺されたって。
それから、フィンも。
フィンは、六年前獣に襲われたような怪我を負い、生死をさ迷った。それを、母親は“銀の魔物”の仕業だと言った。
けして、本当に見たわけではない。
森には危険な獣もたくさんいる。それらに襲われても、“銀の魔物”の所為する者は村の中にも多くいる。
「いやいや、そんなことある筈ない。だいたい“銀の魔物”っていったいなんなんだって、話だよなぁ。森にいる獣の毛が何かの加減で銀に見えたってだけのことだろ」
動物たちにそう話かけながらも、何処か心に引っ掛かっていることを、トール自身気がついていなかった。
動物たちに別れを告げ、険しい斜面を登って行く。小回りの利く兎や栗鼠が数匹ついて来ていた。
森の入り口が見える。そこまで来て振り返った。
谷が遠くまで見渡せる。
トールが先程いた川岸から離れた所々。緑の中に瑠璃色の……群生。
「なに、あれ……あ…………」
ふと足許が眼に入り、踏みつけてしまいそうな場所に、一輪の花。
瑠璃色の、小さな。
「こんな花、今まで見たことない」
そう、あの月下の幻以外では。
「もしかして、あの緑のなかにある瑠璃色は……」
懐かしい……。
ぽっと、花が咲くようにそんな想いが生まれた。
そうなって初めて彼は自分が涙を流していることに気づく。
オレ……なんで、泣いてるだ……。
指を当てると頬は濡れていた。
何処か遠いところから、この哀しみや切なさはやってきて、今の自分には訳がわからない。
つんつんと頬を突かれた。
鹿の鼻先だった。膝の上には兎、肩の上には栗鼠。
「なんだ、お前たち、慰めてでもいるのか?」
ぐいっと涙を拭うと、訳のわからない切なさも霧散した。
トールが谷に来ると動物たちは、決まってこうやって集まってくる。
オレは“狩る者”なのに。
彼らはオレに優しい。
勿論無闇に狩っているというわけではない。生活の為の最低限の狩りだ。
それでも、だ。
彼らにとっては、そんなことは全く関係ない。
自分の命を守っていい。オレの傍から逃げていいんだ。
なのに。
こうして傍にいてくれる。
オレが狩る時には、まるでその身体を差しだすように……。
…………。
…………。
そういえば、そんな光景を前にも…………。
またひとつ新しい、ほんの小さな記憶の破片が生まれた気がした。
「ここは──いいところだ」
雄々しい岩肌も、綺麗な水の流れる川も、その両の岸の緑と小さな花々も、それら全てが合わさって美しい景色となっている。
「それに、お前たちもいるしね」
動物たちに笑いかける。
そうやって笑うと少年の頃の面影が残っている。しばらく、村の誰も見ていない笑顔だった。
「“悪魔の谷”とか、なんだってそんなこと言われてるんだ。あの伝説のせいか。銀の魔物なんて、本当にいるわけないのになぁ」
銀の魔物なんて、いるわけ…………。
夜半に見た幻。
銀色の影が…………。
それに……父さん。
叔母さんが言っていたこと。
父さんは、“銀の魔物”に喰い殺されたって。
それから、フィンも。
フィンは、六年前獣に襲われたような怪我を負い、生死をさ迷った。それを、母親は“銀の魔物”の仕業だと言った。
けして、本当に見たわけではない。
森には危険な獣もたくさんいる。それらに襲われても、“銀の魔物”の所為する者は村の中にも多くいる。
「いやいや、そんなことある筈ない。だいたい“銀の魔物”っていったいなんなんだって、話だよなぁ。森にいる獣の毛が何かの加減で銀に見えたってだけのことだろ」
動物たちにそう話かけながらも、何処か心に引っ掛かっていることを、トール自身気がついていなかった。
動物たちに別れを告げ、険しい斜面を登って行く。小回りの利く兎や栗鼠が数匹ついて来ていた。
森の入り口が見える。そこまで来て振り返った。
谷が遠くまで見渡せる。
トールが先程いた川岸から離れた所々。緑の中に瑠璃色の……群生。
「なに、あれ……あ…………」
ふと足許が眼に入り、踏みつけてしまいそうな場所に、一輪の花。
瑠璃色の、小さな。
「こんな花、今まで見たことない」
そう、あの月下の幻以外では。
「もしかして、あの緑のなかにある瑠璃色は……」
懐かしい……。
ぽっと、花が咲くようにそんな想いが生まれた。
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