白銀(ぎん)のたてがみ

さくら乃

文字の大きさ
18 / 40

18

しおりを挟む
「見たことないのに、懐かしいってなんだよ」
 ははっと乾いた笑いを漏らす。
「でも…………」


 何故こんなにも“悪谷”に焦がれていたのか。
 何故毎日のようにここにやって来るのか。
 

「まるで、何かを探しているかのように……」


 いったい何を……?

 伝説の“銀の魔物”? 父親を喰い殺したという? かたきを討つ為に……とか?

 まさか。


 何度も繰り返してきた問いに今日も答えは出ず、身を翻し、森のなかへと入って行った。
 

★ ★


「なに? なんか用?」

 ここ数日、気分は下がり加減だった。
 様々な想いが渦を巻いて、谷に行っても草原に寝転んで物想いに耽るばかり。

 フィンは谷に行く前も、出かけるトールを少し離れたところから、物言いたげに見つめていた。
 そして、夕闇迫る今も。
 何もしていないと言うのに、疲れた身体を引き摺るようにして帰って来たトールの前に現れた。
 フィンが嫌いなわけではない。一緒に住んでいた頃は、本当の兄妹のように暮らしてきた。
 村外れの家に住むようになってからは疎遠になってしまったが、今も可愛いと思っている。
 しかし今のトールは機嫌の悪さを隠すこともできず、きつく言い放ってしまう。
 フィンの方に身体を向けたが、近づきはしなかった。
 彼女はその声にびくっと身体を震わせた。それでも逃げ帰ることはせず、何事かを考えている素振りをしている。

「用がないなら帰んな。もう夜になる」

 フィンを思いやる言葉であっても口調は厳しい。拒絶するようにさっと背を向け、家に入ろうとする。

「あのね!」

 扉が閉められようとした瞬間。
 怯えて小さくなっていたとは思えないくらいのはっきりとした声。
 トールが動きを止めたのがわかると、ぱたぱたと小走りに近づいた。
 扉で半分隠れた背中に向かって。

「私、思い出したの。そしたら、みんなの記憶がおかしいって気づいたの」
「…………」
「貴方もよ、トール」
「…………なんの……こと?」

 どくんと心臓が鳴る。


 聞いちゃいけない気がする。
 聞かなきゃいけない気がする。


 相反する予感。

「私たち、一緒に暮らしたことなんか、なかった」
「え?」
「トールのお母さんはいなかった。でも、お父さん──とふたりでずっと暮らしていたのよ」
「何言って──そんな筈ないだろ」

 心臓がばくばくいっている。平静を保つ為に冷たい笑みを浮かべた。

「一緒に暮らしていたイオが、トールの本当のお父さんかどうか、判らないけど……お母さんがっていつも言っていたから…………」

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

処理中です...