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しおりを挟むギャン。
ギャウン。
自分の周りで獣たちの声が響く。
トールも矢を放ったが、それは一本だけ。後が続かなかった。
それなのに、倒れた数はそれ以上。
銀の獅子だった。
彼がトールに飛びかかる獣を全て薙ぎ倒す。噛み千切り、爪で切り裂く。
ガウオォォォ
獅子が遠吠えをすると残りの獣たちも散っていく。
今は、獅子とトールだけが対峙していた。
なんで。助けて……。
いや、違うのか。
自分一人の獲物にする為に?
トールは再び弓をつがえようとしたが、遅かった。それよりも早く獅子が飛ぶ。
スローモーションのように、頭の上を通り過ぎる獅子の腹を仰ぎ見る。
そう……。こんな光景だ……。
遠い昔、見た……。
そして。
血塗れの……。
頬を撫でるように風を感じ、それから鋭い痛みを感じ……。
ふぁさりと肩に髪がかかった感触。咄嗟に自分の髪を掴んだ。
リボンが。
ぱたっと背後で着地音がして振り返る。
自分の髪を結んでいた筈の銀のリボンを、獅子がその口に咥えていた。
それを見た途端、かっと頭に血が上った。無謀にも自分よりも大きな獣に、手を伸ばした。
「返せ! それは、イオのだ」
そうだ。イオのだ。
あの夜、イオがボクの手に握らせた。
『──これは、私のだ』
静かな。
けして、銀の獅子の声帯を通った声ではない。
頭に、直接響くような。
「な…………っ」
頭のなかに話しかけられことにも、その言葉そのものにも驚く。
この声……。
泣きたいくらいに、懐かしい……。
白銀の獅子は、その身を翻し、森の奥へと消えて行った。
★ ★
きらきらと白銀に輝く道筋を辿る。これが谷に向かう道なのだと、何故だか信じられた。
重なり合う木々の隙間を縫って、淡い光が漏れてくる。
瑠璃色の。
それに誘われるように足も速まる。
森を抜けた途端、ゴオォォォと強い風が吹く。
何かがトールの周りを取り巻き、時折痛いくらいにぶつかってくる。
先が見えず、視界の全てが瑠璃色だった。
それが瑠璃の花だとわかったのは、風が治まってからだ。
一面の瑠璃色。
「そんな…………」
昼間は、こんなんじゃなかった。
ほんの、一時で?
いつものように、昼間も谷を訪れた。ただ、寝転んで思い悩む為だけに。
その時見たのは、相変わらず緑の間に見え隠れする瑠璃色だけだった。
今は──谷の全てが瑠璃色だった。
甦った記憶よりも更に。
他に何も見えないくらいに埋め尽くされ、空気の色さえ違って見える。
匂いが……。
あの頃、匂いはそれ程強く感じていなかったように思う。
それなのに。
酔ってしまいそうな程に……甘い。
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