白銀(ぎん)のたてがみ

さくら乃

文字の大きさ
23 / 40

23

しおりを挟む


 足に絡みつく程に繁った瑠璃の花。谷全体を覆い尽くすような甘やかな香り。
 そのなかを歩き、切り立った場所から見下ろすと、川の水すら見えないその場所に、白銀の輝きを見た。
 

 夢のなかで……。
 夢か、現実かもわからないあの夜の。
 あの場所で、白銀の獅子と出逢った……。


 トールはその輝きに向かって走った。険しい岩肌にも瑠璃の花が繁っていて、元の形をとどめていない。
 途中何度も踏み外しそうになったり、転んだりしながら、辿り着く。
 彼が近くまで来たのに気がつくと、前足を伸ばし座っていた獅子が、ゆったりと立ち上がる。
 銀のリボンは、彼の足許にあった。
 トールは背から一本矢を抜き取った。

「──を、噛み殺したのは、お前だな」

 甦った、もうひとつの記憶。
 それは、ずっと幼い頃の。

 小さな自分の頭上を飛ぶ銀色の獅子。
 ギャッというような、表現しがたい悲鳴。
 振り返ると、仰向けになっている男を獅子が踏みつけにしていた。
 男のアイボリーの服が紅く染まっていく。

 
 男──父さんの顔は、とは似ているようで違っていた。


「そうだ。お前の父親を殺したのは、私だ──お前は、どうする?」
 頭のなかに、静かな声が響いてくる。

『次に出逢った時……お前はどうするだろう』

 夢の、また夢のなかで囁かれた……。
 謎かけのような言葉。
 今ならその意味が解る。
 

 どうする?
 どうする、だって?
 
 
 「こうするさ」

 矢をつがえ、キリキリと引く。
 銀の獅子に向かって。

 白銀の獅子は、静かにそれを見ていた。
 まるで、死を受け入れるかのように。


 どうする?
 
 どうする?


 頭のなかで木霊する。
 もう既に引き切った状態だというのに、矢は放たれない。
 ふるふると両手が震える。
 そして──矢は、全く違う方向へと放たれた。
 弓を手にしたまま、だらりと両の腕を下げた。


 やっぱり、無理だ……。


 が甦った時から、迷いはあった。
 今世こんぜで、人間ひととして、父親のかたきを討つか。
 それとも──。

「できないよ、だって」

 ずっと幼い頃なのに、鮮明に浮かぶ。
 森のなかで何度か巡り合った。
 優しい青と銀の瞳。
 温かな白銀のたてがみ。


 白子は──だったんだ。
 今眼の前にいる、彼も。

 ──ボクがイオを殺せる筈がない。

 それに──。

 
 それよりも、もっと、ずっと、遥か遠い過去の記憶。


 ボクラハ……フタリデ……。

 
 白子は、ボクをどうするだろう。


 項垂れながら、そっと視線を彼の方に向けると、獅子は今しも飛びかかろうとしているところだった。

「!!」

 白銀の軌跡を残しながら跳躍する。

「イオ……っっ」

 トールは仰向けに地に倒され、その身体全体で、獅子の重みを感じた。

    
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

処理中です...