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しおりを挟む重なり合った花の絨毯で、倒れ込んでも痛くはなかった。
「イオ……」
再び会えたことの喜びと、噛み殺されるかも知れないという相反した想いで、胸がきゅうと痛む。
恐怖ではなく、哀しみ。
つんと鼻の奥が痛くなり、涙がぽろりと零れる。一度流れた涙は止まらず、頬を濡らしていく。
眼の前では、獅子が大きな口を開け、紅い舌を覗かせていた。
ぺろり。
ざらざらした湿った舌の感触。
ぴりっと頬が痛み、傷ついていたことを思い出す。
顔全体を何度も舐めまわされ、懐かしい記憶が甦る。怪我をすれば舐められ、涙を流せば舌で拭われる。
そんな懐かしい記憶。
舐められているうちに不思議と痛みが引いていくような気がしたが、懐かしいという想いに涙は流れるばかりだった。
全て受け入れよう……。例え、噛み殺されたとしても。
静かに眼を閉じれば、強ばった身体から力が抜けていく。
胸の辺りに置かれた前足の重みで、このまま息が止まってもいいと思った。
…………。
…………?
…………??
いつまで経っても、ただひたすら舐められているだけで、噛みつかれもしない。
既に頬の傷の痛みもなくなっていた。
涙も落ち着いてきた頃、頬に当たる舌の感触や身体に感じる重みが変化したことに気がつく。
「やっと、涙は止まったか」
頭に直接ではなく、ちゃんと声帯を通ってきた声がした。
びっくりして眼を開けると、そこに白銀の獅子はいなかった。
──白銀の髪に、銀と青の瞳。毛の代わりにゆったりとした、白い衣服を纏っている。
「イ……オ?」
イオとはまた少し違って見えた。
髪は前よりも長く、波打つような感じ。
それから。
もっと……。
そう、神々しいような。
じっと見詰めていると、彼が苦い笑いを口許に昇らせた。
「気持ち悪いか、禍々しい色だ。まだ、完全に元の“形”に戻れていない」
銀の瞳を片手で隠す。
トールは、激しく顔を振った。
「気持ち悪くなんか、ない。綺麗だ。その瞳も、髪の色も」
「そうか……」
苦笑が柔らかな笑みに変わり、宝石のような美しい瞳に愛おしげな色を湛える。
その表情に堪らなくなり、トールは彼の頭をぎゅうと掻き抱いた。
「イオ、イオ。どうして、どうして、ボクを置いて行ったのっ」
止まっていた涙がまた溢れでる。
イオはその重みをトールの上に乗せたまま、金色の髪を柔らかく梳いた。
「大きくなったな……大人になった。髪も伸びた……」
六年という月日は、少年が大人になるくらいには、長かった。独りで生きた日々を思い返し、切なさや怒りが込み上げてくる。
「なんで、なんで、ボクの大事な想い出消したりなんかしたんだ……っっ」
「…………………………」
懐かしく愛おしい男の頭を掻き抱いていた腕が優しく解かれ、自分の上からその体温が遠退いていく。
それを拒絶と捉え、切なく感じていると、ふいに強い力で引っ張りあげられる。
ふわっと身体が浮いたような感覚がして、気づけばイオの膝の上だった。
「長い話になる────」
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