白銀(ぎん)のたてがみ

さくら乃

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「この花は、私たちが死したのち、その亡骸が土に還るまで傍らで咲いていた。私たちの瞳と良く似た色の花。これは私たちの愛のあかし

 鼻先に甘い甘い香り。
 その香りは瑠璃の谷全てを包み込んでいる。ここに来た時から感じていた。

「獅子の姿の私と幼いお前が出逢い、そしてお前が私を想ってくれた。その時から少しずつ咲き始め、お前と離れるまでには谷全体が瑠璃色に染まった」

 トールの唇を擽るように花を揺らす。
 まるで、口づけ。

「お前の記憶を封じた為、いったん全てが無になってしまったが……わかるか? 今はあの頃よりもずっとずっとたくさん咲いてることを」

 こくりと頷くが、を考えると気恥ずかしさも感じる。


 それって……イオのことを、すごくすごく。前よりもずっと想っているってこと……だよね。


「この花はこんなに雄弁にお前の気持ちを語っているな」

 イオは手にした花をそっと横に置いた。

「イオ……」
「お前のその想い、もっと私に感じさせてくれないか?」
「……どう……やって……?」
「そうだな……」

 銀と青の両の瞳が甘さを湛える。

「まずは……お前からの口づけが欲しい」
「……………………」
 一瞬意味がわからず、その言葉を頭で反芻する。

 
 お前からの口づけ……。
 え…………。
 
 
 瞬く間に顔が朱に染まる。

「駄目……か?」 
 今までに見たことがないような、ねだるような表情に、胸がどくんと音を鳴らす。
「だめ……じゃない。でも……」
「でも?」
「んー」


 口づけなんて……したことない……のに。


 イオの薄い、綺麗な形の唇を見つめながら、少しずつ顔を近づけていく。が、ほんの僅かな間を空けてぴたりと止まった。
 歯が震えカチカチと音を鳴らしている。


 む……むり……。


 ぎゅっと眼を瞑り、勢いで唇を合わせた。
「……っつ」
 合わせたままでくぐもった呻きが漏れ、慌てて離れる。
「イ、イオ?」
 見れば、イオの唇から血が滲んでいた。勢いをつけすぎた。しかも唇を閉じていなかったのだろう。歯で唇を傷つけてしまったらしい。
「ご、ごめん。痛い……よねっ」
 イオは妖艶に微笑わらいながら、ぐっと唇を拭った。
は痛くないだろう?」
 そう言って、また、鎖骨の窪みにある痣を触った。

 また、そこが熱くなった。
 その時は眠っていた筈なのに、起きていたかのように様子が思い浮かぶ。


 獅子じゃない……今のイオの姿で……。
 噛まれて、舐められて……。


 どんどん身体が熱くなっていく。
 今まで感じたことのない感覚が、トールの肉体からだの奥底で芽生え始めていた。

    
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