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しおりを挟むフィンが……鍵。
思いも寄らないことだった。
「ひとつ目の鍵は、お前が贈ってくれた銀のリボン。あの夜にお前の手に握らせた。私を感じ取ってくれれば……と。そして、ふたつ目の鍵がフィーネ。彼女の記憶を戻した──あの娘ならきっとお前に伝えるだろう。それが引き金になればいい──そう考えた」
自分を消耗させてまでフィーネを助けたのは、トールが彼女を可愛がっていたからだ。彼を哀しませたくはなかった。しかし、頭の片隅には、この“鍵”の役割になって貰おうと思っていたのかもしれない。
これは、トールには言えないことだった。
「──そうして、その考えは見事に当たり、お前は記憶を取り戻した、私のことも──本当の父親のことも……。引き摺られるように、前世の記憶まで甦るとは思っていなかったが……」
ふうと一息つくと、トールの金色の髪がふわりと舞い上がった。
「トール、これが、全てだ」
長い長い話の終わりだった。
★ ★
「イオ……」
イオの両脇に手をつき、ふたつの身体の間に隙間を作る。上からイオの顔を覗き込んだ。
「イオは……人間になったの?」
『恐ろしい獣の姿であっても、真実彼を想う心』
それがあの神の呪詛を解く。
ならば、とトールは思った。
「いや……この姿は、どうやら、あの忌々しい神の写しらしい。それに、片側だけが銀色のこの瞳は、人間ではない証拠だ」
前世での髪の色は、トールと同じ金色だった。今はあの神と同じ白銀で、獣の姿もそれに倣っていたのだろう。
そして、銀の瞳には、神の力が宿っている。
まだ、人間ではない。
「どうしたら、人間になれるんだろう。──ううん、人間でなくてもいいんだ、一緒にいられるなら」
「いや……これからも共にいる為に、私は人間に戻りたい」
「どうしたらいい? ボクは力になれる?」
その問いににこっと微笑む。
「ああ、なれるさ。いや、お前でなければならない」
「どうしたら……」
「もっと、私を想ってくれるといい」
その答えに、トールは首を傾げた。
「もっと……。充分、イオのことを想っているよ。ずっと、ずっと好きだったんだ。ボクにだけ見せてくれる優しい笑顔に、いつもどきどきしていた。それが何故なのかわからなかった。でも、今ならわかるよ。イオが好きだったから! 父親としてじゃなく」
「ありがとう──わかっていたよ。でも、お前の口から聞きたかった」
ふいに、トールは唇に何が当たるのを感じた。
それは、一輪の瑠璃の花。
イオが手にし、トールの唇に触れさせた。
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