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第六章
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しおりを挟む──秋穂が登校することなく、冬休みに入った。
クリスマス・イブだというのに、華やかな飾りも豪華なディナーもなく、ただささやかにカットしたケーキがふたつ、テーブルの上に載っていた。父親に謹慎を言い渡され、やはり登校することなく冬休みに入った冬馬に、詩雨が持ってきた差し入れだった。
毛足の長い肌触りの良いラグにふたりで座ったまま、だいぶ長いこと黙り込んでいた。
テーブルの上のケーキも手つかずのまま。
「秋穂と……アイツ……」
詩雨が沈黙に耐えかねたように口を開く。
「今入院してるって、話だよ」
あの後、天音と朱音が支配人を連れてきた。大事になることを考え、救急車は呼ばず、天音の車で病院に運ばれた。天音の友人の一族が経営している病院で、秘密はすべて守られる。
大人たちの間でどんなやり取りがあったのか、表向きは話題にも騒ぎにもならなかった。
ただ冬馬は、三学期が始めるまで外出禁止。秋穂とは連絡を取ろうとしても、携帯電話も繋がらなかった。
「あの……さ、あのふたり……って、さ……」
秋穂と壱也。ふたりの関係についてはなんとなく察する。下種な話題だとすぐ後悔した。
「ごめん、なんでもない」
話を断ち切って、気まずげな表情で再び黙り込む。
次に口火を切ったのは冬馬の方だった。
「 ──彼奴が一方的に。あの家に引き取られてから。アキは逆らえず、心を殺して遣り過ごすしかなかった」
淡々とした話し方に冬馬の辛さが滲みでる。
「でも、あんな風に乱暴したことはなかった ── 俺のせいだな。俺が煽ったりしたから」
ぐっと右手を握り込む。
「初めて顔を合わせた彼奴が、人前でアキを辱しめるのが我慢できなかった。でもそんな俺の態度に、彼奴も煽られたんだな」
冬馬は、その懐に入れた者、以外の人間にはかなりクールだ。あの時は、そんな彼らしかぬ態度だった。その後の、声をかけても気づかない程の激昂。
秋穂が冬馬を熱くする ── そう思うと、ひどく胸が苦しくなった。今も辛そうにしている冬馬の顔を見ていたくなくて、詩雨は俯いていた。
ややあって、冬馬の手が上がるのが視界に入った。その指先が詩雨の頬に触れる。
「冬馬……」
「悪かったな。お前の綺麗な顔、傷つけて」
ひどく優しい瞳と、ひどく優しい声。
詩雨の頬には、まだ、数日前の痣が残っていた。
「女のコじゃあるまいし、こんなのたいしたことない」
大袈裟に明るく振る舞う。彼の優しさが切なくて、泣きそうになる。
昔から、冬馬は自分にいつでも優しかった。
ぬるま湯のような温度 ── 秋穂が現れるまでは、それはとても居心地が良かった。自分のものにならない、あんな焼き切れそうな熱を知るまでは。
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