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第八章
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しおりを挟む夜中の電話は不吉な予感しかしない ── 子どもの頃はそう思っていた。
祖母の死や、伯父の事故など不幸を知らせる電話は、何故かいつも夜中にかかってきていた。
今では、時差のある場所からの仕事関係の電話や、時間を気にしない友人からの電話などは、夜中だろうと構わずかかってくるので、そんな風には考えない。
しかし、この着信音には何故だか、心が騒ぐ。冬馬はサイドテーブルの上で鳴るスマホを手に取り、画面も見ずに通話に切り替えた。
ダブルベッドの隣では裸の女が気がつかず、小さな寝息を立てていた。誰をも魅了する美人モデル。数年前から肉体の関係があった。
ほんの一時間前にも激しく抱き合っていた。激しく愛し合ったのではなく、何かを振りきるように激しく抱いたのだ。しかし心の底は冷えきっていた。
── これから先も熱くなることはない。
「……はい」
胸は騒めくが身体は気だるく、声も重い。
電話の向こうに人の気配は感じる。しかし、なかなか話しださない。画面を見れば相手も分かるが、確認するのも億劫だった。
「誰?」
それだけ言うのがやっとである。ややあって相手はそれに反応する。
「とう……ま」
小さく掠れた声が聞こえた。
「詩雨?」
意外だと思った。詩雨は言葉遣いやその派手な見た目とは違い、こんな時間に電話をかけてくるような無作法な真似はしない。ましてや、今夜そういう相手がいることを察しているはずだ。そんな詩雨が、今、電話をかけてきている。余計に不安は煽られる。
「詩雨?どうした?」
激しく動揺している相手を落ち着かせるように、ゆっくりと優しく促す。
詩雨はしばらく沈黙した後、やっと言葉を発した。
「紗香さんと、紗穂ちゃんがっ」
一言一言区切りながら言う。声が震えている。
「事故で、死んだんだ」
「──え?」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
「死んだんだよ……っ」
詩雨は繰り返して言ったが、冬馬は何も言葉を返せなかった。
しばらく沈黙が続いた後、詩雨が低い声で話しだす。いくらか落ち着いたようだった。
「 ── 今日は、夕方6時頃に行く約束だった。なのに、エントランスでインターフォンを鳴らしたけど、誰もでなくて ── 」
応答がないのでマンション内には入れず、詩雨はしばらくエントランス前で待っていた。家電やスマホに電話をしても繋がらず、メールをしても返事はなかった。一時間近く辺りをうろうろしていたが、戻ってくる様子もなかったので、家に帰ることにした。
その後も電話やメールを続けた。返事を待ちながら、うとうとしていた時、着信音が鳴った。相手は秋穂ではなく兄の天音だったが、詩雨の欲しい情報は彼が持っていた。
昼頃買い物に出かけたふたりは事故に遭った。紗穂は即死、紗香は搬送中に亡くなった。
偶然だが、ふたりは天音の友人の病院に搬送された。天音の情報はその友人からのものだった。
遺体は秋穂のマンションではなく、石蕗の家に運ばれ、秋穂も今そこにいるという。
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