──緑に還る──

さくら乃

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第七章

3

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「そろそろ行くかな。ハル、来てるだろ?」
「ああ、衣装合わせに来ている」
 じゃあ、と手を上げて部屋を出ていこうとするが、扉の前で立ち止まって振り返る。

「明日 ── 行くだろ?秋穂の誕生日」

 じっと自分を見ている詩雨の眼を、冬馬は見つめ返し、ふっと避ける。
「いや、明日は約束があるから」
「え……」
 その答えに一瞬大きく眼を見開き、言葉を詰まらせる。
「そっか……わかった。じゃあ、ひとりで行くよ」
 そう小さく言って部屋を出た。
 詩雨は廊下を大股で歩きながら考えていた。
 

**


 秋穂の婚約が決まった高一の冬 ── それからふたりの関係は、次第に変化していった。いや、冬馬が意識的に変えていったのだろう。

 冬馬に女の影がちらつき始め、秋穂も婚約者と会うことが多くなった。学校内外で常に行動を共にしていたふたりの間に、見えない壁ができはじめたように思えた。
 それでも“秘密基地”で変わらず寄り添う時には、やはり一枚の美しい絵のようだった。離れていくお互いを必死で繋ぎ止めるような、儚くて切ない姿だった。
 

 大学を卒業し、すぐに秋穂は結婚をした。当初はふたりで何度か新居を訪れていた。しかし、三年が経ち子どもが産まれると、次第に石蕗家から遠ざかり、会うとしたら外でのみだった。
 それでも、秋穂の誕生日だけは、自宅で祝っていたのだ。昨年までは。


( そんなに……つらいか )


 詩雨は我知らず唇を噛む。秋穂が結婚した後の冬馬には何人もの恋人がいた。いや、恋人とも言えない関係だ。

「なんで……!」

 立ち止まって、そう呟く。ぎゅっと手を握りしめ、廊下の壁をドンと叩いた。

( なんで、オレじゃだめなんだ。オレなら、ずっと、一緒にいられる )

 鼻の奥がつんと詰まるような感じがした。


「 ── シウさん?どうしたんです?」

 ふいに耳許で聞こえた声に、はっと顔を上げる。
「とう……っ」
 言いかけて、口を噤む。

 彼の顔を覗き込んでいるのは、冬馬と同じくらいに背の高い、自分たちよりもいくらか若く見える男。瞳を潤ませている詩雨に、戸惑っているような表情かおをしている。
 すぐ傍の少し開いた扉の中から、モデルやスタッフたちの声が聞こえてくる。すうっと、頭の芯が冷えていくような気がした。

「なんでもないよ、ハル」
 きゅっと唇の端を上げ、笑った。
    
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