──緑に還る──

さくら乃

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第十一章

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 軽く触れ合わせていただけの口づけは、あっという間に激しくなった。薄く開いたその唇を割って舌を差し入れ、秋穂の舌を探し当て絡めとる。

「ん……ん……」

 されるがままだった彼もそれに応え始め、更に激しさを増す。静かな部屋に苦しげな息と、互いの舌を貪る水音が響く。息苦しさに唇は離れるが、舌先と透明な糸が離れがたそうに繋がったままだ。
 秋穂の白い頬はやや紅みが差し、その瞳は潤んで眼の前の男を見つめていた。
 冬馬は秋穂の上から降りると、彼を抱え上げた。秋穂は驚いて一瞬踠くが、すぐにその逞しい身体に身を預け、そのまま自分の寝室へと運ばれた。


 灯りは点けないまま、その細い身体を広いベッドの上へと横たえる。
 外はもうすっかり暗くなっていたが、レースのカーテン越しに入り込む街路灯の光で、部屋の中は仄かに明るい。顔を近づければ、お互いの顔が見える。

「──俺もだ……」

 秋穂の眼をじっと見つめ、苦しげに言う。

「俺も、お前と同じだ。── 葬儀の時、ふたりの遺影を見ながら、一瞬考えた。もう一度、お前を取り戻すことができるんじゃないかって。そんなことを考えたのが後ろめたくて、なかなかお前を訪ねることができなかった」

 沈黙のなか、ふたりは互いを見つめていた。
 その間、いろんな想いが脳裏を巡っているのか、秋穂は酷く複雑な表情かおをしていた。

 苦しい……哀しい……嬉しい。

 そして、何よりも愛しい気持ちが溢れ出ているのを感じて、見ている方の胸も熱くなる。

 秋穂のその唇に、再び唇を寄せる。先程の激しさとはまた違う。ゆっくりと味わうような口づけ。

 そうしながら、彼の大きな手はセーターの裾からするりと入り、直に秋穂の素肌をまさぐり始めた。
 下から這い上がり、胸の小さな突起を探り当てる。二本の指でそっと触れていたが、繋いだ唇の合間から小さく吐息が漏れ始めると、煽られるように激しく弄り始めた。
 我慢できず零れる声が、唇越しに伝わってくる。

 見たい、と思った。

 冬馬は秋穂の身体を少し起こし、下に着ているタンクトップごとセーターを脱がした。薄暗い中に、蒼白く浮かび上がる細い肢体。
 更に良く見たいという、欲求に駆られる。触れれば敏感に反応するその身体のすべてを眼にしたら、どれだけ嫉妬に焼きつくされるか、わかっていても。

( それでも、見たい )

 ベッド脇のチェストに片手を伸ばし、アンティーク調のナイトランプを点ける。暖色の灯りが、秋穂の裸体を余さず曝けだす。思った通り、そこには無数の情事の跡が残っていた。
 冬馬が何を見ているのか、咄嗟に理解し、秋穂はさっと両腕で上半身を隠そうとする。しかし、冬馬はそれを許さず、彼の両の手首をきつく握ってベッドに押しつけた。
「見せて、全部」

 つい先程つけられたばかりの首筋の噛み痕以外は、最近のものではなさそうだ。それでも繰り返しつけられた所有の印は、様々な濃淡で残っている。
 こんな痕を、初めて見た時のことを思い出す。あの時は秋穂が傷つけられた怒りのみだったが、今は嫉妬の方が勝る。

「上書きしてやる……っ」

 低く言い放つと、秋穂の身体に唇を落とし始めた。
 首筋の噛み痕に舌を這わせる。既に血は固まっていたが、吸い上げると僅かに血の味がする。それから徐々に下方に下りる。肢体に残る痕を辿りながら舌を這わせ、強く吸い上げ、新たな痕をつけていく。
 そうしながら、手は別な場所を愛撫する。髪を撫で頬をくすぐり、胸から腹を彷徨い、布越しに太腿を撫で上げる。
 秋穂の唇からは、小さいが絶え間なく声が漏れる。


(熱い……)

 情欲を宿すその瞳も、素肌に触れるその大きな手も。何もかもが熱くて、自分の肉体をも内から熱くしていくのを、秋穂は感じていた。
 ── 壱也はいつも冷たかった。セックスをしているとは思えない程、自分を見る眼も、触れる手も。
 それでも、眼を伏せ、想像していた ── 冬馬に、されているのだ、と。そう思いながら、いつも独りで達していたのだ。

「冬馬……」

 吐息のように、甘くその名を呼ぶ。

( その素肌は……もっと、熱いのかな )

 頭の芯に熱が籠り深く考えられない。身体が勝手に動いていく。秋穂はゆっくりと手を伸ばし、冬馬の緩んだネクタイに指をかけた。

(もっと、もっと、冬馬の熱を感じたい)

 その指は、ネクタイを引き抜き、シャツのボタンを外していく。秋穂は半身を起こし、彼の素肌に纏う物をすべて肩から滑り落すと、自ら肌を合わせた。

「やっぱり……熱い」

 思わず零れ落ちた言葉は、うっとりと熱を孕んでいた。いつも水面を思わせるような色を変えない瞳が、今は欲に潤んで酷く淫らに見える。

(こんな顔、彼奴に、見せてたのか……)

 そう思うと、更に頭に血が上るような気がした。
 秋穂をきつく抱き締め、再び激しく唇を合わせる。秋穂もそれにすぐ応え、ねだるように自分から舌を差し出した。息つく暇もなく、絡め合う。
    
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