蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

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第2章:命の価値

第6話:戦闘後の報告会

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「左腕の複雑骨折。左の肺に折れた肋骨が突き刺さって、さらには腹からは腸がはみ出したと。って、普通なら死んでない?」

 ベル=ラプソティが知る限りでのディート=コンチェルト国主の怪我の具合である。カナリア=ソナタはアハハ……と力なく笑う他無い。しかしながら、それでも軍の指揮は神輿の上からでも取れると豪語しているらしいとの情報を得て、ベル=ラプソティもまたカナリア=ソナタ同様、がっくしと肩を落とす以外無い。

「ボクの超一級天使装束も乳首とおちんこさんを隠すくらいにしか機能していまセン。せっかく修復してきたというのに、地獄の番犬ケルベロスの炎で焼かれてしまいマシタ」

「そう言えばそうね……。てか、あんた、寒くないの?」

 アリス=ロンドはビキニアーマーを装備しているのか? と問いたいくらいに薄手の装備となっていた。金属製の繊維が織り込まている革製のビキニパンツ。両の乳首を覆い隠すボロ衣。その状態から半分黒焦げになっているオープン型フルフェイス・ヘルメットを被っているために、どこからどうみても変態要素が強すぎるアリス=ロンドであった。しかし、体温調整機能が生きているためか、アリス=ロンドは寒そうな気配をいっこうに見せることはなかった。

「星皇様の愛に包まれていると思えば、寒さなど吹き飛びマス。ベル様も同じ格好になってみればわかりマス」

「わかるわけないでしょっ! ああっ、もう! いちいちあいつのことを思い出させないでっ!」

 ベル=ラプソティは星皇であるアンタレス=アンジェロを好ましく思っていたことを、今は一生分の恥だと思っている。それほどまでに星皇が初夜において、自分にしたことがショックすぎて、それを忘れたくてたまらない。だが、アリス=ロンドが事あるごとに星皇様、星皇様と言葉の最初に付けてくるために、あの思い出したくない初夜の出来事が頭の中を駆け巡り、さらにはその頭の中へ耐えがたい頭痛が走り回ることになる。

「ベル様が苦しんでイマス。やはり、星皇様の愛が不足しているせいだと愚考シマス」

「アハハ……。アリス様が思っていることは的外れだと思いますゥ。出来るなら、ベル様の前で星皇様のことはしゃべらないほうが良いと思うのですゥ」

「それは拒否させていただきマス。ボクの存在意義は星皇様とベル様あってのことデス。そこを否定するとなれば、ボクがここに居る意味さえ失ってしまいマス」

 アリス=ロンドがきっぱりとそう言い切るために、カナリア=ソナタはトホホ……と諦めに似た感情を口から漏らすしかなかった。ベル=ラプソティの怒りはアリス=ロンドで収まりきりわけがなく、自分もとばっちりを喰らうことが眼に見えたからだ。ベル=ラプソティは不機嫌さそのままで話題を変えようとする。

「カナリア。聖地からグリーンフォレスト国へ出立するのは1時間後だったわよね? ハイヨル混沌軍団の気配はちゃんと追ってるの?」

「は、はいっ! 魔素測量器ガイガーカウンター魔力残量確認石マジック・チェッカーの両方で、5分毎に計測していますけど、アリス様が地獄の番人と番犬を討伐してからは、それらの値は減る一方ですゥ!」

 ベル=ラプソティはジト目でカナリア=ソナタを睨むモノだから、彼女は身体をビクン! と跳ね上がらせて、計測は怠っていない旨をあるじに告げる。ベル=ラプソティはう~~~んと唸り、何かを考えている風に見えたので、カナリア=ソナタは追加の情報をあるじに伝える。

「もちろん、魔力残量確認石マジック・チェッカーで計測できる値として、神力ちからの数値も衰えてきて……ますゥ。聖地は聖地である役目を終えようとしていますゥ」

「そうよね。この地にある福音の塔が崩れ去った今、聖地に流れ込んできていた天界からの神力ちからが衰えて当然だわ。でも、それなら地上界から溢れる魔力が上昇するはずよね」

「その関係性がはっきりとしませんが、魔素は減じてきていますゥ。何故、魔力の数値が上がってこないのかはわかりませんけどォ。悪魔が出没し、さらには短時間で居なくなってしまったことが関係しているのかもしれません」

 ベル=ラプソティは神力ちから、魔力、魔素の因果関係がはっきりしないことにもやもやとした感情を抱くが、そもそもカナリア=ソナタは観測士では無い。これ以上の調査は天界に住む専門の技術者に任せるしかない。ベル=ラプソティは答えが出ない質問をしてしまったと思いながらも、カナリア=ソナタと語り合うのを止めないでいた。

「わかったわ。カナリアの出来る範囲で良いから、測量は続けてちょうだい。それらの因果関係がわかれば、ハイヨル混沌軍団に虚をつかれることは多少なりとも減らせるはずだから」

「わかりましたのですゥ。心構えが出来ているのと、そうじゃないとでは雲泥の差なのですゥ。何か変化がありましたら、すぐに報告させてもらいますゥ!」

 ベル=ラプソティは元気の良いカナリア=ソナタの返事を聞いて、コクリと一回だけ首級くびを縦に振る。そうした後、コッシロー=ネヅの方へ向き、元のネズミの姿に戻っていいわよと言う。これは戦闘状態を一時的に解除して良いという指示でもあった。天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅはそのサイズを縮めていき、天使の羽根が背中に4枚生えているネズミへと変化していく。

「ふぅ……。肩がこってしょうがなかったのでッチュウ。ようやく、僕も休憩に入れるでッチュウ」

 コッシロー=ネヅはパタパタと天使の4枚羽をぱたつかせて、いつもの定位置であるカナリア=ソナタの頭の上に乗る。カナリア=ソナタはただでさえ、Iカップあるおっぱいを胸に実らせているというのに、コッシロー=ネヅが頭に乗ることで、さらに首から肩にかけての筋肉が強張ってしまう。

「あの……。カナリアさん。しんどかったら、ボクがコッシローさんの巣になりマスガ」

「助かりますゥ。でも、気をつけてくださいねェ。こう見えて、コッシローちゃんはけっこう重いですからァ」

「僕をデブ扱いするのはやめるでッチュウ! しかしながら、アリス様の頭を巣にするのは罪悪感で身が震えそうなのでッチュウ」

 コッシロー=ネヅはそう言いながらも、自分の居場所をアリス=ロンドが被るオープン型フルフェイス・ヘルメットの上へと変える。彼の征服感を刺激するのか、コッシロー=ネヅは終始、ご満悦といった表情である。

「さて、収まるところに話とコッシローが収まったことだし、わたしたちも行くべきところに行きましょ」

「はいなのですゥ! う~~~ん! コッシローさんが頭に乗ってないだけで、肩への重荷が半分くらい取れた気持ちなのですゥ」

「う、うぐ……。コッシローさんが意外と重いのデス。地面に叩きつけて、眼から光線ビームで焼き払ってしまいたくなってきまシタ」

「チュッチュッチュ。普段、皆を背中に乗せているから、そのありがたみを味わってほしいでッチュウ。アリス様も僕の背中の乗り心地を知れば、そんな文句も言えなくなるのでッチュウ。って、地面に叩きつけようとするのはやめるのでッチュウ!!」
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