蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

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第4章:真の|神力《ちから》

第2話:焔の国の王

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「カナリア。アリスの補給が終わるまであと何分くらい!?」

「えっとォ……。10分前後だと思うのですゥ。でも、それを待っていられるほど、あたしたちに時間は残されていなさそうなのですゥッ!」

「チュッチュッチュ。当然と言えば当然でッチュウよね。魔力残量確認石マジック・チェッカー魔素測量器ガイガーカウンターを使わなくても、ビリビリ、肌が焼き付く感じがするのでッチュウ!」

 身に迫る危険を感じたベル=ラプソティとコッシロー=ネヅは戦闘態勢へと移行する。ベル=ラプソティは戦乙女ヴァルキリー・天使装束をフルに機能させ、コッシロー=ネヅは天界の騎乗獣の姿へと変わる。クレーター内の地熱が急激に上がっていったことで、警戒心を大幅に上げるベル=ラプソティたちであった。

 クレーター内の地熱が上がり、それが地上に水蒸気を纏わせる要因となる。ベル=ラプソティたちはまるで蒸し風呂の中に居るかのような錯覚を覚えるほどに、クレーターが出来上がった地は熱しられることになる。

「おいおいおい! いったい、何が起きようとしてんだ!?」

「クォール様! 貴方は早く一団を避難誘導してっ! かなりの呪力ちからを持つ悪魔が現れようとしているのっ!」

「悪魔!? ここにクレーターを造り上げた悪魔がついに現れるのか!?」

「そうよ、その通りよっ! わたくしたちはアリスが眼を覚ますまで、時間を稼ぐから、そっちの方はお任せいたしますわよっ!」

 ベル=ラプソティは崑崙山クンルンシャンとその周辺を半壊させた原因を、今から現れ出でるであろう悪魔に全部押し付けることにした。好都合と言えば好都合であるし、あちらは悪魔なのだ。罪の一切合切を押し付けてもお釣りがくるレベルの存在である。星皇がやったことであるが、それは悪魔のせいにしておけば、全てが丸く収まるという判断の下からである。

「俺のアリスを頼んだぞ、ベル殿っ!」

 ベル=ラプソティはいつからアリスがあんたのモノになったのよとツッコミを入れそうになったが、今は性的指向がいきなり捻じ曲がったクォール=コンチェルト第1王子に構っている暇など、1秒たりとてない。そして、1秒でも早く、一団を避難させてほしかった。それほどまでに、この地の下側から沸き上がってくる魔素が色濃くなってきており、ベル=ラプソティの緊張は最大限へと達しようとしていた。

「くるでッチュウ!」

 コッシロー=ネヅがそう吼えると同時に、クレーターのある個所から焔の柱が噴き出す。しかもそれは1本ではなく10本同時であった。そして、その炎柱は互いに絡み合い、さらに天高く炎を大空を衝くことになる。ベル=ラプソティたちは押し寄せる熱風に焼かれまいと、各々で魔術障壁マジック・バリアを展開する。

「ブハーハッハアアア! 地獄の番人と番犬を倒したニンゲンたちが居るという報告を聞き、イヤイヤながら参上してみたが、われの眼に映るは、天使が2匹とひ弱そうな獣1匹のみゾォォォ!」

 絡み合う炎柱の奥から空気を震わす豪快な笑い声が周囲へと響き渡る。その野太い声は、ビリビリとベル=ラプソティたちの身を震わせることになる。ベル=ラプソティたちは現れ出でた悪魔に飲み込まれぬようにと、こちらも声を張り上げて対抗する。

「わたくしの名はベル=ラプソティっっっ! 星皇の正妻がして、下劣な悪魔を全て屠る者よっ! 覚えときなさいっ!!」

「あ、あたしはベル=ラプソティ様の付き人であるカ、カ、カナリア=ソナタですゥ! 悪魔の悪知恵なぞ、あたしの神算鬼謀で粉砕してやるのですゥ!」

「チュッチュッチュ! 星皇の正妻であらせられるベル=ラプソティ様の騎乗獣であるコッシロー=ネヅでッチュウ! お前如き、低級の悪魔くらい、ひと飲みにしてやるでッチュウ!」

 ベル=ラプソティたちが腹の底から声を出し、複雑に絡み合う炎柱群に対して、敵愾心を露わにする。その声に呼応してか、炎柱群はますます複雑に絡み合い、その身をその炎で喰い合い始める。炎柱群の奥からは高笑いが続き、数十秒後には伸長8ミャートルほどもある炎の巨人が炎柱群の中からのっそりと現れることになる。

「その意気や良シッ! われの名はスルトぉぉぉ! 地獄の炎すら、われにひれ伏す焔の王ジャァァァ!」

 『スルト』という名を聞き、ベル=ラプソティはなかなかの大物が出てきたわねと思わざるをえなかった。炎を従える存在として、イフリートという精霊界の有名どころがいるが、その数段格上の存在なのが『スルト』であった。

 ニンゲンたちが炎を噴き出す類の長剣ロング・ソードに対して、『スルト』と冠するのは、この悪魔の呪力ちからにあやかってのことだ。悪魔3大巨人と言えば、炎の巨人、氷の巨人、毒沼の巨人のことを指すのが一般的である。そして、今まさにその有名人のひとりがベル=ラプソティたちの眼の前に現れたのである。

「ふんっ。悪魔はすぐ地獄の炎をどうたらって言うわよねっ!」

「それは天使も同じようなことを言いますのでお相子と言えば、お相子なんですけどォ」

「チュッチュッチュ。悪魔は地獄の炎。天使は光関連でッチュウ。でも、光の方がよっぽど威厳があるのでッチュウ!」

「よく言ったわ、コッシロー! じゃあ、さっそく、光の力をあいつに見せてやりましょぅ!」

 互いに名乗りをあげた後は、互いが持つ武器でその頭をかち割るための作業に入る。これはニンゲン、天使、悪魔のどれも同じであると言って良いだろう。天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅはからし色の右眼に神力ちからを込め、それを外界に向かって放つ。

 太さ30センチュミャートルほどある眼から光線ビームは真っ直ぐに炎を噴き出す身体を持つスルトへと飛んでいく。スルトはニヤリと笑い、右手を炎柱群に突っ込み、素早くその右手を抜き出す。するとだ。スルトの右手には炎で出来た大剣クレイモアが握られており、その大剣クレイモアでコッシロー=ネヅの眼から光線ビームを簡単に打ち払ってしまう。

 グヌヌ……と唸るコッシロー=ネヅの右側から、大きく左足を前へと踏み込んだベル=ラプソティが右手に持つ大剣クレイモアほどの大きさを持つ穂先付きの光槍をスルトに向かってぶん投げる。

 スルトはフンッ! と鼻を鳴らし、今度は左手を炎柱群に突っ込み、素早く抜き出す。そうすることで、スルトは左手に両刃の戦斧バトル・アクスを持ち、それをもってして、ベル=ラプソティが投げてきた光槍を軽々とどこか遠方へと弾いてしまう。

「そちらの攻撃はそれだけカッッッ。そんな蚊のような一撃で、われの身に傷ひとつ付けれると思うナァァァ!」

 スルトは右腕を振り上げ、ベル=ラプソティたちに向かって、炎で出来た大きすぎる大剣クレイモアを叩きつけようとする。スルトがあまりにも巨大であり、そして、その右手で握る大剣クレイモアも大きすぎたために、逆にスルトのその一撃はゆっくりと見えるのであった……。
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