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第4章:酒と天使
第10話:ノーコメント
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酒場兼食堂の隣に建つ宿屋の2階の一室にアリス=アンジェラを放り入れて、再び食堂に戻ってきたアンドレイ=ラプソティはよっこらせと椅子に座り直す。
「さてと……。アリス殿を宿屋に放り込んできましたので、こちらはこちらで情報交換と行きましょう。その前に……、生チュウおかわりお願いしますっ!」
「いやはや、悪魔も顔負けのウワバミっぷりだな、相変わらず。我輩はすでに酔っぱらっい始めてるぞ」
「ワインと麦酒は別腹。これは天使にとっての常識です。逆にほっぺたが落ちそうなほどに甘いスイーツのほうが、禁じられているくらいなんですよね」
「それはそれでどうなってんだ? 天界の戒律は。酒飲みと甘味好きはセットだろ。やっぱり天界は狂っているとツッコミを入れたくなるわ」
天界の住人である天使たちは、日々、自分への試練として、酒の呪力によって堕天状態へと陥らないこと、辛すぎるカレーに耐えるといったような苦行を強いる。その苦行の果てを経験し、酒と辛みへの耐性はめっぽう高い天使たちである。麦酒3杯程度で酩酊状態には陥ることは滅多に無いのだ。しかしながら、アリス=アンジェラは半天半人であり、ニンゲンの血が半分、その身に流れているために、たった3杯で酩酊状態へと陥ってしまった。
そんな状態の彼女をベリアルの側に置いておけないと判断したアンドレイ=ラプソティは彼女を背負い、隣接する宿屋の2階の一室にアリス=アンジェラを放り込んできて、この場に戻ってきたのである。アンドレイ=ラプソティは都合4杯目となる麦酒で喉を潤しつつ、ベリアルと議論を交わし始める。
「うちの台所事情としては、あんたを堕天させないと、ろくに戦力が整わないってのは薄々感づいているよな?」
「そうですね。そんじょそこらの半天半人を堕天させようが、一兵士としてしか数えれませんよね。第3次天魔大戦では、どちらも指揮官クラスの戦力を半減させています」
ベリアルとアンドレイ=ラプソティは互いに『第4次天魔大戦』が起きる可能性について、酒を交えて議論する。アンドレイ=ラプソティの予想通り、新・救世主が地上に現れるのは時期尚早なのである。だが、ベリアルは言う。救世主がこの地上界に現れるには、もうひとつ条件があることを。
「それについては正直、失念していました。そうです、『預言者』の存在です。救世主の資格を持つ者を探しだし、その者に救世主は貴方だと告げる人物がいたことを」
「そう。そこよ。創造主:Y.O.N.Nは、まず預言者に『預言』を言葉通り預ける。そして、創造主:Y.O.N.Nの言葉を忠実に守り、救世主を探し当てる。この過程があってこその救世主誕生だ。悪魔の我輩にそこをツッコマれて、どうすんだ??」
ベリアルのド正論にウグッ! と唸ってしまう他無いアンドレイ=ラプソティであった。いくら、天界から地上界にやってきて、30年もの年月を過ごしたといえども、そこを失念していていは天使失格の烙印を押されてしまう。その気まずさをごまかすかのように、まるで渋い茶を飲むかのようにズズズ……と音を立てて、麦酒を口の中に注ぎ込むアンドレイ=ラプソティであった。
「まあ、『怠惰』の権現様である我輩が言えた立場では無いが、そこんところを失念していたのは見逃してやろう。問題はそこじゃない。お前たち天使は真であろうが、偽であろうが、場違いなところに出てきた救世主をどうするつもりだ?」
ベリアルがアンドレイ=ラプソティに聞きたいことはふたつある。例えるなら、魔皇が存在しない時代に勇者が生まれたとして、そいつを勇者としてもてはやすのか? それともなかったことにするのか?
そして、もうひとつ付け加えるとしたら、もしその救世主にご退場してもらうなら、お得意の物理の神力を使うのか? という点である。アンドレイ=ラプソティはムムム……と思い悩むことになる。物理の神力で救世主を天界へと移住させることは簡単である。しかし、アンドレイ=ラプソティはその結果うんぬんよりも、何故、救世主がこの地上界に、この時期に現れたのか? をはっきりさせたいのである。
ベリアルとアンドレイ=ラプソティは根本的にここの考え方が違っていた。ベリアルはぶっちゃけどうでも良いのだ、天魔大戦に直接関わらない救世主の存在なぞ。救世主の役割にはふたつある。地上界のニンゲンたちを導くという使命を帯びている救世主ではあるが、その方向性がどこに向いているかが肝心なのだ。
天魔大戦の時に救世主が現れるのであれば、ただの子羊といえどもニンゲンたちの戦力は侮り難いモノになる。だが、天魔大戦時以外の救世主は腐りきった地上界を少しだけ、天界の都合の良い世界へと導くだけの存在なのだ。これまで救世主は8人、地上に現れたが、その半分以上は悪魔にとっては割とどうでも良い存在だったのだ。
そして、今回の新・救世主は、どう考えても天魔大戦とは関わりが無さそうであった。それゆえにベリアルの関心は低いと言っても過言ではなかった。それゆえにいきなり最終的にその救世主をどうするんだ? とアンドレイ=ラプソティに問うたのである。
しかしながら、天界の住人であるアンドレイ=ラプソティにとっては、何か重要なメッセージを預言者が受け取り、それに基づいて、救世主を探し当てたのだろうと思わざるをえなくなってしまっている。だからこそ、原因から探らなければならない作業を強いられることになる。
もし、アンドレイ=ラプソティがレオン=アレクサンダーの遺児をダン=クゥガーなる男から護るという使命が無ければ、天界に戻り、直接、創造主:Y.O.N.N様に問いただせば良いだけである。しかし、地上界に居座り続けようとするアンドレイ=ラプソティに対して、創造主:Y.O.N.N様からは何も天啓は与えられることは無かった。
「コッシロー殿。申し訳ないのですが、私に代わり、創造主:Y.O.N.N様から預言者と新・救世主の情報を与えてもらえるように頼めませんかね?」
「チュッチュッチュ。アンドレイ様がそう言うと思って、すでに創造主:Y.O.N.N様とコンタクトを取ってみたのでッチュウ」
「さすがコッシロー殿ですねっ! で? 創造主:Y.O.N.N様は何とおっしゃっていたんですか!?」
「『ノーコメント!』だったでッチュウ」
省エネモードのコッシロー=ネヅからそう聞いた瞬間、座っている椅子からずり落ちてしまったのがアンドレイ=ラプソティであった。そして、テーブルの端に両腕を絡めながら、無理やり起き上がったアンドレイ=ラプソティは確認のために、もう一度、コッシロー=ネヅに聞く。
「だから、創造主:Y.O.N.N様は『ノーコメント!』と力強く言っていたのでッチュウ。まーた、何かやらかしたんじゃないでッチュウ?」
「さてと……。アリス殿を宿屋に放り込んできましたので、こちらはこちらで情報交換と行きましょう。その前に……、生チュウおかわりお願いしますっ!」
「いやはや、悪魔も顔負けのウワバミっぷりだな、相変わらず。我輩はすでに酔っぱらっい始めてるぞ」
「ワインと麦酒は別腹。これは天使にとっての常識です。逆にほっぺたが落ちそうなほどに甘いスイーツのほうが、禁じられているくらいなんですよね」
「それはそれでどうなってんだ? 天界の戒律は。酒飲みと甘味好きはセットだろ。やっぱり天界は狂っているとツッコミを入れたくなるわ」
天界の住人である天使たちは、日々、自分への試練として、酒の呪力によって堕天状態へと陥らないこと、辛すぎるカレーに耐えるといったような苦行を強いる。その苦行の果てを経験し、酒と辛みへの耐性はめっぽう高い天使たちである。麦酒3杯程度で酩酊状態には陥ることは滅多に無いのだ。しかしながら、アリス=アンジェラは半天半人であり、ニンゲンの血が半分、その身に流れているために、たった3杯で酩酊状態へと陥ってしまった。
そんな状態の彼女をベリアルの側に置いておけないと判断したアンドレイ=ラプソティは彼女を背負い、隣接する宿屋の2階の一室にアリス=アンジェラを放り込んできて、この場に戻ってきたのである。アンドレイ=ラプソティは都合4杯目となる麦酒で喉を潤しつつ、ベリアルと議論を交わし始める。
「うちの台所事情としては、あんたを堕天させないと、ろくに戦力が整わないってのは薄々感づいているよな?」
「そうですね。そんじょそこらの半天半人を堕天させようが、一兵士としてしか数えれませんよね。第3次天魔大戦では、どちらも指揮官クラスの戦力を半減させています」
ベリアルとアンドレイ=ラプソティは互いに『第4次天魔大戦』が起きる可能性について、酒を交えて議論する。アンドレイ=ラプソティの予想通り、新・救世主が地上に現れるのは時期尚早なのである。だが、ベリアルは言う。救世主がこの地上界に現れるには、もうひとつ条件があることを。
「それについては正直、失念していました。そうです、『預言者』の存在です。救世主の資格を持つ者を探しだし、その者に救世主は貴方だと告げる人物がいたことを」
「そう。そこよ。創造主:Y.O.N.Nは、まず預言者に『預言』を言葉通り預ける。そして、創造主:Y.O.N.Nの言葉を忠実に守り、救世主を探し当てる。この過程があってこその救世主誕生だ。悪魔の我輩にそこをツッコマれて、どうすんだ??」
ベリアルのド正論にウグッ! と唸ってしまう他無いアンドレイ=ラプソティであった。いくら、天界から地上界にやってきて、30年もの年月を過ごしたといえども、そこを失念していていは天使失格の烙印を押されてしまう。その気まずさをごまかすかのように、まるで渋い茶を飲むかのようにズズズ……と音を立てて、麦酒を口の中に注ぎ込むアンドレイ=ラプソティであった。
「まあ、『怠惰』の権現様である我輩が言えた立場では無いが、そこんところを失念していたのは見逃してやろう。問題はそこじゃない。お前たち天使は真であろうが、偽であろうが、場違いなところに出てきた救世主をどうするつもりだ?」
ベリアルがアンドレイ=ラプソティに聞きたいことはふたつある。例えるなら、魔皇が存在しない時代に勇者が生まれたとして、そいつを勇者としてもてはやすのか? それともなかったことにするのか?
そして、もうひとつ付け加えるとしたら、もしその救世主にご退場してもらうなら、お得意の物理の神力を使うのか? という点である。アンドレイ=ラプソティはムムム……と思い悩むことになる。物理の神力で救世主を天界へと移住させることは簡単である。しかし、アンドレイ=ラプソティはその結果うんぬんよりも、何故、救世主がこの地上界に、この時期に現れたのか? をはっきりさせたいのである。
ベリアルとアンドレイ=ラプソティは根本的にここの考え方が違っていた。ベリアルはぶっちゃけどうでも良いのだ、天魔大戦に直接関わらない救世主の存在なぞ。救世主の役割にはふたつある。地上界のニンゲンたちを導くという使命を帯びている救世主ではあるが、その方向性がどこに向いているかが肝心なのだ。
天魔大戦の時に救世主が現れるのであれば、ただの子羊といえどもニンゲンたちの戦力は侮り難いモノになる。だが、天魔大戦時以外の救世主は腐りきった地上界を少しだけ、天界の都合の良い世界へと導くだけの存在なのだ。これまで救世主は8人、地上に現れたが、その半分以上は悪魔にとっては割とどうでも良い存在だったのだ。
そして、今回の新・救世主は、どう考えても天魔大戦とは関わりが無さそうであった。それゆえにベリアルの関心は低いと言っても過言ではなかった。それゆえにいきなり最終的にその救世主をどうするんだ? とアンドレイ=ラプソティに問うたのである。
しかしながら、天界の住人であるアンドレイ=ラプソティにとっては、何か重要なメッセージを預言者が受け取り、それに基づいて、救世主を探し当てたのだろうと思わざるをえなくなってしまっている。だからこそ、原因から探らなければならない作業を強いられることになる。
もし、アンドレイ=ラプソティがレオン=アレクサンダーの遺児をダン=クゥガーなる男から護るという使命が無ければ、天界に戻り、直接、創造主:Y.O.N.N様に問いただせば良いだけである。しかし、地上界に居座り続けようとするアンドレイ=ラプソティに対して、創造主:Y.O.N.N様からは何も天啓は与えられることは無かった。
「コッシロー殿。申し訳ないのですが、私に代わり、創造主:Y.O.N.N様から預言者と新・救世主の情報を与えてもらえるように頼めませんかね?」
「チュッチュッチュ。アンドレイ様がそう言うと思って、すでに創造主:Y.O.N.N様とコンタクトを取ってみたのでッチュウ」
「さすがコッシロー殿ですねっ! で? 創造主:Y.O.N.N様は何とおっしゃっていたんですか!?」
「『ノーコメント!』だったでッチュウ」
省エネモードのコッシロー=ネヅからそう聞いた瞬間、座っている椅子からずり落ちてしまったのがアンドレイ=ラプソティであった。そして、テーブルの端に両腕を絡めながら、無理やり起き上がったアンドレイ=ラプソティは確認のために、もう一度、コッシロー=ネヅに聞く。
「だから、創造主:Y.O.N.N様は『ノーコメント!』と力強く言っていたのでッチュウ。まーた、何かやらかしたんじゃないでッチュウ?」
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