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第11章:上陸
第5話:ケンキ=シヴァン
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ミンミンのおでことおでこでごっつんこした女性の名はケンキ=シヴァン。アデレート王家の末裔で、かつては本家の家格であった。しかし、曾祖父が『失地王』という蔑称で呼ばれるようになってからは、シヴァン家の血筋は大きく軽んじられることになる。
そして、元祖失地王の曾孫にあたるケンキ=シヴァンは今や腫れ物の扱いになり、お情けで将軍の地位を授かってはいるが、持たされている兵数も2千が良い所であった。だが、ケンキは腐っても鯛である。そこに目をつけたのが血濡れの女王の団の軍師であるクロウリー=ムーンライトであった。
「ほへぇ~。ケンキさんは今年で24歳なんだべか~。おいらは17歳だべよ? 余計に不名誉なことにならないだべか?」
「そこはまあ……。いくら袖にしているからといって、一応、王家の血筋ですからね。婿のひとりくらいあてておかないと世間体的に不味いってことです」
部屋の隅に移動したクロウリーとミンミンがこそこそと内緒話をするのであった。ケンキは手鏡を左手に持ち、右手で前髪を上げている。ケンキのおでこは赤くなっており、ケンキは涙目だ。気合いを入れて身を整えてきたというのに、この始末。ケンキでなくても、涙目になるのは当然と言えば当然であった。
「本当にすまなかったんだべさ。これでも食べて、機嫌を直してほしいんだべさ」
ミンミンはそう言うと、クロウリーから手渡されていたお菓子が乗っている皿をケンキの前に差し出す。ケンキはアヒルのくちばしのような唇の形で、ミンミンと机の上に置かれたお菓子を交互に見る。そうした後、フォークは無いのかと、ミンミンに尋ねるのであった。
「んんん~~~。甘酸っぱい……。夏みかんの風味がこれまた、ほどよくケーキのスポンジに沁み込んでいますわ……。宮中のパテシェも裸足で逃げ出すほどの美味しさですの」
「ほへぇ~。そんなに美味しいんだべか。クロウリー様、おいらにもケンキさんが食べているものと同じケーキが食べたいんだべさっ!」
「はい、お待ちくださいね。あと、お茶も用意します。アデレート王国で言うところの花茶になります。ミンミン殿は初めて飲むことになるかもですね」
クロウリーはティーポットからティーカップに花茶を注いでいく。花という名前が付くとおり、クロウリーが淹れたお茶からはジャスミンの香りが漂ってくる。ケンキはアデレート王国の王家の末裔なことはあり、何も気にせずに、その花茶を口に含む。
対して、ミンミンは手に持ったティーカップに鼻を近づけれるだけ近づけて、スンスンと何度も茶の香りを確認するのであった。その様子を見ていたケンキは頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、いったいどうしたのだろうと首を傾げてしまう。
「ふ、不思議な匂いがするだなぁ~。ホバート王国のどのお茶とも違う匂いだべさ」
「アデレート王国のひとから言わせれば、ホバート王国のお茶のほうが不思議に感じると思いますよ。異国のお茶は違った味わいがします。ささ、ミンミン殿。ぐぃっと」
クロウリーに促されて、ミンミンはティーカップに注がれている花茶をぐいっと一気に飲み干す。お茶の熱気と共に、ジャスミンの香りが鼻の奥から鼻の出口を通り抜けていく。ミンミンの心は不安から安心感へと一気に変わり、ふぃ~~~と息を吐きながら、ソファーに体重を思いっ切り預ける形となる。
そんなミンミンを置いておいて、クロウリーは空になったティーカップにお代わりの花茶を注ぐ。その頃になって、ようやくケンキがクスクスと可笑しそうに笑うのであった。ミンミンはそんなケンキをボーっと眺めることになる。
「アデレート王国のお茶はお気に召しまして?」
ケンキが余裕たっぷりにミンミンにそう言う。ミンミンはボーっとした顔つきのまま、コクコクとケンキに頷くのであった。
「本当にキレイなひとなんだべさ」
「もう! またキレイと軽く言いますわねっ! 7歳も年上のおばさんに使う言葉ではありませんことよっ!」
「いやいや! 本当にそう思うからこそ、そう言ったまでだべさっ!」
「ミンミン殿……。こればかりは先生も看過できません。もっと他にも見るべきところがあるでしょう」
クロウリーにそう促されたミンミンはソファーに座るケンキの上半身全体が映るように視界を広げるのであった。ケンキはまさにザ・お嬢様であった。彼女がその身から放つ雰囲気だけでも、そうとわかってしまう。流れるような黒のロングヘアー、着ている服、その着こなし具合、そして男なら誰しもが注目せざるをえない巨乳。まさにお嬢様とはケンキのためにある言葉であった。
「血濡れの女王の団には、ここまでお嬢様をしているお嬢様がいないから、おいら、手汗がすごいことになっているだべさ。ケンキさんとこうやって、お話出来ていること自体が名誉だと感じてしまうだべさ」
「彼女は世が世なら、先生たちが個別でお話出来るような身分ではありませんからねっ。ただ、残念なことに、ケンキ殿の家は落ちぶれてしまったのです」
「そうなん……だべか。ケンキさんは、おいらのような田舎者がお相手になってはいけないんだべ」
ミンミンは見る見る内に元気が無くなっていくのであった。そんなミンミンに対して、ケンキが姿勢を正しつつ、ミンミンに忠告をする。
「優しいという言葉の裏には『気弱』というニュアンスが含まれていますわ。ミンミンさんは気弱なんですか? それとも、クロウリーさんが前もって伝えてくれていた通りに、心が真に強いからこそ、『ひとに優しくできるタイプ』なのかしら?」
ケンキは出来るなら、後者であってほしいと願った。クロウリーさんから聞いていた話では、ミンミンさんはホバート王国の統一戦において、『大槌のデーモン』と呼ばれるほどの活躍をしたと。ミンミンの体格を見るに、大槌を軽々と持ち上げることは可能であろう。だが、今、自分の眼の前のソファーに座っている人物を見ていると、『大槌のデーモン』とはいささか誇張しすぎなのではなかろうかと思ってしまう。
「ん~~~。おいらは自分のことを気弱とは言わないまでも、自分から争いを好むタイプでは無いんだべさ」
「紳士たるもの、不用意な争いごとを避けるのは当然のことですわ。でも、わたくしが問うているのは、ミンミンさんはわたくしの夫になるべき資格があるかどうか。これが1番大切なことなのです」
「なかなか難しいことを言ってくれるんだべさ。その証明はどうやってすれば良いんだべさ?」
「そこは自分で考えなさいなと言いたいですが、特別に教えてあげますわ。わたくしはアデレート王家の鼻つまみ者ですが、それでも腐ってもアデレート王家の一員ですの。それに見合うだけの豪傑か、もしくは身分が必要になってきますの。身分はどうしようもないので、ここはミンミンさんが豪傑だというところをお見せしてほしいですわね」
そして、元祖失地王の曾孫にあたるケンキ=シヴァンは今や腫れ物の扱いになり、お情けで将軍の地位を授かってはいるが、持たされている兵数も2千が良い所であった。だが、ケンキは腐っても鯛である。そこに目をつけたのが血濡れの女王の団の軍師であるクロウリー=ムーンライトであった。
「ほへぇ~。ケンキさんは今年で24歳なんだべか~。おいらは17歳だべよ? 余計に不名誉なことにならないだべか?」
「そこはまあ……。いくら袖にしているからといって、一応、王家の血筋ですからね。婿のひとりくらいあてておかないと世間体的に不味いってことです」
部屋の隅に移動したクロウリーとミンミンがこそこそと内緒話をするのであった。ケンキは手鏡を左手に持ち、右手で前髪を上げている。ケンキのおでこは赤くなっており、ケンキは涙目だ。気合いを入れて身を整えてきたというのに、この始末。ケンキでなくても、涙目になるのは当然と言えば当然であった。
「本当にすまなかったんだべさ。これでも食べて、機嫌を直してほしいんだべさ」
ミンミンはそう言うと、クロウリーから手渡されていたお菓子が乗っている皿をケンキの前に差し出す。ケンキはアヒルのくちばしのような唇の形で、ミンミンと机の上に置かれたお菓子を交互に見る。そうした後、フォークは無いのかと、ミンミンに尋ねるのであった。
「んんん~~~。甘酸っぱい……。夏みかんの風味がこれまた、ほどよくケーキのスポンジに沁み込んでいますわ……。宮中のパテシェも裸足で逃げ出すほどの美味しさですの」
「ほへぇ~。そんなに美味しいんだべか。クロウリー様、おいらにもケンキさんが食べているものと同じケーキが食べたいんだべさっ!」
「はい、お待ちくださいね。あと、お茶も用意します。アデレート王国で言うところの花茶になります。ミンミン殿は初めて飲むことになるかもですね」
クロウリーはティーポットからティーカップに花茶を注いでいく。花という名前が付くとおり、クロウリーが淹れたお茶からはジャスミンの香りが漂ってくる。ケンキはアデレート王国の王家の末裔なことはあり、何も気にせずに、その花茶を口に含む。
対して、ミンミンは手に持ったティーカップに鼻を近づけれるだけ近づけて、スンスンと何度も茶の香りを確認するのであった。その様子を見ていたケンキは頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、いったいどうしたのだろうと首を傾げてしまう。
「ふ、不思議な匂いがするだなぁ~。ホバート王国のどのお茶とも違う匂いだべさ」
「アデレート王国のひとから言わせれば、ホバート王国のお茶のほうが不思議に感じると思いますよ。異国のお茶は違った味わいがします。ささ、ミンミン殿。ぐぃっと」
クロウリーに促されて、ミンミンはティーカップに注がれている花茶をぐいっと一気に飲み干す。お茶の熱気と共に、ジャスミンの香りが鼻の奥から鼻の出口を通り抜けていく。ミンミンの心は不安から安心感へと一気に変わり、ふぃ~~~と息を吐きながら、ソファーに体重を思いっ切り預ける形となる。
そんなミンミンを置いておいて、クロウリーは空になったティーカップにお代わりの花茶を注ぐ。その頃になって、ようやくケンキがクスクスと可笑しそうに笑うのであった。ミンミンはそんなケンキをボーっと眺めることになる。
「アデレート王国のお茶はお気に召しまして?」
ケンキが余裕たっぷりにミンミンにそう言う。ミンミンはボーっとした顔つきのまま、コクコクとケンキに頷くのであった。
「本当にキレイなひとなんだべさ」
「もう! またキレイと軽く言いますわねっ! 7歳も年上のおばさんに使う言葉ではありませんことよっ!」
「いやいや! 本当にそう思うからこそ、そう言ったまでだべさっ!」
「ミンミン殿……。こればかりは先生も看過できません。もっと他にも見るべきところがあるでしょう」
クロウリーにそう促されたミンミンはソファーに座るケンキの上半身全体が映るように視界を広げるのであった。ケンキはまさにザ・お嬢様であった。彼女がその身から放つ雰囲気だけでも、そうとわかってしまう。流れるような黒のロングヘアー、着ている服、その着こなし具合、そして男なら誰しもが注目せざるをえない巨乳。まさにお嬢様とはケンキのためにある言葉であった。
「血濡れの女王の団には、ここまでお嬢様をしているお嬢様がいないから、おいら、手汗がすごいことになっているだべさ。ケンキさんとこうやって、お話出来ていること自体が名誉だと感じてしまうだべさ」
「彼女は世が世なら、先生たちが個別でお話出来るような身分ではありませんからねっ。ただ、残念なことに、ケンキ殿の家は落ちぶれてしまったのです」
「そうなん……だべか。ケンキさんは、おいらのような田舎者がお相手になってはいけないんだべ」
ミンミンは見る見る内に元気が無くなっていくのであった。そんなミンミンに対して、ケンキが姿勢を正しつつ、ミンミンに忠告をする。
「優しいという言葉の裏には『気弱』というニュアンスが含まれていますわ。ミンミンさんは気弱なんですか? それとも、クロウリーさんが前もって伝えてくれていた通りに、心が真に強いからこそ、『ひとに優しくできるタイプ』なのかしら?」
ケンキは出来るなら、後者であってほしいと願った。クロウリーさんから聞いていた話では、ミンミンさんはホバート王国の統一戦において、『大槌のデーモン』と呼ばれるほどの活躍をしたと。ミンミンの体格を見るに、大槌を軽々と持ち上げることは可能であろう。だが、今、自分の眼の前のソファーに座っている人物を見ていると、『大槌のデーモン』とはいささか誇張しすぎなのではなかろうかと思ってしまう。
「ん~~~。おいらは自分のことを気弱とは言わないまでも、自分から争いを好むタイプでは無いんだべさ」
「紳士たるもの、不用意な争いごとを避けるのは当然のことですわ。でも、わたくしが問うているのは、ミンミンさんはわたくしの夫になるべき資格があるかどうか。これが1番大切なことなのです」
「なかなか難しいことを言ってくれるんだべさ。その証明はどうやってすれば良いんだべさ?」
「そこは自分で考えなさいなと言いたいですが、特別に教えてあげますわ。わたくしはアデレート王家の鼻つまみ者ですが、それでも腐ってもアデレート王家の一員ですの。それに見合うだけの豪傑か、もしくは身分が必要になってきますの。身分はどうしようもないので、ここはミンミンさんが豪傑だというところをお見せしてほしいですわね」
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