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第3章:恋の味は蜂蜜
第6話:逸る若者たち
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アキヅキ=シュレインが蒼き虎に襲撃された次の日には、ゼーガン砦内で一斉にショウド国との交易品のチェックが行われたのである。特に皆の眼を引いたのは色とりどりの珠玉であった。紅、蒼、黒、そして透明色に続き、琥珀色の5種類の珠玉が見つかったのである。
それぞれに大小は異なるモノの、ほぼ全てがアキヅキ=シュレインがゼーガン砦にやってくる際に、街の屋台で購入した蒼い水晶がはめ込まれたペンダントに呼応して、明滅を繰り返したのである。
「ふーーーん。なるほどねえ? さすがはドワーフが細工を施したペンダントなだけはあるわね。これは魔力が込められた物品の検分にはもってこいってわけなのね?」
アキヅキが件のペンダントを、試しにアイス=ムラマサのミスリル製の大剣に近づける。するとだ、ペンダントにはめ込まれた水晶が明滅すると同時に、アイス=ムラマサの右手に持つ大剣の刃はフオンフオンとまるで共鳴でも起こしているかのように重低音を奏で始めるのであった。
「いやあ、面白いモノをもっているんだブヒッ。魔力を探査するにはもってこいのペンダントだブヒッ」
重低音を奏でながら白く明滅を繰り返す自分の得物を興味深そうに見やるアイス=ムラマサである。ちょっと自慢気なアキヅキであったのだが、ニコラスがはははっと笑いながらその気分を台無しにする一言を発する。
「隊長、いえ、司令官代理殿。銀貨500枚が無駄にならなくて良かったじゃないですか? これも始祖神:S.N.O.Jさまの計らいなんでしょうかね? これぞ、【運命】ってやつなんですかねえ?」
「うるさいわね……。わたしに【運命】なんて台詞を吐かないでほしいわ?」
急に不機嫌になったアキヅキに対して、ニコラスはしまった! と思い、はわわと両手を宙で泳がしながら必死に弁明を開始する。アキヅキはプイっと顔を背けて、ニコラスの弁を聞こうともしないのであった。
「おっ、いたいた。おーい、姫。フランに頼んでおいた後詰の砦から食料と武具、それに砦の改築用に資材を搬入してもらったから、受領書に姫のサインが欲しいんだわ」
「ん? シャクマ。また何か企んでいる気?」
籠城をするにおいて、食料と武具は必要不可欠なのは当然であった。だから、それについてはアキヅキはとやかく言うつもりはなかった。しかし、シャクマはそれだけでは足りぬとばかりに砦内を改築しようとアキヅキに提案してきていたのだ。
そして、アキヅキの了承もあり、シャクマは待ってましたとばかりに後詰の砦から資材を山ほど、ゼーガン砦に運び込ませているのである。そして、これは3度目の資材の搬入であったのだ。
「えっと。薪に油に、木材に……。ん? 竹と壺と火薬? こんなもの、どうするのよ?」
「あー。ちょっとした獣避けにな? まあ、敵が攻め込んできた時にでもわかるさ。それよりも受領書にサインをくれないか?」
アキヅキはシャクマが持ち込んだ資材の数々に首を傾げるのみであった。まあ、彼は伝説に謳われた鎧武者であるから、鎧武者らしい何かの戦術があるのだろうと、その場では深く追求しないのであった。
それからさらに1週間が過ぎる。ショウド国軍は思いのほか慎重らしく、ゼーガン砦の東側の平地となっている地帯に、野営地を建築中であった。しかも、簡素ながらも木で出来た柵すらも設置し、野営地というよりは急ごしらえの砦へと変貌させつつあったのだ。
「ニコラス隊長代理。アレ、ほっといていいですか?」
「オレ、不安。あのまま放置しておくのは愚策な気がスル」
ニコラス=ゲージはアキヅキ=シュレインが司令官代理の任に就いたあと、アキヅキ隊の隊長代理の座に就いたのであった。そして、そのニコラス隊長代理に、ウイル=パッカーとダグラス=マーシーが進言を上げるのであった。
ゼーガン砦では、日に日に目と鼻の先に着実に拠点を造り上げていくショウド国軍に対して不安と不満が高まってきていた。
それなのに、こちらからは手を出す必要は無いと、シャクマ=ノブモリが言いのけ、司令官代理であるアキヅキ=シュレインもそれを汲んで、決して、砦外にでないように、ショウド国軍を刺激しないようにとの指示を出していたのである。
しかしながら、ゼーガン砦内の燻りは収まらず、打って出るべきだとの声が日に日に高まることとなる。
元アキヅキ隊であり現ニコラス隊の面々も、アキヅキ自身には物言わぬものの、ニコラス相手には別であった。
「ニコラス隊長代理! 俺っちたちだけでも、眼の前で建設中の野営地に奇襲をしかけまッショ! アキヅキさまならきっとわかってくれるはずッショ!」
「ウム。これは妙案。オレ、タギル! 女神であらせられるアキヅキさまのために槍働きをシタイ!」
ニコラスは部下たちからの提案に困り果てることになる。ニコラス隊の隊員はアキヅキ=シュレインに惚れこんで、さらには女神と称してならない者たちばかりだ。彼らはアキヅキが自分のために死んでほしいと言えば、喜んでその命を女神に捧げる奴らばかりだ。
そんな隊員たちが今まで大人しかったほうがおかしいとも言えた。信奉する相手が身近に居るときは、彼女は彼らにとって安全弁として働いていた。しかし、今、その女性は上の地位に一足飛びで駆け上がってしまった。
それが彼らにとっては苦痛でしかたなかったのだ。再び、自分たちの手に女神をたぐりよせるためにも、ニコラス隊の隊員たちは武功を欲したのである。
「あー、わかった……。司令官代理殿には提案しておく……」
ニコラスのこの言葉がいけなかった。ニコラス隊は了承を得たと勝手に思ってしまったのである。数日後の夕暮れ時、ニコラスがゼーガン砦の改築の進捗具合について、本丸の指令室に居るアキヅキとシャクマに報告に参上した時に事件は起きる。
ゼーガン砦を囲む石壁の上に設置されていた早鐘がガンガンガーン!! とけたたましく鳴らされる。それと同時にゼーガン砦の南門が大きく開かれ、そこから10数名の若い兵士たちが右手に松明を、左手に手綱を握り、馬を駆けさせて、ショウド国軍の野営地へと急襲を仕掛けていくのであった……。
それぞれに大小は異なるモノの、ほぼ全てがアキヅキ=シュレインがゼーガン砦にやってくる際に、街の屋台で購入した蒼い水晶がはめ込まれたペンダントに呼応して、明滅を繰り返したのである。
「ふーーーん。なるほどねえ? さすがはドワーフが細工を施したペンダントなだけはあるわね。これは魔力が込められた物品の検分にはもってこいってわけなのね?」
アキヅキが件のペンダントを、試しにアイス=ムラマサのミスリル製の大剣に近づける。するとだ、ペンダントにはめ込まれた水晶が明滅すると同時に、アイス=ムラマサの右手に持つ大剣の刃はフオンフオンとまるで共鳴でも起こしているかのように重低音を奏で始めるのであった。
「いやあ、面白いモノをもっているんだブヒッ。魔力を探査するにはもってこいのペンダントだブヒッ」
重低音を奏でながら白く明滅を繰り返す自分の得物を興味深そうに見やるアイス=ムラマサである。ちょっと自慢気なアキヅキであったのだが、ニコラスがはははっと笑いながらその気分を台無しにする一言を発する。
「隊長、いえ、司令官代理殿。銀貨500枚が無駄にならなくて良かったじゃないですか? これも始祖神:S.N.O.Jさまの計らいなんでしょうかね? これぞ、【運命】ってやつなんですかねえ?」
「うるさいわね……。わたしに【運命】なんて台詞を吐かないでほしいわ?」
急に不機嫌になったアキヅキに対して、ニコラスはしまった! と思い、はわわと両手を宙で泳がしながら必死に弁明を開始する。アキヅキはプイっと顔を背けて、ニコラスの弁を聞こうともしないのであった。
「おっ、いたいた。おーい、姫。フランに頼んでおいた後詰の砦から食料と武具、それに砦の改築用に資材を搬入してもらったから、受領書に姫のサインが欲しいんだわ」
「ん? シャクマ。また何か企んでいる気?」
籠城をするにおいて、食料と武具は必要不可欠なのは当然であった。だから、それについてはアキヅキはとやかく言うつもりはなかった。しかし、シャクマはそれだけでは足りぬとばかりに砦内を改築しようとアキヅキに提案してきていたのだ。
そして、アキヅキの了承もあり、シャクマは待ってましたとばかりに後詰の砦から資材を山ほど、ゼーガン砦に運び込ませているのである。そして、これは3度目の資材の搬入であったのだ。
「えっと。薪に油に、木材に……。ん? 竹と壺と火薬? こんなもの、どうするのよ?」
「あー。ちょっとした獣避けにな? まあ、敵が攻め込んできた時にでもわかるさ。それよりも受領書にサインをくれないか?」
アキヅキはシャクマが持ち込んだ資材の数々に首を傾げるのみであった。まあ、彼は伝説に謳われた鎧武者であるから、鎧武者らしい何かの戦術があるのだろうと、その場では深く追求しないのであった。
それからさらに1週間が過ぎる。ショウド国軍は思いのほか慎重らしく、ゼーガン砦の東側の平地となっている地帯に、野営地を建築中であった。しかも、簡素ながらも木で出来た柵すらも設置し、野営地というよりは急ごしらえの砦へと変貌させつつあったのだ。
「ニコラス隊長代理。アレ、ほっといていいですか?」
「オレ、不安。あのまま放置しておくのは愚策な気がスル」
ニコラス=ゲージはアキヅキ=シュレインが司令官代理の任に就いたあと、アキヅキ隊の隊長代理の座に就いたのであった。そして、そのニコラス隊長代理に、ウイル=パッカーとダグラス=マーシーが進言を上げるのであった。
ゼーガン砦では、日に日に目と鼻の先に着実に拠点を造り上げていくショウド国軍に対して不安と不満が高まってきていた。
それなのに、こちらからは手を出す必要は無いと、シャクマ=ノブモリが言いのけ、司令官代理であるアキヅキ=シュレインもそれを汲んで、決して、砦外にでないように、ショウド国軍を刺激しないようにとの指示を出していたのである。
しかしながら、ゼーガン砦内の燻りは収まらず、打って出るべきだとの声が日に日に高まることとなる。
元アキヅキ隊であり現ニコラス隊の面々も、アキヅキ自身には物言わぬものの、ニコラス相手には別であった。
「ニコラス隊長代理! 俺っちたちだけでも、眼の前で建設中の野営地に奇襲をしかけまッショ! アキヅキさまならきっとわかってくれるはずッショ!」
「ウム。これは妙案。オレ、タギル! 女神であらせられるアキヅキさまのために槍働きをシタイ!」
ニコラスは部下たちからの提案に困り果てることになる。ニコラス隊の隊員はアキヅキ=シュレインに惚れこんで、さらには女神と称してならない者たちばかりだ。彼らはアキヅキが自分のために死んでほしいと言えば、喜んでその命を女神に捧げる奴らばかりだ。
そんな隊員たちが今まで大人しかったほうがおかしいとも言えた。信奉する相手が身近に居るときは、彼女は彼らにとって安全弁として働いていた。しかし、今、その女性は上の地位に一足飛びで駆け上がってしまった。
それが彼らにとっては苦痛でしかたなかったのだ。再び、自分たちの手に女神をたぐりよせるためにも、ニコラス隊の隊員たちは武功を欲したのである。
「あー、わかった……。司令官代理殿には提案しておく……」
ニコラスのこの言葉がいけなかった。ニコラス隊は了承を得たと勝手に思ってしまったのである。数日後の夕暮れ時、ニコラスがゼーガン砦の改築の進捗具合について、本丸の指令室に居るアキヅキとシャクマに報告に参上した時に事件は起きる。
ゼーガン砦を囲む石壁の上に設置されていた早鐘がガンガンガーン!! とけたたましく鳴らされる。それと同時にゼーガン砦の南門が大きく開かれ、そこから10数名の若い兵士たちが右手に松明を、左手に手綱を握り、馬を駆けさせて、ショウド国軍の野営地へと急襲を仕掛けていくのであった……。
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