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第5章:後退は撤退にあらず
第4話:急襲
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戦略的後退を続けるアキヅキ=シュレインたちは森の狭路をどうにかして抜け出すことに成功する。後詰のサノー砦までは残り5キロもないところにやってきたのだ。
しかし、強行軍により、隊列は伸びに伸び、たった100名程度の1群であるのに、最前列と最後方では500メートルほどの距離が開いていた。そして、最後方では足取りの重い、約10名の兵士たちが息もたえだえに、苦しそうに脇腹を抑えながら走っていたのである。
彼らは軽傷ゆえに荷馬車に乗ることができずに、自力で走っていた者たちだ。アイス=ムラマサとシャクマ=ノブモリが彼らの尻をつついて、どうにか森を抜ける間際までやってきたのだ。この森さえ抜ければ、なだらかに降る平地を駆け抜けるだけであった。
半虎半人たちの内3人が、ひいひい言いながら逃げ惑う兵士を背後から襲おうと、森の木々の間を抜けて、さらには幹を駆け上り、枝から枝へ飛び移っていく。そして、両手の手甲から、虎の爪の如きの鈎爪が特殊なギミックを介して、ギインッ! と言う音を伴って伸びる。
「ヒャッハーーー! まずは1人ぃぃぃ。うべぼ!?」
右腕を大きく上に振りかざし、まさに獲物の背中を引き裂こうとした矢先のことであった。シャクマは腰に結わえた小袋から直径1センチメートル、長さ10センチメートルの紅い水晶を取り出し、左手の中でベキッと半分にへし折る。
その途端、彼の左手の中で炎を象った黒鉄製の紅い弓と尖った水晶が先端に取り付けられた矢が突然、現出したのだ。シャクマは素早く矢を弓につがえ、弦を引き絞る。そして、兵士の背中を鋭く獰猛な爪で引き裂かんとしていた半虎半人の眉間に矢を放つ。
その矢が半虎半人の眉間に突き刺さるや否や、その半虎半人の頭は内部から炎で焼かれることになる。
そんな仲間の悲鳴を聞き逃した他の2名の半虎半人が、うっしゃーーーぃぃぃ! と雄叫びを上げて、他の兵士を切り刻もうとする。しかし、シャクマは続けざまに炎の矢を連射する。
「おお……。ことごとく、眉間を貫くでゴザルかっ!! しかも、この草木がうっそうと生い茂る森の中でっ!?」
マッゲ=サーンは、前方の様子を見て、思わず感嘆の声をあげてしまう。見慣れぬ甲冑姿の将と思わしき男が、連続で矢を射るだけでなく、正確に眉間を射貫いたその腕前に、仲間を殺されたことよりも、感心のほうが圧倒的に彼の心へ押し寄せるのであった。
シャクマの弓の腕前を見せつけられた半虎半人たちは一旦、彼らと距離を開けることにする。そして、木々に紛れて、じわりじわりと包囲網を狭めて行く。
しかし、シャクマは木々に紛れ込んだ半虎半人たちにさらに3本の矢を射かける。放たれた矢は木々の間をすり抜け、まるで半虎半人たちのこめかみを射貫くのがあらかじめ定められたかのように、彼らの頭を砕き、炎で焼き焦がすのであった。
「はーははっ! これはとんでもない奴と出くわしたのでゴザル! こんなうっそうとした森の中で、そこまで正確に頭を狙えるのは、エルフでも無理なのでゴザル!」
マッゲ=サーンは身体をブルブルッ! と身震いさせる。ここまで武芸を磨き上げた者があのゼーガン砦に居れば、サラーヌ=ワテリオン、クラーゲン=ポティトゥの2将軍でも攻めあぐねいたのが理解できた。
「ふっ。あんなのが居たのでは、力押しによるゼーガン砦の陥落は無理だったのでゴザル。最後は汚い策でゴザッタが、サラーヌ殿は間違っていなかったというわけでゴザルな?」
マッゲはいつのまにか笑っていた。好敵手と呼んで差し支えのない男が、眼と鼻の先に居る。この男がゼーガン砦防衛の支えであったのだろうと自然にそう思えた。それゆえ、この男さえ倒してしまえば、後詰の城に大方の兵を逃がしたところで、十分に採算は取れるとマッゲは考えた。
「近づきすぎず、離れすぎず、あの奇怪な甲冑の男を追い詰めるのでゴザルッ!」
マッゲは部下たちにそう伝え、部下たちも、はっ! と短く返事をして、了承するのであった。
そして、10分ほど経った後に、ついに最後方の兵士たちは森から抜け出すことに成功する。ここからは緩やかな斜面を降り、1キロメートルほど先にあるちょっとした幅の河を渡り切れば、サノー砦までは、障害となるモノはほとんど無い。
先を行くアキヅキたちはちょうど、その河を渡っている最中であった。川幅50メートルで深さもそれほどは無い。ただ問題は、その河には橋が無かったことであった。
重傷者を乗せた荷馬車の車輪が川底で引っかかり、周りの者たちが力を合わせて、荷馬車を持ち上げて、どうにかこうにか、荷馬車を動かすことに成功する。
「よおおおし! 荷馬車は全部、河を渡り切ったんだぜっ! ほら、お前ら、へたり込んでんじゃないんだぜっ!」
ニコラス=ゲージが渡河し終えた者たちの尻を叩き、喝を入れる。右手でパンパンパーンッ! と、まるで馬に鞭を入れるかの如くに叱咤する。
「ちょっと! ニコラスさん! なんで、わたくしのお尻も叩くのです!?」
「ニャ~。ニコラスにセクハラされたニャ~。どさくさに紛れて、お尻を叩かれたニャ~」
ニコラスは自分で皆の尻を叩いておきながら、叩いた相手が誰なのかを確認していなかったのである。ニコラスに勢いよくパーーーンッ! とお尻を叩かれたサクヤ=ニィキューとフラン=パーンが顔を赤らめながらニコラスに抗議したのであった。
ニコラスが困り顔で、彼女たちをなだめる。しかしながら、彼女たちはそれでもカンカンになりながらニコラスにセクハラですわ! 訴えてやるニャ! と散々になじったのであった。渡河を終えたことで、心のどこかで安心感が産まれたのであろう。心の余裕が彼らをそうさせたとしか言いようがなかった。
「はあはあはあ。運悪く、川底が深いところに足を踏み入れちゃった……。おかげで足の先から頭のてっぺんまでずぶ濡れよ……」
全身を川の水で濡らしたアキヅキ=シュレインが文句を言いながら、渡河し終える。そんな全身ずぶ濡れのアキヅキに対して、サクヤ、フラン、ニコラスたちが、はははっと笑いながら、彼女の両手を引くのであった。
しかし、強行軍により、隊列は伸びに伸び、たった100名程度の1群であるのに、最前列と最後方では500メートルほどの距離が開いていた。そして、最後方では足取りの重い、約10名の兵士たちが息もたえだえに、苦しそうに脇腹を抑えながら走っていたのである。
彼らは軽傷ゆえに荷馬車に乗ることができずに、自力で走っていた者たちだ。アイス=ムラマサとシャクマ=ノブモリが彼らの尻をつついて、どうにか森を抜ける間際までやってきたのだ。この森さえ抜ければ、なだらかに降る平地を駆け抜けるだけであった。
半虎半人たちの内3人が、ひいひい言いながら逃げ惑う兵士を背後から襲おうと、森の木々の間を抜けて、さらには幹を駆け上り、枝から枝へ飛び移っていく。そして、両手の手甲から、虎の爪の如きの鈎爪が特殊なギミックを介して、ギインッ! と言う音を伴って伸びる。
「ヒャッハーーー! まずは1人ぃぃぃ。うべぼ!?」
右腕を大きく上に振りかざし、まさに獲物の背中を引き裂こうとした矢先のことであった。シャクマは腰に結わえた小袋から直径1センチメートル、長さ10センチメートルの紅い水晶を取り出し、左手の中でベキッと半分にへし折る。
その途端、彼の左手の中で炎を象った黒鉄製の紅い弓と尖った水晶が先端に取り付けられた矢が突然、現出したのだ。シャクマは素早く矢を弓につがえ、弦を引き絞る。そして、兵士の背中を鋭く獰猛な爪で引き裂かんとしていた半虎半人の眉間に矢を放つ。
その矢が半虎半人の眉間に突き刺さるや否や、その半虎半人の頭は内部から炎で焼かれることになる。
そんな仲間の悲鳴を聞き逃した他の2名の半虎半人が、うっしゃーーーぃぃぃ! と雄叫びを上げて、他の兵士を切り刻もうとする。しかし、シャクマは続けざまに炎の矢を連射する。
「おお……。ことごとく、眉間を貫くでゴザルかっ!! しかも、この草木がうっそうと生い茂る森の中でっ!?」
マッゲ=サーンは、前方の様子を見て、思わず感嘆の声をあげてしまう。見慣れぬ甲冑姿の将と思わしき男が、連続で矢を射るだけでなく、正確に眉間を射貫いたその腕前に、仲間を殺されたことよりも、感心のほうが圧倒的に彼の心へ押し寄せるのであった。
シャクマの弓の腕前を見せつけられた半虎半人たちは一旦、彼らと距離を開けることにする。そして、木々に紛れて、じわりじわりと包囲網を狭めて行く。
しかし、シャクマは木々に紛れ込んだ半虎半人たちにさらに3本の矢を射かける。放たれた矢は木々の間をすり抜け、まるで半虎半人たちのこめかみを射貫くのがあらかじめ定められたかのように、彼らの頭を砕き、炎で焼き焦がすのであった。
「はーははっ! これはとんでもない奴と出くわしたのでゴザル! こんなうっそうとした森の中で、そこまで正確に頭を狙えるのは、エルフでも無理なのでゴザル!」
マッゲ=サーンは身体をブルブルッ! と身震いさせる。ここまで武芸を磨き上げた者があのゼーガン砦に居れば、サラーヌ=ワテリオン、クラーゲン=ポティトゥの2将軍でも攻めあぐねいたのが理解できた。
「ふっ。あんなのが居たのでは、力押しによるゼーガン砦の陥落は無理だったのでゴザル。最後は汚い策でゴザッタが、サラーヌ殿は間違っていなかったというわけでゴザルな?」
マッゲはいつのまにか笑っていた。好敵手と呼んで差し支えのない男が、眼と鼻の先に居る。この男がゼーガン砦防衛の支えであったのだろうと自然にそう思えた。それゆえ、この男さえ倒してしまえば、後詰の城に大方の兵を逃がしたところで、十分に採算は取れるとマッゲは考えた。
「近づきすぎず、離れすぎず、あの奇怪な甲冑の男を追い詰めるのでゴザルッ!」
マッゲは部下たちにそう伝え、部下たちも、はっ! と短く返事をして、了承するのであった。
そして、10分ほど経った後に、ついに最後方の兵士たちは森から抜け出すことに成功する。ここからは緩やかな斜面を降り、1キロメートルほど先にあるちょっとした幅の河を渡り切れば、サノー砦までは、障害となるモノはほとんど無い。
先を行くアキヅキたちはちょうど、その河を渡っている最中であった。川幅50メートルで深さもそれほどは無い。ただ問題は、その河には橋が無かったことであった。
重傷者を乗せた荷馬車の車輪が川底で引っかかり、周りの者たちが力を合わせて、荷馬車を持ち上げて、どうにかこうにか、荷馬車を動かすことに成功する。
「よおおおし! 荷馬車は全部、河を渡り切ったんだぜっ! ほら、お前ら、へたり込んでんじゃないんだぜっ!」
ニコラス=ゲージが渡河し終えた者たちの尻を叩き、喝を入れる。右手でパンパンパーンッ! と、まるで馬に鞭を入れるかの如くに叱咤する。
「ちょっと! ニコラスさん! なんで、わたくしのお尻も叩くのです!?」
「ニャ~。ニコラスにセクハラされたニャ~。どさくさに紛れて、お尻を叩かれたニャ~」
ニコラスは自分で皆の尻を叩いておきながら、叩いた相手が誰なのかを確認していなかったのである。ニコラスに勢いよくパーーーンッ! とお尻を叩かれたサクヤ=ニィキューとフラン=パーンが顔を赤らめながらニコラスに抗議したのであった。
ニコラスが困り顔で、彼女たちをなだめる。しかしながら、彼女たちはそれでもカンカンになりながらニコラスにセクハラですわ! 訴えてやるニャ! と散々になじったのであった。渡河を終えたことで、心のどこかで安心感が産まれたのであろう。心の余裕が彼らをそうさせたとしか言いようがなかった。
「はあはあはあ。運悪く、川底が深いところに足を踏み入れちゃった……。おかげで足の先から頭のてっぺんまでずぶ濡れよ……」
全身を川の水で濡らしたアキヅキ=シュレインが文句を言いながら、渡河し終える。そんな全身ずぶ濡れのアキヅキに対して、サクヤ、フラン、ニコラスたちが、はははっと笑いながら、彼女の両手を引くのであった。
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