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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
58 それは神話の域の話で
しおりを挟む中庭の上で不自然に旋回する一匹の烏。その瞳は真下に向けられ、争いを眺めていた。
「《ことば》の創造って、神域の話なんじゃ……」
中庭の上を飛ぶ烏と《視覚共有》を使いながら、オーレは言葉を失うように呟く。
悪漢を倒し、王城に向かうオーレとアレッタは地道を駆けていた。
転移魔法なんてポンポンっと使えれるわけがない。転移の塔の管理者である《ルートス》ですら、一日に三回使えたらいい方。距離が遠ければ一回の日もあるほどなのだ。
「ことば? ワタシも言えるヨ?」
隣で一緒に走るアレッタは小気味よい歌を歌う。オーレは少し緊張が緩んだように笑った。
「そうだねー……《崩しことば》《只人言語》なら、アレッタちゃんは強敵になるの間違いなしだ」
含んだ言い方のオーレにアレッタは首を傾げた。
「ことば、ちがウ?」
「そうだね……《崩しことば》の親元の《創造のことば》は、神様のことばなんだ」
オーレの《ことば》で手のひらの上に《火》が出来上がり、一瞬で消えた。アレッタからは感嘆の声が漏れる。
「《創造のことば》は森羅万象を区切り、規定する力がある。水。油。光。空。時間。空間。何だっていい。ということは、その逆も可能で、森羅万象の全ては《ことば》で表すことが出来るんだ」
「難しイ」
「簡単に言うと、神様がこの世界を作った時に《ことば》を使った。それをボクら魔法使いも使ってるって感じ……でも、勇者のアレは違う」
山を吹き飛ばす魔法使いもいれば、空間を裂くほどの魔法を放つ者もいる。しかしながら、それらは全て既に神が作った《ことば》を繋ぎ合わせているだけに過ぎない。
「……いま、勇者がしたことは……この世界にない《ことば》。もしくは、未だにボクらが研究しても見つけきれていない《ことば》を強引に作ったんだ」
「……それは、すごイ?」
「ビックリするくらいに」
勇者が授けられる異能は、聖遺物を所有し、行使する権利。その他に《創造のことば》を創造する力があるとは聞いていた。
その代償は一体? オーレの表情に影が差し込む。
「勇者強くても、エレの方が強い! ワタシのママより強いんだから! 最強ダ!」
耳に入ってきたアレッタの言葉で、思わず笑ってしまった。
「ハハハッ! そっかそっか! なら、心配しなくてもいいかな。エレは強いもんね?」
アレッタと小走りに駆けながらも、オーレの表情からは不安が拭いきれていなかった。
(お兄ちゃん、頑張ってよ。会えずに終わるだなんて嫌だからね……!)
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