【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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1-1 世界把握編:小さき転生者、冒険者に興味を持つ

12 満点の夜空に這い寄る影

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 どこまでも続く草原地帯……だと思っていたのだけれど、さすがにそこまでこの世界の文明は甘いものではなかったらしい。
 歩いていると、ちらほらと人工的に作られたものが目に入ってきた。家屋や大きな街のようなものではなく、立て看板や潰れた家屋とかそんな感じのばかりだ。

(あ! そうだ、ますたーますたー。転生者って言うのは内緒でお願いできますか?)

 この頭の中に響く声も少しは慣れてきた。

「はいはい? それはまた、どうして?」

(いやですねぇ、世界の情報を記録するところがあるんですけど、世界樹っていう。そこでますたーと出会う前に少し調べてみたんですよ)

「うん? 世界樹? ……え、と、うん」

(そしたら、転生者に関する情報が全くなくて……。だから、分かるまでとりあえず秘密にしておこうと思いまして)

「……あー……、っと。僕って確か何回目かの転生者だってエリル言ってたよね?」

(第3期目の転生者です。本来なら1期と2期の人がいるはずなんですが……どこにも情報が無かったので)

「……情報がない、んだ……?」

 世界の情報が書かれてる場所に転生者の情報がない。
 つまりは、どういうことだ? 記載漏れ?

「じゃあ僕ってなんて名乗ったらいいの?」

(村人……とか?)

「村人……とかでいいの?」

(……とりあえずは?)

「そっかぁ」

 村人かぁ。
 農耕の知識とか、酪農の知識とか全くないけどいいのかな。そこらへんの草でも握ってたらそれっぽい……わけないか。

「神様に聞いてみたら? あの白髪の」

(……うむぅ。そうしたいのは山々ですけど、実はあの神様に内緒で来てるんですよねぇー……) 

「え゛っ」

(内緒ですよ! お忍びなんです!)

 お忍びでサポートしに来たって?

「……配属されたって言ってたから、てっきり仲良しというか、部下的なあれかと思ってたのに」

(部下とかじゃないですよお! サポートとか、配属はもーっと上からのやつです! その証拠に、私この世界のことほとんど知りませんもん!)

 それで、サポーターとはいかに。

「何しに来たの? あっ、別に変な意味じゃなくて、意図ね意図。今期からサポートしにきたって言ってたけど」

(私もよくわかんないんですよねぇ、へへ。上から「行けえっ!」って言われたから来ちゃいました。あっ、でも! 任されたらからには、ぜんっりょくでサポートさせてもらいますよ! えっへん!)

 元気よく返事を返す姿が頭に浮かぶ。
 小さな体で胸を張って、鼻高々に、ドヤ顔かな。

(んむぅ、それでもやっぱり転生者に関する情報がないのは不思議ですよねぇ~……。もう少し調べてきていいですか? ちょっと席を離すことになるんですけど……)

「ん、いいよいいよ。そこら辺は全部任せます」

(そうですか! なら、少しおやすみモードに入りますね!)

「うん、おやすみ~?」

 お休みモード……。人間の睡眠するのと同じようなものなのかな? 
 球体になる人も休憩は必要だものな、不安だからずっとサポートしておいてほしいのが正直なところだけど。
 
「あっ! 佳奈のことを調べてきてって……エリルー……? 起きてるー……? もしもーし」

 とその後も何回か読んでみてもエリルからの反応が無くなったことで、一気に静かな時間が訪れた。

「まぁ、せかせかしてもダメか……。満喫、ねぇー……この世界を満喫かぁ」

 それにしてもあんなにのんびり人と話しながら外を歩いたのはいつぶりだろう。
 これからの人生はさっきまでみたいにのんびりと過ごすこともできるのか。僕がのんびりとかできるかなあ。のんびりできる自信がない。結局あれこれと予定とかすることを決めて駆けずり回ってそう。
 自分の今後を考えると、ネガティブな事しか思いつかないな……一旦考えるのやめる?

 このように絶賛頭が混乱しているが、転生した実感はまだない。

 たしかにボードと呼ばれていたモノでステータスを確認したりとか、髪型や髪色、目の色が変わっていたのは驚いたけど……。寝て起きたらまたベッドの上で、朝からバイトが始まるのではないかと考えてしまう。

「あー、もう考えるのやめよう。新しい世界だ! 夢でも今のこの瞬間を楽しもう! だってこんなに空も綺麗で……。綺麗で……って、あれ?」

 そう、綺麗な。雲一つない綺麗な夜空が広がっていた。
 空を見上げる僕の瞳には満天な星空が散りばめられ、少女漫画よろしくな目の輝きをしているに違いない。
 そんな見惚れてしまいそうな星空だというのに、僕は広げていた手をテンションと共に下げていった。

「こんなに……空、暗かったっけ……?」

 ここでようやく日が沈み街灯もなく、家屋からの光もない、純粋な月光しかない草原に1人で歩いていることに気づいた。

「ちょっ、ちょっと待てよ? さすがに何も知らない世界をこんな夜にぶらぶらと歩いていてもいいのか!? 不審者とか、僕って今子どもだし、保護者同伴の方が。いや、その前にモンスターとか……」

 ――ガサッ。

「ひっ!?」

 月明かりがあるとはいえ、ほとんど暗闇な視界でなにかが背が高い草から草へと移動しているを感じた。

「いま、なにか……動いた?」

 目で捉えてはないが、確かになにかが移動する音が聞こえた。それもだんだんと近づいてきている。
 1匹や2匹じゃない……!?

「に、逃げないと……!」

 何が来ているのか分からない、けど、人ではないことは確か。

 僕の膝の高さ程で胴長な――いやどうでもいい! よくはないが、とりあえず逃げよう!!

 考えている暇はなく、一目散と音が聞こえた方向とは逆に走り出した。
 突然、置かれている状況が変わった。

「なにがっ……この世界に転生したことに実感がないだ!! 平和的に考えすぎだった!」

 この世界で初めて味わう恐怖。

 先程までエリルとのんびり話してた時間で、明るいうちに人と会ってって色々考えれたはずだろ!! 転生したっていう常識外のことでそこまで回ってなかったってことか!?
 自分の走る音とは別の音――明らかに僕よりも早いスピードで後を追ってくる音がいくつも感じられる。
 このままこの小さな体で走って逃げ切れるような相手ならいいけど、無理だよな……っ!

 そこで、ふと頭に過ったのは自分のステータス。
 使えないスキルばかりって言ってたけど、さすがに全部が全部使えないってわけじゃないだろう!

「言語理解──は違うか。神運!……もダメだよなぁ!」

 後ろから迫る音が止まることなんてない。
 〇〇理解とか戦闘に役立つわけがないゴミスキルだ。早期習熟も、ただ理解が早まるってだけ。

「異世界だろっ……火とか、風とか、出してみろよ──」

 愚痴っている間に、真後ろまで迫ってきた気配。
 くっそ!! 背中でそのまま食われるよりも、真正面を向いた方がまだなにか出来んだろ!

「あーーもーー!! なんとでもなれ! どうせ一度死んだんだ――《魔素操作》!!」

『!!…………』

 僕の間の抜けた小さな声が、静かな空間にとてもよく通った。
 火が出る訳でもなく、水が出るわけでもなく、嵐が吹き荒れるわけでもない。
 煩く叫んだだけの言葉、それに驚いた気配の正体――狼が体を曲げて、こちらの出方をうかがっている。
 そう、それだけだった。

「なっ、えっ」

 《魔素操作》が使えないのなら、僕は、本当に何ができるんだ???

 スキルは未習得だったから。本当に、なにもできないのか!?
 混乱のあまり一瞬気を抜くと、6匹の狼がヨダレを垂らしながら飛びかかってきていた。

「ふっざけんな、ふざけんなよ! 神も、お前等も! いきなり過ぎるんだよ……!」

 飛びかかってくる狼を持っていた木の枝で止めようとした。
 ――バキッ。
 
「まじ、か……よ!!」

 飛びかかってきた狼の口元に枝を持っていったのだが、綺麗に噛み砕かれてしまった。
 木の枝で減速した一匹の狼は群れの中に素早く退避し、横に広がりこちらにじりじりと距離を詰めてくる。

「くっそ、転生してすぐ死んだんじゃ笑いもんだな……」

 囲まれてはダメだと思い、こちらも後退しながらできるだけ戦いやすいような状況作りを試みる。

「なんで、こんなに頭はクリアなんだろうな……足なんかやっばい動きしてるけどさ」

 本来ならパニックになってもいいと思うのに、目の前の狼に対しありえないくらい思考がクリアだった。
 口からすごく投げやりな言葉は出てくるが、必死にこの状況を切り抜ける案を探している。

『グルルルッ』っと狼が唸った。

 握る手に汗が滲むのを感じる。
 狼達は何故か、向こうからは動いてこようとはしない。さっきの大声にビビったのか? 
 こいつら魔物モンスターは人の倒し方とかを知ってるから、こんなにも用心深い、とか。だとしたらありがたい、僕みたいなただの一般人にもこんなに丁寧にしてくれるんだから。
 いや、まぁ、殺しにくる気は満々なんだろうけど。

「……それほどの知性があるなら会話できるのでは?」

 やってみる価値はあるな。

「……もしもし? 聞こえますか? 会話できます?」

 言葉を発すると狼は動きを止め、僕を見る目が変わった。

「僕は、その……美味しくないし、なんか、えっと……豚とか牛とかの方が大変美味しく感じられると思いますが……」

『……』

「鳥とか……? 羊も、美味しいし……。日本産のお肉はどれも美味しいのですが」

『……』

 あっ、ダメだ。会話できないタイプだ。
 会話を持ちかけようとしたことで、狼の中で僕に対しての警戒が無くなったのも何となく分かった。
 ――ガツン。

「ぅあ?」

 僕が後ろずさる足の先にあったのは大きな石。
 それに躓き、よろめいた隙を好機とした狼達はこちらに飛び掛ってきた。

「いっ――!?」

 そのまま圧に押され尻もちを着いたことで、地面に手をついてしまう。
 死んだ、絶対。もう終わり……!? 
 僕の第二の人生はもう終わりなのか!??
 いや、勇気を振り絞って立ち向かえただけでも十分か? 
 入学式だけ変にやる気のある学生でも、狼相手に棒を持って立ち向かうことなんてできないだろうさ!
 いや、これ、多分、血圧が高くなって気分が上がってるだけ――って! そうこうしてる間に目の前に狼が要るんですけども!!

「た、たすけてくださっ……!!」

 飛びかかってくる狼に対して何もすることも出来ず目を瞑り、顔を背けた――

「迷子か?」

「い……?」

 突然聞こえた男の声。それとほぼ同時に聞こえてきたギャインっという鳴き声。
 そうかと思うと、近くで鈍い落下音のような音が何度か聞こえた。
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