14 / 283
1-1 世界把握編:小さき転生者、冒険者に興味を持つ
12 満点の夜空に這い寄る影
しおりを挟む
どこまでも続く草原地帯……だと思っていたのだけれど、さすがにそこまでこの世界の文明は甘いものではなかったらしい。
歩いていると、ちらほらと人工的に作られたものが目に入ってきた。家屋や大きな街のようなものではなく、立て看板や潰れた家屋とかそんな感じのばかりだ。
(あ! そうだ、ますたーますたー。転生者って言うのは内緒でお願いできますか?)
この頭の中に響く声も少しは慣れてきた。
「はいはい? それはまた、どうして?」
(いやですねぇ、世界の情報を記録するところがあるんですけど、世界樹っていう。そこでますたーと出会う前に少し調べてみたんですよ)
「うん? 世界樹? ……え、と、うん」
(そしたら、転生者に関する情報が全くなくて……。だから、分かるまでとりあえず秘密にしておこうと思いまして)
「……あー……、っと。僕って確か何回目かの転生者だってエリル言ってたよね?」
(第3期目の転生者です。本来なら1期と2期の人がいるはずなんですが……どこにも情報が無かったので)
「……情報がない、んだ……?」
世界の情報が書かれてる場所に転生者の情報がない。
つまりは、どういうことだ? 記載漏れ?
「じゃあ僕ってなんて名乗ったらいいの?」
(村人……とか?)
「村人……とかでいいの?」
(……とりあえずは?)
「そっかぁ」
村人かぁ。
農耕の知識とか、酪農の知識とか全くないけどいいのかな。そこらへんの草でも握ってたらそれっぽい……わけないか。
「神様に聞いてみたら? あの白髪の」
(……うむぅ。そうしたいのは山々ですけど、実はあの神様に内緒で来てるんですよねぇー……)
「え゛っ」
(内緒ですよ! お忍びなんです!)
お忍びでサポートしに来たって?
「……配属されたって言ってたから、てっきり仲良しというか、部下的なあれかと思ってたのに」
(部下とかじゃないですよお! サポートとか、配属はもーっと上からのやつです! その証拠に、私この世界のことほとんど知りませんもん!)
それで、サポーターとはいかに。
「何しに来たの? あっ、別に変な意味じゃなくて、意図ね意図。今期からサポートしにきたって言ってたけど」
(私もよくわかんないんですよねぇ、へへ。上から「行けえっ!」って言われたから来ちゃいました。あっ、でも! 任されたらからには、ぜんっりょくでサポートさせてもらいますよ! えっへん!)
元気よく返事を返す姿が頭に浮かぶ。
小さな体で胸を張って、鼻高々に、ドヤ顔かな。
(んむぅ、それでもやっぱり転生者に関する情報がないのは不思議ですよねぇ~……。もう少し調べてきていいですか? ちょっと席を離すことになるんですけど……)
「ん、いいよいいよ。そこら辺は全部任せます」
(そうですか! なら、少しおやすみモードに入りますね!)
「うん、おやすみ~?」
お休みモード……。人間の睡眠するのと同じようなものなのかな?
球体になる人も休憩は必要だものな、不安だからずっとサポートしておいてほしいのが正直なところだけど。
「あっ! 佳奈のことを調べてきてって……エリルー……? 起きてるー……? もしもーし」
とその後も何回か読んでみてもエリルからの反応が無くなったことで、一気に静かな時間が訪れた。
「まぁ、せかせかしてもダメか……。満喫、ねぇー……この世界を満喫かぁ」
それにしてもあんなにのんびり人と話しながら外を歩いたのはいつぶりだろう。
これからの人生はさっきまでみたいにのんびりと過ごすこともできるのか。僕がのんびりとかできるかなあ。のんびりできる自信がない。結局あれこれと予定とかすることを決めて駆けずり回ってそう。
自分の今後を考えると、ネガティブな事しか思いつかないな……一旦考えるのやめる?
このように絶賛頭が混乱しているが、転生した実感はまだない。
たしかにボードと呼ばれていたモノでステータスを確認したりとか、髪型や髪色、目の色が変わっていたのは驚いたけど……。寝て起きたらまたベッドの上で、朝からバイトが始まるのではないかと考えてしまう。
「あー、もう考えるのやめよう。新しい世界だ! 夢でも今のこの瞬間を楽しもう! だってこんなに空も綺麗で……。綺麗で……って、あれ?」
そう、綺麗な。雲一つない綺麗な夜空が広がっていた。
空を見上げる僕の瞳には満天な星空が散りばめられ、少女漫画よろしくな目の輝きをしているに違いない。
そんな見惚れてしまいそうな星空だというのに、僕は広げていた手をテンションと共に下げていった。
「こんなに……空、暗かったっけ……?」
ここでようやく日が沈み街灯もなく、家屋からの光もない、純粋な月光しかない草原に1人で歩いていることに気づいた。
「ちょっ、ちょっと待てよ? さすがに何も知らない世界をこんな夜にぶらぶらと歩いていてもいいのか!? 不審者とか、僕って今子どもだし、保護者同伴の方が。いや、その前にモンスターとか……」
――ガサッ。
「ひっ!?」
月明かりがあるとはいえ、ほとんど暗闇な視界でなにかが背が高い草から草へと移動しているを感じた。
「いま、なにか……動いた?」
目で捉えてはないが、確かになにかが移動する音が聞こえた。それもだんだんと近づいてきている。
1匹や2匹じゃない……!?
「に、逃げないと……!」
何が来ているのか分からない、けど、人ではないことは確か。
僕の膝の高さ程で胴長な――いやどうでもいい! よくはないが、とりあえず逃げよう!!
考えている暇はなく、一目散と音が聞こえた方向とは逆に走り出した。
突然、置かれている状況が変わった。
「なにがっ……この世界に転生したことに実感がないだ!! 平和的に考えすぎだった!」
この世界で初めて味わう恐怖。
先程までエリルとのんびり話してた時間で、明るいうちに人と会ってって色々考えれたはずだろ!! 転生したっていう常識外のことでそこまで回ってなかったってことか!?
自分の走る音とは別の音――明らかに僕よりも早いスピードで後を追ってくる音がいくつも感じられる。
このままこの小さな体で走って逃げ切れるような相手ならいいけど、無理だよな……っ!
そこで、ふと頭に過ったのは自分のステータス。
使えないスキルばかりって言ってたけど、さすがに全部が全部使えないってわけじゃないだろう!
「言語理解──は違うか。神運!……もダメだよなぁ!」
後ろから迫る音が止まることなんてない。
〇〇理解とか戦闘に役立つわけがないゴミスキルだ。早期習熟も、ただ理解が早まるってだけ。
「異世界だろっ……火とか、風とか、出してみろよ──」
愚痴っている間に、真後ろまで迫ってきた気配。
くっそ!! 背中でそのまま食われるよりも、真正面を向いた方がまだなにか出来んだろ!
「あーーもーー!! なんとでもなれ! どうせ一度死んだんだ――《魔素操作》!!」
『!!…………』
僕の間の抜けた小さな声が、静かな空間にとてもよく通った。
火が出る訳でもなく、水が出るわけでもなく、嵐が吹き荒れるわけでもない。
煩く叫んだだけの言葉、それに驚いた気配の正体――狼が体を曲げて、こちらの出方をうかがっている。
そう、それだけだった。
「なっ、えっ」
《魔素操作》が使えないのなら、僕は、本当に何ができるんだ???
スキルは未習得だったから。本当に、なにもできないのか!?
混乱のあまり一瞬気を抜くと、6匹の狼がヨダレを垂らしながら飛びかかってきていた。
「ふっざけんな、ふざけんなよ! 神も、お前等も! いきなり過ぎるんだよ……!」
飛びかかってくる狼を持っていた木の枝で止めようとした。
――バキッ。
「まじ、か……よ!!」
飛びかかってきた狼の口元に枝を持っていったのだが、綺麗に噛み砕かれてしまった。
木の枝で減速した一匹の狼は群れの中に素早く退避し、横に広がりこちらにじりじりと距離を詰めてくる。
「くっそ、転生してすぐ死んだんじゃ笑いもんだな……」
囲まれてはダメだと思い、こちらも後退しながらできるだけ戦いやすいような状況作りを試みる。
「なんで、こんなに頭はクリアなんだろうな……足なんかやっばい動きしてるけどさ」
本来ならパニックになってもいいと思うのに、目の前の狼に対しありえないくらい思考がクリアだった。
口からすごく投げやりな言葉は出てくるが、必死にこの状況を切り抜ける案を探している。
『グルルルッ』っと狼が唸った。
握る手に汗が滲むのを感じる。
狼達は何故か、向こうからは動いてこようとはしない。さっきの大声にビビったのか?
こいつら魔物は人の倒し方とかを知ってるから、こんなにも用心深い、とか。だとしたらありがたい、僕みたいなただの一般人にもこんなに丁寧にしてくれるんだから。
いや、まぁ、殺しにくる気は満々なんだろうけど。
「……それほどの知性があるなら会話できるのでは?」
やってみる価値はあるな。
「……もしもし? 聞こえますか? 会話できます?」
言葉を発すると狼は動きを止め、僕を見る目が変わった。
「僕は、その……美味しくないし、なんか、えっと……豚とか牛とかの方が大変美味しく感じられると思いますが……」
『……』
「鳥とか……? 羊も、美味しいし……。日本産のお肉はどれも美味しいのですが」
『……』
あっ、ダメだ。会話できないタイプだ。
会話を持ちかけようとしたことで、狼の中で僕に対しての警戒が無くなったのも何となく分かった。
――ガツン。
「ぅあ?」
僕が後ろずさる足の先にあったのは大きな石。
それに躓き、よろめいた隙を好機とした狼達はこちらに飛び掛ってきた。
「いっ――!?」
そのまま圧に押され尻もちを着いたことで、地面に手をついてしまう。
死んだ、絶対。もう終わり……!?
僕の第二の人生はもう終わりなのか!??
いや、勇気を振り絞って立ち向かえただけでも十分か?
入学式だけ変にやる気のある学生でも、狼相手に棒を持って立ち向かうことなんてできないだろうさ!
いや、これ、多分、血圧が高くなって気分が上がってるだけ――って! そうこうしてる間に目の前に狼が要るんですけども!!
「た、たすけてくださっ……!!」
飛びかかってくる狼に対して何もすることも出来ず目を瞑り、顔を背けた――
「迷子か?」
「い……?」
突然聞こえた男の声。それとほぼ同時に聞こえてきたギャインっという鳴き声。
そうかと思うと、近くで鈍い落下音のような音が何度か聞こえた。
歩いていると、ちらほらと人工的に作られたものが目に入ってきた。家屋や大きな街のようなものではなく、立て看板や潰れた家屋とかそんな感じのばかりだ。
(あ! そうだ、ますたーますたー。転生者って言うのは内緒でお願いできますか?)
この頭の中に響く声も少しは慣れてきた。
「はいはい? それはまた、どうして?」
(いやですねぇ、世界の情報を記録するところがあるんですけど、世界樹っていう。そこでますたーと出会う前に少し調べてみたんですよ)
「うん? 世界樹? ……え、と、うん」
(そしたら、転生者に関する情報が全くなくて……。だから、分かるまでとりあえず秘密にしておこうと思いまして)
「……あー……、っと。僕って確か何回目かの転生者だってエリル言ってたよね?」
(第3期目の転生者です。本来なら1期と2期の人がいるはずなんですが……どこにも情報が無かったので)
「……情報がない、んだ……?」
世界の情報が書かれてる場所に転生者の情報がない。
つまりは、どういうことだ? 記載漏れ?
「じゃあ僕ってなんて名乗ったらいいの?」
(村人……とか?)
「村人……とかでいいの?」
(……とりあえずは?)
「そっかぁ」
村人かぁ。
農耕の知識とか、酪農の知識とか全くないけどいいのかな。そこらへんの草でも握ってたらそれっぽい……わけないか。
「神様に聞いてみたら? あの白髪の」
(……うむぅ。そうしたいのは山々ですけど、実はあの神様に内緒で来てるんですよねぇー……)
「え゛っ」
(内緒ですよ! お忍びなんです!)
お忍びでサポートしに来たって?
「……配属されたって言ってたから、てっきり仲良しというか、部下的なあれかと思ってたのに」
(部下とかじゃないですよお! サポートとか、配属はもーっと上からのやつです! その証拠に、私この世界のことほとんど知りませんもん!)
それで、サポーターとはいかに。
「何しに来たの? あっ、別に変な意味じゃなくて、意図ね意図。今期からサポートしにきたって言ってたけど」
(私もよくわかんないんですよねぇ、へへ。上から「行けえっ!」って言われたから来ちゃいました。あっ、でも! 任されたらからには、ぜんっりょくでサポートさせてもらいますよ! えっへん!)
元気よく返事を返す姿が頭に浮かぶ。
小さな体で胸を張って、鼻高々に、ドヤ顔かな。
(んむぅ、それでもやっぱり転生者に関する情報がないのは不思議ですよねぇ~……。もう少し調べてきていいですか? ちょっと席を離すことになるんですけど……)
「ん、いいよいいよ。そこら辺は全部任せます」
(そうですか! なら、少しおやすみモードに入りますね!)
「うん、おやすみ~?」
お休みモード……。人間の睡眠するのと同じようなものなのかな?
球体になる人も休憩は必要だものな、不安だからずっとサポートしておいてほしいのが正直なところだけど。
「あっ! 佳奈のことを調べてきてって……エリルー……? 起きてるー……? もしもーし」
とその後も何回か読んでみてもエリルからの反応が無くなったことで、一気に静かな時間が訪れた。
「まぁ、せかせかしてもダメか……。満喫、ねぇー……この世界を満喫かぁ」
それにしてもあんなにのんびり人と話しながら外を歩いたのはいつぶりだろう。
これからの人生はさっきまでみたいにのんびりと過ごすこともできるのか。僕がのんびりとかできるかなあ。のんびりできる自信がない。結局あれこれと予定とかすることを決めて駆けずり回ってそう。
自分の今後を考えると、ネガティブな事しか思いつかないな……一旦考えるのやめる?
このように絶賛頭が混乱しているが、転生した実感はまだない。
たしかにボードと呼ばれていたモノでステータスを確認したりとか、髪型や髪色、目の色が変わっていたのは驚いたけど……。寝て起きたらまたベッドの上で、朝からバイトが始まるのではないかと考えてしまう。
「あー、もう考えるのやめよう。新しい世界だ! 夢でも今のこの瞬間を楽しもう! だってこんなに空も綺麗で……。綺麗で……って、あれ?」
そう、綺麗な。雲一つない綺麗な夜空が広がっていた。
空を見上げる僕の瞳には満天な星空が散りばめられ、少女漫画よろしくな目の輝きをしているに違いない。
そんな見惚れてしまいそうな星空だというのに、僕は広げていた手をテンションと共に下げていった。
「こんなに……空、暗かったっけ……?」
ここでようやく日が沈み街灯もなく、家屋からの光もない、純粋な月光しかない草原に1人で歩いていることに気づいた。
「ちょっ、ちょっと待てよ? さすがに何も知らない世界をこんな夜にぶらぶらと歩いていてもいいのか!? 不審者とか、僕って今子どもだし、保護者同伴の方が。いや、その前にモンスターとか……」
――ガサッ。
「ひっ!?」
月明かりがあるとはいえ、ほとんど暗闇な視界でなにかが背が高い草から草へと移動しているを感じた。
「いま、なにか……動いた?」
目で捉えてはないが、確かになにかが移動する音が聞こえた。それもだんだんと近づいてきている。
1匹や2匹じゃない……!?
「に、逃げないと……!」
何が来ているのか分からない、けど、人ではないことは確か。
僕の膝の高さ程で胴長な――いやどうでもいい! よくはないが、とりあえず逃げよう!!
考えている暇はなく、一目散と音が聞こえた方向とは逆に走り出した。
突然、置かれている状況が変わった。
「なにがっ……この世界に転生したことに実感がないだ!! 平和的に考えすぎだった!」
この世界で初めて味わう恐怖。
先程までエリルとのんびり話してた時間で、明るいうちに人と会ってって色々考えれたはずだろ!! 転生したっていう常識外のことでそこまで回ってなかったってことか!?
自分の走る音とは別の音――明らかに僕よりも早いスピードで後を追ってくる音がいくつも感じられる。
このままこの小さな体で走って逃げ切れるような相手ならいいけど、無理だよな……っ!
そこで、ふと頭に過ったのは自分のステータス。
使えないスキルばかりって言ってたけど、さすがに全部が全部使えないってわけじゃないだろう!
「言語理解──は違うか。神運!……もダメだよなぁ!」
後ろから迫る音が止まることなんてない。
〇〇理解とか戦闘に役立つわけがないゴミスキルだ。早期習熟も、ただ理解が早まるってだけ。
「異世界だろっ……火とか、風とか、出してみろよ──」
愚痴っている間に、真後ろまで迫ってきた気配。
くっそ!! 背中でそのまま食われるよりも、真正面を向いた方がまだなにか出来んだろ!
「あーーもーー!! なんとでもなれ! どうせ一度死んだんだ――《魔素操作》!!」
『!!…………』
僕の間の抜けた小さな声が、静かな空間にとてもよく通った。
火が出る訳でもなく、水が出るわけでもなく、嵐が吹き荒れるわけでもない。
煩く叫んだだけの言葉、それに驚いた気配の正体――狼が体を曲げて、こちらの出方をうかがっている。
そう、それだけだった。
「なっ、えっ」
《魔素操作》が使えないのなら、僕は、本当に何ができるんだ???
スキルは未習得だったから。本当に、なにもできないのか!?
混乱のあまり一瞬気を抜くと、6匹の狼がヨダレを垂らしながら飛びかかってきていた。
「ふっざけんな、ふざけんなよ! 神も、お前等も! いきなり過ぎるんだよ……!」
飛びかかってくる狼を持っていた木の枝で止めようとした。
――バキッ。
「まじ、か……よ!!」
飛びかかってきた狼の口元に枝を持っていったのだが、綺麗に噛み砕かれてしまった。
木の枝で減速した一匹の狼は群れの中に素早く退避し、横に広がりこちらにじりじりと距離を詰めてくる。
「くっそ、転生してすぐ死んだんじゃ笑いもんだな……」
囲まれてはダメだと思い、こちらも後退しながらできるだけ戦いやすいような状況作りを試みる。
「なんで、こんなに頭はクリアなんだろうな……足なんかやっばい動きしてるけどさ」
本来ならパニックになってもいいと思うのに、目の前の狼に対しありえないくらい思考がクリアだった。
口からすごく投げやりな言葉は出てくるが、必死にこの状況を切り抜ける案を探している。
『グルルルッ』っと狼が唸った。
握る手に汗が滲むのを感じる。
狼達は何故か、向こうからは動いてこようとはしない。さっきの大声にビビったのか?
こいつら魔物は人の倒し方とかを知ってるから、こんなにも用心深い、とか。だとしたらありがたい、僕みたいなただの一般人にもこんなに丁寧にしてくれるんだから。
いや、まぁ、殺しにくる気は満々なんだろうけど。
「……それほどの知性があるなら会話できるのでは?」
やってみる価値はあるな。
「……もしもし? 聞こえますか? 会話できます?」
言葉を発すると狼は動きを止め、僕を見る目が変わった。
「僕は、その……美味しくないし、なんか、えっと……豚とか牛とかの方が大変美味しく感じられると思いますが……」
『……』
「鳥とか……? 羊も、美味しいし……。日本産のお肉はどれも美味しいのですが」
『……』
あっ、ダメだ。会話できないタイプだ。
会話を持ちかけようとしたことで、狼の中で僕に対しての警戒が無くなったのも何となく分かった。
――ガツン。
「ぅあ?」
僕が後ろずさる足の先にあったのは大きな石。
それに躓き、よろめいた隙を好機とした狼達はこちらに飛び掛ってきた。
「いっ――!?」
そのまま圧に押され尻もちを着いたことで、地面に手をついてしまう。
死んだ、絶対。もう終わり……!?
僕の第二の人生はもう終わりなのか!??
いや、勇気を振り絞って立ち向かえただけでも十分か?
入学式だけ変にやる気のある学生でも、狼相手に棒を持って立ち向かうことなんてできないだろうさ!
いや、これ、多分、血圧が高くなって気分が上がってるだけ――って! そうこうしてる間に目の前に狼が要るんですけども!!
「た、たすけてくださっ……!!」
飛びかかってくる狼に対して何もすることも出来ず目を瞑り、顔を背けた――
「迷子か?」
「い……?」
突然聞こえた男の声。それとほぼ同時に聞こえてきたギャインっという鳴き声。
そうかと思うと、近くで鈍い落下音のような音が何度か聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる