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1-3 世界把握編:小さき転生者、進路に悩む
27 エルシアVSホワイトボグ
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出てきた魔物《モンスター》を見て、僕は釘付けになっていた。
「くま……シロクマ……」
「ホワイトボグって魔物だ。ボグとかなんとか言うが……白いクマだな」
白いクマと聞いてかわいらしいのを思い描いてしまうが、それは大間違いだ。
正しくは、僕の体より何倍もある木を根っこから引き抜き、それを片手に持っていて全長を5mを超えているだろう巨体を立たている。
「お、大きすぎる……!」
離れた森林部から姿を現したというのに目線が少し上を向いてしまう、それほどまでに存在感がある。
息が荒く、うっすらと目を開けてこちらを見てくる。
その鋭い目で見られるだけで、僕との間にある圧倒的な実力差を頭が理解し、「僕は勝てない」「逃げろ」と警鐘が鳴り響いた。
そして、意識がホワイトボグから自分の体に戻ると、一歩、また一歩と後退りを無意識にしていたことに気づく。
「んん~……CとBの間くらい?」
「それくらいかな? わからん。でもエルシアのレベルよりは低いはずだからいけると思うぞ」
あんなに大きい魔物を目の前に二人は何を話しているんだ!? 僕はアレに対して、膝が笑っているのだが……!
そうしていると、魔物の目線がムロさんからエルシアさんのほうに移り、止まった。
「お? エルシアに標的が行ってるみたいだぞ、ちょうどいいから戦ってみたらどうだ?」
「私、お風呂後だからあまり汗かきたくないんだけど……」
2人が会話をしているのをよく思わなかったのか、ホワイトボグは手に持っていた大きな木をエルシアさんの顔面目掛けて投げた。
「はぁ……ったく、もう!!」
エルシアさんがそれをおとなしく受け止めるはずなく、飛んできた木を体を前傾姿勢にすることで回避し、何かを唱えだした。
「『身体強化』、『脚力増強』、『俊敏』……」
後半は聞こえなかったのだが、唱えるたびにエルシアさんから白色の魔素が出ているのが見えた。
魔物の黒色とは違って白色……?
「せっかく、人がいい気分だったってのに責任取れよ! このホワイトボグ!!」
そういうとエルシアさんは土を抉り、馬の魔物の首をへし折った時の動きよりも更に俊敏な動きで、ホワイトボグとの距離を詰めた。
それに対し魔物も動きを予測し、おそらく来るであろう位置に目掛けて真っ直ぐに右腕で殴りかかろうとした。
「ばーか」
途中で体勢を変えることで軌道修正をして、魔物が描いていた予測位置をずらしたようだ。
そしてそのまま引くことができずに伸び切った腕を、先端から肘辺りまでを上るように連続で攻撃をしていくのが見えた。
『ガアアアァァアッ!!!??』
エルシアさんを視界にとらえることができずに、腕を引くまでにホワイドボグの右手は血だらけになって、終いにはぶらんと下に垂れた。
「かったいなぁ……」
本当はもっと傷をつけるはずだったと残念がる様子のエルシアさんだが、僕にはその動きを目で追うのに精一杯だった。
あんなに高速で動くって……あれが人にできる動きなのか……?
その動きに見入っていると、横からムロさんがふらっとやってきた。
「坊主、ちゃんと見てるか」
「はい……みてるけど、何が起こってるのかがよく……」
僕の答えにニヤニヤと笑い、話を続けた。
「エルシアは機動力があるけど決定打がねぇんだ。そこを克服するためには、魔素を使用して自己強化するスキルを使わないといけない」
「自己強化のスキル……? あ、もしかして最初に呟いてたやつが」
「そういうこと。エルシアはそれを練習中って感じだな。あれでもまだ最高速じゃないんだが……まぁ、坊主には目で追うのがやっとって感じか」
「あれよりも早く動けれるんですか!?」
残像が見える程の高速移動、それよりも早いってことか? 人間の基礎能力みたいなのが違いすぎる……。
50m走で6秒00で鼻高々になってた友人に教えてやりたい。そんな人にお風呂で弄ばれたんだぞって言ったら、どんな顔をするだろうか。
「まぁ、今のアイツみたいに自己強化ってやり方以外にも倒し方は色々ある。まぁ、見てりゃ分かると思う」
「……?」
エルシアさんの連撃はムロさんの説明中にも続いていて、ホワイトボグはすでにその動きについていけてない様子。だが、そこまで傷を負っていないのを見ると本当にあの魔物の皮膚は硬いらしい。
その後数秒間は動かなくなったホワイトボグの右手に追い打ちをかけ切断しようとしていたのだが、突然、動きを止めた。
「はぁ~……なんだかなぁ」
「えっ!? は!?? エルシアさん! 危ない!!」
素早い動きを止めてため息をついたエルシアさんに、ホワイトボグは渾身の一撃を左手で撃った。
鈍い音が響き、僕は思わず目を閉じた。
エルシアさんは……どうなった……?
あの攻撃がどうなったのか気になって、恐る恐る目を開けた。
すると、そこにはホワイトボグの左手が関節の反対側に曲がって骨がむき出しになっている姿があった。
「あ……相手の力を……利用する」
僕がぼそっと呟いた言葉。そしたらムロさんが髪の毛をわしゃわしゃと触って向こうに行った。
正解……って事なのかな?
ボサボサになった髪の毛に触れていると、エルシアさんの声が聞こえてきた。
「どう? 当たるはずの攻撃が外れて、自慢の腕が折れた気分は」
『グゥゥゥアァァウアゥアア………!!!』と怒りの感情が混じった叫びを上げ、ホワイトボグはよろめいた。
そして、使えなくなった両腕を庇うようにエルシアさんから距離を取るように森林方向に下がっていった。
「どうしたの? さっきまでの威勢はどこに行ったのさ」
『アアアアアッ……』
小刀をクルクルと回して目の前の手負いの魔物を煽り、間合いを詰めていく。
エルシアさんが詰めてくるのに対し、ホワイトボグは静止し近づいてくるエルシアさんをじっと観ている。
勝ちを確信している様子のエルシアさん。
だけど……、ぼくはなにか引っかかっていた。
「くま……シロクマ……」
「ホワイトボグって魔物だ。ボグとかなんとか言うが……白いクマだな」
白いクマと聞いてかわいらしいのを思い描いてしまうが、それは大間違いだ。
正しくは、僕の体より何倍もある木を根っこから引き抜き、それを片手に持っていて全長を5mを超えているだろう巨体を立たている。
「お、大きすぎる……!」
離れた森林部から姿を現したというのに目線が少し上を向いてしまう、それほどまでに存在感がある。
息が荒く、うっすらと目を開けてこちらを見てくる。
その鋭い目で見られるだけで、僕との間にある圧倒的な実力差を頭が理解し、「僕は勝てない」「逃げろ」と警鐘が鳴り響いた。
そして、意識がホワイトボグから自分の体に戻ると、一歩、また一歩と後退りを無意識にしていたことに気づく。
「んん~……CとBの間くらい?」
「それくらいかな? わからん。でもエルシアのレベルよりは低いはずだからいけると思うぞ」
あんなに大きい魔物を目の前に二人は何を話しているんだ!? 僕はアレに対して、膝が笑っているのだが……!
そうしていると、魔物の目線がムロさんからエルシアさんのほうに移り、止まった。
「お? エルシアに標的が行ってるみたいだぞ、ちょうどいいから戦ってみたらどうだ?」
「私、お風呂後だからあまり汗かきたくないんだけど……」
2人が会話をしているのをよく思わなかったのか、ホワイトボグは手に持っていた大きな木をエルシアさんの顔面目掛けて投げた。
「はぁ……ったく、もう!!」
エルシアさんがそれをおとなしく受け止めるはずなく、飛んできた木を体を前傾姿勢にすることで回避し、何かを唱えだした。
「『身体強化』、『脚力増強』、『俊敏』……」
後半は聞こえなかったのだが、唱えるたびにエルシアさんから白色の魔素が出ているのが見えた。
魔物の黒色とは違って白色……?
「せっかく、人がいい気分だったってのに責任取れよ! このホワイトボグ!!」
そういうとエルシアさんは土を抉り、馬の魔物の首をへし折った時の動きよりも更に俊敏な動きで、ホワイトボグとの距離を詰めた。
それに対し魔物も動きを予測し、おそらく来るであろう位置に目掛けて真っ直ぐに右腕で殴りかかろうとした。
「ばーか」
途中で体勢を変えることで軌道修正をして、魔物が描いていた予測位置をずらしたようだ。
そしてそのまま引くことができずに伸び切った腕を、先端から肘辺りまでを上るように連続で攻撃をしていくのが見えた。
『ガアアアァァアッ!!!??』
エルシアさんを視界にとらえることができずに、腕を引くまでにホワイドボグの右手は血だらけになって、終いにはぶらんと下に垂れた。
「かったいなぁ……」
本当はもっと傷をつけるはずだったと残念がる様子のエルシアさんだが、僕にはその動きを目で追うのに精一杯だった。
あんなに高速で動くって……あれが人にできる動きなのか……?
その動きに見入っていると、横からムロさんがふらっとやってきた。
「坊主、ちゃんと見てるか」
「はい……みてるけど、何が起こってるのかがよく……」
僕の答えにニヤニヤと笑い、話を続けた。
「エルシアは機動力があるけど決定打がねぇんだ。そこを克服するためには、魔素を使用して自己強化するスキルを使わないといけない」
「自己強化のスキル……? あ、もしかして最初に呟いてたやつが」
「そういうこと。エルシアはそれを練習中って感じだな。あれでもまだ最高速じゃないんだが……まぁ、坊主には目で追うのがやっとって感じか」
「あれよりも早く動けれるんですか!?」
残像が見える程の高速移動、それよりも早いってことか? 人間の基礎能力みたいなのが違いすぎる……。
50m走で6秒00で鼻高々になってた友人に教えてやりたい。そんな人にお風呂で弄ばれたんだぞって言ったら、どんな顔をするだろうか。
「まぁ、今のアイツみたいに自己強化ってやり方以外にも倒し方は色々ある。まぁ、見てりゃ分かると思う」
「……?」
エルシアさんの連撃はムロさんの説明中にも続いていて、ホワイトボグはすでにその動きについていけてない様子。だが、そこまで傷を負っていないのを見ると本当にあの魔物の皮膚は硬いらしい。
その後数秒間は動かなくなったホワイトボグの右手に追い打ちをかけ切断しようとしていたのだが、突然、動きを止めた。
「はぁ~……なんだかなぁ」
「えっ!? は!?? エルシアさん! 危ない!!」
素早い動きを止めてため息をついたエルシアさんに、ホワイトボグは渾身の一撃を左手で撃った。
鈍い音が響き、僕は思わず目を閉じた。
エルシアさんは……どうなった……?
あの攻撃がどうなったのか気になって、恐る恐る目を開けた。
すると、そこにはホワイトボグの左手が関節の反対側に曲がって骨がむき出しになっている姿があった。
「あ……相手の力を……利用する」
僕がぼそっと呟いた言葉。そしたらムロさんが髪の毛をわしゃわしゃと触って向こうに行った。
正解……って事なのかな?
ボサボサになった髪の毛に触れていると、エルシアさんの声が聞こえてきた。
「どう? 当たるはずの攻撃が外れて、自慢の腕が折れた気分は」
『グゥゥゥアァァウアゥアア………!!!』と怒りの感情が混じった叫びを上げ、ホワイトボグはよろめいた。
そして、使えなくなった両腕を庇うようにエルシアさんから距離を取るように森林方向に下がっていった。
「どうしたの? さっきまでの威勢はどこに行ったのさ」
『アアアアアッ……』
小刀をクルクルと回して目の前の手負いの魔物を煽り、間合いを詰めていく。
エルシアさんが詰めてくるのに対し、ホワイトボグは静止し近づいてくるエルシアさんをじっと観ている。
勝ちを確信している様子のエルシアさん。
だけど……、ぼくはなにか引っかかっていた。
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