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1-3 世界把握編:小さき転生者、進路に悩む
35 進路相談
しおりを挟む走っていた時間より、休憩している時間が長いのではないかというところ。
休憩するには長い時間だったけど、ムロさんと会話で長いとも感じず、むしろ短く感じていた。
「――だから、僕はムロさん達と一緒に旅がしたいんです」
「愛されるねぇ、罪なパーティーだこと」
「他人事みたいに言いますね」
「そりゃあよ、お前みたいな照れくさい事を連発して言うやつの言うことをまともに聞いてたら顔から火が出ちまう」
「照れくさい……、あ、言われて嬉しいんですか!」
「調子づきやがって……」
おでこを軽めにデコピンされ「あうっ」と声が漏れた。
「あ、そう言えば、この旅の最中に坊主のしたいことを聞いておきたかったんだ」
「僕のしたいことですか?」
「そうだ、お前は将来何がしたいんだ?」
将来……? なんだ、突然。何か意図があるのか……?
身構えていると察したのか、手を横に振りながら。
「あぁ、特に深いものじゃあない。率直でいい」
「率直って言われても……」
「子どもに将来何がしたいか聞いてるだけだ。別に変な話じゃないだろ」
たしかに変な話ではないけれども、と腕を組んで考え込む。
実際にこういう風に突然「将来したいこと」と言われ、ぱっと思いつく人はなかなかいない気がする。
子どもの頃はプロ野球選手になりたいとかパティシエになりたいとか、宇宙飛行士になりたいとか……あぁ、キャンピングカーで世界一周って言ってた人もいた。
向こうの世界でできなかったことをやってみたいとは思うけど、これを質問の答えにするのは違う気がする。
だとしたら、僕は何がしたいのか分からない。
「特に何も……皆さんに付いていけるように強くなることとかしか」
「そーゆう事じゃなくてだなぁ。なんて言ったらいいかなあ。……あぁ、そうそう、そうだ。お前の才能をどこに伸ばしていくかってことを聞きたい」
「僕の才能……? 料理とかですか?」
首を傾げると、特大の溜息をつかれてしまい、思わず背筋を伸ばした。
「目の話だ。目」
と呆れているように言って、
「お前の眼帯の下、紫だろ」
と、当然のようにレヴィさんとの秘密を口にした。
「はっ……えっ?」
「知ってたのか、って言いたげな顔だな。お前を最初抱き上げた時に気づいた。エルシアに邪魔されて何も言えなかったけどな」
初めてムロさんに抱き上げられた時の表情を思い出す。
だからあの時あんな表情をしていたのか。
「レヴィにとりあえず任せたから色々説明を受けてると思うが、それを踏まえての話だ」
目のことを踏まえての話となると、僕はまたもや腕を組んだ。
この世界の「目」というのは3つの才能の指標になるモノだ。
黒色の瞳は武器で戦う剣闘士。赤色の瞳は魔法で戦う魔導士。青色の瞳は治癒魔法で味方を守る治癒士。
生まれた時点で瞳の色が分かるわけだから、努力のベクトルを決定して伸ばすことが出来る。
僕の目は紫色と黒色のオッドアイ。3つのことをできる体になっている。
つまりは本来なら自分が伸ばす才能の方向を悩むはずない世界で、僕は才能選択の岐路に立っているわけだ。
ムロさんやエルシアさんのように武器を使って戦うか、レヴィさんのように魔法を使って戦うのか。
「……どうしよう」
見たことないレヴィさんの魔法や、治癒魔法を置いて武器を取ることに若干の躊躇がある。
逆に武器を捨てて魔法や治癒魔法に行く道も今の僕にできる選択ではない。
「現状は保留で、って駄目ですか?」
「ダメだ」
「えぇ……」
「お前がどうなりたいのかをしらねぇと、こっちとしても何もできんからな」
そういわれると答えはおのずと一つになってくるのだけれど。
純粋に戦いながら、魔法を使えて、味方を回復をする人……になるよな。
そしてあまり言葉がまとまっていない状態で、だったら、と返答を返した。
「僕は武器と魔法で戦って、みんなの傷を癒せれるようになりたい……」
っていうのはダメですか? と、確認するように言ってみた。
すると僕の優柔不断な答えに対して一瞬キョトンとして、すぐにケラケラと笑った。
「……あ~中々難しいことを言うな、お前は。いや、まぁ、お前ならそういうと思っていたけどな……クククッ、アハハハハッ」
「笑わないでくださいよ、だって僕は……」
「あ~、まぁ紫の瞳だからな。たしかに才能に恵まれていると思うぞ」
少し言いにくかったことを代わりに言ってくれて、会話が進む。
「だがな、頭に入れておかないといけないのはお前の進もうとしている道は何千、何万という冒険者が1度は志して、ほとんど全員が挫折したってことだな」
「全員が、ですか?」
「3つを高めようとするってことは、言い換えると俺やレヴィ、名だたる冒険者が絶えずに高めようとしていることを3つ並行して会得していくってことだ」
「……3つ全部が中途半端な実力になってしまう……?」
「そういう事だな」
笑いを我慢しながら話を進めてくれた。
なるほど、笑っていた理由と話が見えてきた。
際限なく自分の力を伸ばすことが出来るこの世界では、たくさんあれこれするよりも1つに極振りをしている方が強いということだ。
それこそ弱いうちはどれもできる人は重宝されるかもしれない。
しかし、相手が強くなっていくにつれて求められる力が高くなっていく。
その時に以前と同じパーティーで戦えるかと言うと、どれも出来ていたはずの人の実力が中途半端になってしまうことになるのだ。
だったら人数を増やし回復が長けてる人、魔法に長けてる人などを入れた方が高いレベルでもバランスが取れて戦えるという話。
(分かりやすく例えると、器用貧乏……か)
向こうの世界で例えるなら、小さい頃はサッカーも野球も勉強も上手かった子は沢山いたけど、大人になってプロ野球選手で活躍して、プロサッカー選手で活躍して、難関大学で上位で卒業し、有名企業に務めたり研究の道に歩むって全てを両立できる人はいないのと一緒だ。
それもそこで終わりではなく、その先も際限なく高い壁が存在している、ということだ。
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