【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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1-5 世界把握編:小さき転生者、世界を知る

52 ぼくの種族はレアらしい

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「僕、見た目は人間だと思うんだけど」

「見た目はそうですけど……」

 なにも身体的な特徴があるわけじゃない。
 肌が黒いわけでもないし、耳が長いわけでもない。かといって、ケモノミミがある訳じゃないし、体が小さい訳でもないし、そのまた逆でもない。
 ただの人間、そう思っていたのだけど。

「じゃあ僕ってなんの種族なの……?」

「それならお話しましょうか! でも、ちょっと長いですよ? あっ、ステータスボードは閉じたままで」

 にへへと体を傾けて笑うエリル。

「ますたーはこの世界の種族をご存じですか? 森人エルフや獣人族、たっくさんいますよね」

「うん。たくさんいるよね、勉強したから知ってる」

「どんなステータスが秀でているとかも……知ってますね」

 森人エルフは弓術に秀でているから精密な射撃に必要なスキルと魔法に必要なステータスが上がりやすいようになっている。人族ヒューマンは他の種族と比べて全てが均等に上げれるようになっている。このように種族毎に上がりやすいステータスや会得しやすいスキルがある、これらは勉強会の最初の方で学んだ内容だ。

「だったら転生者はどうやって種族や伸びやすいステータスやスキルが決まるんでしょうか? 種族を選ぶ項目は確かなかったですよね。ランダムで種族が振り分けられるのでしょうか? 答えはいいえです。転生者の場合は転生する時に決めたステータスやスキルで、どんな職業に生まれるのかなぁーっと世界のシステムが解釈、理解して瞳の色や種族を決めたりするんです」

 エリルが情報を確認しながら、話を進めていく。それをゆっくりと聞いていたら、疑問が湧いた。

「……僕って、ユニークスキルしか」

 と言いかけると、エリルが鳴りもしない指パッチンを一回。

「その通りです。他の転生者はどの道に進むかっていうのがぼんやりと分かるんですけど、ご存知の通りでますたーはどれにも使えるユニークスキルしかなかったから、どの道に進むのかを判断する世界システムもお手上げ状態になったわけです。ですが、そこで『神運』さんが大登場です!!」

「大登場……」

「目の色や種族をどうしようかーってなった時に『神運』がものすごく働いてくれた結果、世界システムが凄いのを授けたんですよ!」

 凄いのを授けたんですよ! って言われても。
 ゴソゴソと体を触ってみるが体に特徴などないただの人族ヒューマンのはず。

「普通の人なら人族ヒューマンになったり一つの目の色で転生したりするというのに。でもますたーはその程度では止まらなかったんですよ! 『神運』が大きく影響して転生したますたーの種族は、希少種のなかでもさらに希少種の存在――」

 エリルの言い回しに、手に汗が滲むのを感じる。
 自分の種族を知るってだけなハズなのに、どこか緊張している。
 そして、エリルは言葉を口にした。

「ますたーは、超希少種の亜人デミ・ヒューマンという種族です!」



      ◆



「いやいやいやいや、待って待って待って」

 手を思いっきり横に振ると、エリルがポカンとした顔になった。
 チラチラと周りを確認し、いつの間にかついていたギルド寮に入っていってぴしゃりと玄関のドアを閉めた。そのままベッドまで行って、横に座ってと二度ほど布団を叩き、二人で横並びで座った。

「さっきの話。亜人デミ・ヒューマンって……知ってるけどさ。森人エルフ蜥蜴人リザードマンとかを総称した言い方じゃないの……?」

 この世界で《亜人》というのは種族は存在しない。これが僕の認識だった。
 何故なら、この世界の人間たちは「亜人種、亜人科、人属」と分類をされているからだ。
 人ではない森人エルフさん達を総称して指す言葉。それが【亜人】だ。

「あぁ! いえ。この世界の亜人デミ・ヒューマンという種族は、人口のほとんどを占める亜人種のという立ち位置にいます。その亜人デミ・ヒューマン降誕こうたん確立は不明、現在生存しているのかも不明、ここ数百年の文献には名前すら出てきません」

 文献に出てこない……とは。

「それって、亜人デミ・ヒューマンが僕だけの可能性があるってこと……?」

 恐る恐る聞いてみると、はい、と肯定が返ってきて天を仰いだ。

「私が調べた内容では亜人デミ・ヒューマンの種族の恩恵は「人より全ステータスの上り幅が大きい」で、それ以外は確認できませんでした。もしかしたらシステムだけ作られて、今まで誰もなっていない種族なのかもしれません」

「うげぇ……なにそれぇ。じゃあ別にびっくりすることはないのか」

 僕は全ステータスが上がりやすくなっている《亜人デミ・ヒューマン》で、全てのジョブに適性がある【紫之瞳】を持って生まれた【転生者】ってことになる。
 どの才能にも特化しやすく、伸ばすことができる。それが僕に与えられた恩恵ギフト……ねぇ。
 
「……最弱転生者から、器用貧乏で最弱の転生者にグレードアップか」

「ぷっ――いや、えっ、あの、笑ってませんよ。大丈夫です」

「あー、ちがった。最弱で、無害で、頑張らなきゃ強くなれない可哀想な転生者、か」

「ぷふーっ!」

 エリルから変な笑い声が出てきたことで、ふて寝をすることに決めた。
 布団にもぐり、外から聞こえてくるエリルの謝罪の言葉と魔導書を読みましょう! と言う催促を遮断しているとポコポコと重量感あるもので殴られたので、布団の外に顔を出すとエリルが気まずそうに魔導書を持っていた。

「いや、その……笑ってしまったのはごめんなさい」

「いーよ。前から分かってたことだし、他の転生者さんはどうせ最初から無敵~とか、最強~とか、ハーレムーとかやってんでしょ? はんっ、なんだか僕のやってることが馬鹿らしく思えてくる」

 まぁ、それは僕が観測者にステータスの設定を頼んだからであるのだが、置いておいて。
 
「エリルも大変だね、こんな変な転生者のサポーターなんかさせられちゃって」
 
「何をおっしゃってるんですか! って、そんなことを思っていたんですか!?」

「え、うん。だって、つまらないでしょ。こんな毎日毎日訓練とか勉強とか、あんな冒険者にも負けた奴のサポートなんて」

 と、唇と突き出しながら言ってみたが、エリルはやれやれと言った様子で魔導書を枕元に置いた。

「いいですか? 私は幸せ者だと思ってるんですよ?」

「うそだね」

「嘘じゃないですよ! そもそも、最初からチート級の能力を持っている人にサポートなんか要らないでしょう! そういう人達は勝手に魔王とか倒して、勝手に世界を救って、勝手に異性とイチャイチャしてればいいんですよ! ですが、ますたーは違います。今は確かに努力をして、毎日辛い日々を送っていますし、あんなチンピラに負けましたけども!」

 最後の一言はグサリと刺さったけど、僕の近くにズイっと寄ってきたエリルの表情には一切の曇りなどなく。

「今は弱いますたーですが。そんなますたーが段々と強敵にも勝てるほど強くなっていく過程を特等席で見ていられるんです。こんなに楽しいことは他にないですよ」

 思わず、面食らってしまった。
 屈託のない表情で笑うエリルの顔にドキッとしてしまい、思わず目線を逸らすと追いかけるように僕の視界に入ってくるのでベッドの上で二人してくるくると。
 いい加減にして、とエリルの顔を頬を掴んだが衰えることはなく。

「ますたーが元気が無さそうでしたので、たまには本心で語るのもいいかな~と!」

「分かった、分かったから!」

「あっ、でもますたーがいくら亜人でも今現在はポンコツなのには変わりないですから!」

「おおっ!? 超えたなァ!?」

 二人して笑いあった。

 この子は、ほんとに。不思議だ。

 チンピラに絡まれて少し落ち込んでいた僕の雰囲気もいつの間にかエリルが新しい雰囲気へと変えている。ムードメーカーというのは、まさにエリルのような存在を言うのかもしれない。
 だけど、言われっぱなしではつまらないので。
 
「じゃあこれからもこんな僕をよろしくね。この世界を絶賛勉強中のぽんこつ優秀サポーターさん」

「おっ! ポンコツだとぉ!? ますたー、一線を超えましたね!!」

「ぼげぶっ」

 いつもの表情に戻り、僕の胸へとダイブをしてきた。不意打ちで狼人が殴った箇所に直撃、涎が口端から出てきそうになったが、我慢をした。
 
「よおし! ますたーがボコボコにされた記念日として、美味しいモノでも食べに行きましょう!」

「記念日て。エリルが食べたいだけじゃないの?」 

「あら、バレてしまいましたか」

 口に手を当てて、わざとらしくおどけて見せる。

「はは、そうだね。時間があったら何か食べに行こっか」

「その前にお金を稼がないとですね! せっかく冒険者の登録をしているんだから空いた日はクエストも受けてみてもよろしいかと」
 
 ハハハと力なく笑うと、ドスドスと体を叩いてくれるエリルの攻撃がいくつか怪我のところにヒットをしてしまい、目が潤んだ。

「そして強くなったらますたーの妹さんをこの世界で見つけに行って、ね!」

「う、うん……そうだね。そうだけど、ちょっと――」

「ますたーが強くなったらいつかちゃんと出会えますよ! そのために受け取ったモノは存分に使ってやればいいんです! それは全部ますたーの物ですから。他の転生者がもらった恩恵よりも、それはやばくてマックスすごい恩恵ですし! 胸を張って――」

「分かったから、その、攻撃、やめ……」

 苦しんでいる様子を見てパッと止めてくれて、僕はいれていた力をようやく抜いた。
 その後は魔導書を二人して気が済むまで読み漁り、魔法の知識を深めていった。
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