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1-5 世界把握編:小さき転生者、世界を知る
59 転生者のしてきたこと
しおりを挟むこの世界の転生者のことについて色々と教えてもらった。
知らなければならない話が多くあった。
それと同時に、僕はこの世界に対して無知だと知った。
まず、転生者がこの世界で嫌われている理由だ。
それは、魔王に占領されている土地への進軍中に犯してしまった大罪。「こちらの情報を流してしまった」ということだった。
それは数十年前に行われた、三国の兵、各協会、冒険者のほとんどを動員した『領土奪還作戦』または『領土戦線』と言われる出来事。
『第四地区』の総力を挙げた本当に大規模なモノだったらしい。
そして、その参加する戦力の一部として計算され、決行日に居たのが【転生者】と呼ばれる異世界人だった、と教えてもらった。
だが敵領土内で指示に従わず、魔物の出現情報を聞いて我先に飛び出していったのだと。
そこで、敵に捕まってしまい、こちら側の情報を吐いてしまったのだと。
そのせいで『領土戦線』は多数の死者を出し、失敗したのだと。
それらの情報を出して、今もなお『転生者の排除』を行っているのが【監査庁】という巨大組織らしい。
かつての英雄達によって作られた、世界平和を掲げる組織……。とても大きな権力を持っているんだと聞いた。
それこそ、冒険者ギルドくらいの。いやそれ以上かもしれない。
要は、自分の力を過信し、突っ込んで、負けて、情報を吐いて、大勢の人を殺した。
これが、この世界での転生者が忌み嫌われている理由。
僕の先輩のせいで、この世界ではとても生きづらい世界になっている。
戦争での被害の責任というのは、風化することがなく、今でも戦争の被害者が多く生きている。そもそも寿命というのが種族毎に異なり、ただの人でさえ、地球よりも長く生きることができる世界だ。
幸い、レヴィさんのような人も時間が経つにつれ、増えてきているようだが……全体数で言えば、やっぱり嫌っている人が多いだろう。
僕は唇を噛んだ。
何が転生して新しい人生を、だ。ふざけるな。
先人たちはなんで敵に突っ込んでいくような真似をしたんだ? 何を考えているのか全く分からない。
あんた達のせいで、何もしていない僕が死ぬかもしれないんだぞ。
◇◇◇
僕にこのことを話してくれたレヴィさんは、最後に「あまり目立つことせずに、周りに気を付けて生きてくれ」と話をして、部屋を出ていった。
あまり目立つ……って、例えばどんなことかって言ってほしいよ。
僕なんかより、あの道歩いてた人達の方が目立ってたでしょ。
アレが転生者って言われないなら、僕なんかただの白髪のちっさい子どもだよ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあああ、なんでこんなことになったんだ……」
枕に顔を埋めて、叫んだ。
(……亜人とか、紫の瞳とかを寄越したと思ったら、転生者ってバレたら殺される世界だぁ? 何もしてないのに? 殺されてこっち来たのに殺されないといけないのか……?)
連日に重たい話が来すぎだろ……、ふざけんな。もたんわ、体が。くそ。
布団を頭から被り、もぞもぞと体を動かし、顔だけを出した。
チラと横を見ると、エリルが外に出てきていた。
「……エリル、話聞いてた?」
と、確認。こくりと頷いた。
「知ってた? このこと」
ふるふると顔を横に振った。
「……そっか」
エリルがまた隠していた話だったらどうしようかと思ったけど、そういうわけでもなさそうだ。
ってなると……このことを、第四創造神や観測者はこのことを知らないのか?
――知らないわけないよなぁ
だって自分が管理している世界で起きた事件だ。知らないわけがない。
――わざと……か。
情報を隠しているのも、何かの意図があるのだろう。
つくつぐ、腹が立つ。ふざけんなよ……ほんとに。せっかく楽しく生きようと思ってたのに。
顔をまた埋め、唸った。
「……ますたー……大丈夫ですか? その……」
心配そうな声。
エリルは何も知らなかった。なら、ここで面倒くさい態度をとるのはちがう。
「大丈夫……ではないけど、バレなきゃいい話でしょ。今日まで生きてきたように、転生者だとバレないように過ごして――転生者に対する意識も変えないといけない」
少しだけ、声が尖ってしまった。
「…………自由に生きたいのに、自由に生きようとしたら殺されちゃうんだ。この世界の認識を変えて……そこから自由に生きるようにするよ。佳奈もいるかもしれないんだから、僕が、やらないと……いけなくて」
今度は、すこし泣きそうな声に。
誤魔化すように、埋めている顔は上げない。
「それは……、一筋縄ではいかない、です……。大変なことで……」
「うん。もちろん。分かってるって。言わなくていいよ」
まくし立てるように、早口で呟いた。
イライラしている自分に腹が立つ。
顔を上げ、エリルのしゅんとした顔を見て、ぽんぽんと僕の近くに座るように促した。
ストンと座ったエリルの頭を撫で、後頭部に話しかけるように、
「ごめん、ちょっと、だめなんだ。おちつけてない」
と、謝った。
「……気にしてませんよ。わたしも、すこし、落ち着けてません……し」
エリルも知らなかったんだから、グルグルと気持ちが落ち着かないはずだ。
(その気持ちも分からないほど、僕は……)
エリルの後頭部におでこをつけて、「ごめん」って呟いた。
すると、すぅ、はぁ、と深呼吸をして、エリルがこちらを見上げてきた。
「今更、くよくよすることもないですね」
「う、うん……」
「強くなるのはもちろんですけど!! それ以上に転生者だって知られないように!! 長い目で色々と考えて動くことが重要!! そうですね!?」
「そ、そうです」
くわっ、として明らかに怒っているようだ。
眉間にしわが寄って、大声で叫んでいる。他人に声が聞こえないからって、すごく大きい。
「そ、そうだけど……エリル怒らないで……」
「いいえっ! 私は怒ります! もうヤです! この世界も、神様も、あまりにも横暴です! ますたーが怒らないのでしたら、私が、その分、怒ります!!」
僕の膝をパシパシと叩き、ふんすふんすと鼻息が荒い。
いつの間にか僕が宥める側へと回っていた。
その後、エリルを落ち着かせて話をして、今後の行先を決めた。
先輩の尻拭いをするっていうのは、気が引ける。
でも、やらないと僕が死んじゃうし、僕以外の転生者にこの役が回るのは……気の毒だ。
だから、僕がやらないといけない。この世界のことをもっと深く知らないといけない。
もう僕の当たり前の日常は誰にも壊させない。
あの崩れていく音は。高い所から転落するような感覚は、もう味わいたくない。
ぼくが、この世界の……転生者への認識を変えるんだ。
第一章:世界把握編──完
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