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2-2 少年立志編:ロリ鬼教官の来襲
75 帰路
しおりを挟む――称号Ⅰ持ち。
それは、発現に先天的と後天的があるが、この世界に生まれた時に極小確率で与えられるステータスを持ち、数奇な運命を辿ることを運命づけられた者達のことを指す呼称。
圧倒的なステータスとスキルを所持し、異世界から来訪する――『転生者』。
一人で何百何千何万と渡り合える、まさに一騎当千の英雄――『勇者』。
魔導、治癒魔導に秀で、膨大な魔素を用いり神をも恐れる一撃を有す――『賢者』。
一般的に使われる言葉ではないが、英雄が出てくる御伽噺には必ず出てきて、魔王を滅ぼしてくれるという存在。
数百年前、魔王軍が進軍してきた時に撃退して、ARCUS第四地区の土地に人を繁栄させた英雄達も称号Ⅰ持ちだったと言われている。
そんな称号Ⅰ持ち達が知らず知らずのうちに惹かれ会い、仲間になるというのは御伽噺ではよくある話だ。
◆◇◆
デュアラル王国の門前広場。時刻は早朝。
日が昇り始め、街路には昼間程ではないが、行商人のような服装の者がそこそこに見える。
この最西国の欧州の様な街並みは他国の人々からは評価が高く、観光に訪れる者も多い。
ふと門の方を振り返ると、多くの種族の者達が入国審査を受けているのが見える。そのほとんどは冒険者の様な身なり。
この時間にいる彼らは、別の所でこの付近の冒険者依頼を受け、その流れでこの王国を訪れて観光をしにきた者達だ。
服装を見ればよく分かる。冒険者依頼をこなした後では、服装や装備が小綺麗な状態というのはまず無い。
その他には村人だろうか。安価な肌着の様を着ている者達も見える。
買い出しか、それとも配達か、その次いでの観光か。大方、ここらだろう。
大きく見れば「王国内」とはいえ、この城壁内は城壁外にいる者達にとっては憧れの場所。感覚的には都へ行くようなものだ。
そんな多くの亜人種が行き交う中、てけてけと可愛らしい足取りで街路の端を歩く血盟【ティータ】の血盟主は、なんとも眠たそうに顔を顰めていた。
その原因は、後ろで歩いて付いてきている服が血塗れの青年――ケトス。
彼のせいで起きる予定のない時間に起こされ、わざわざ城門の場所まで出向くはめになったのだ。
二人はデュアラル王国西門の門兵から解放された後、クラディスに別れを告げ、自分たちの血盟拠点に帰ろうとしていた。
だが、終始、リリーは不機嫌そうな面持ち。ケトスにはやや緊張感のある無言の時間が続いている。
「――で、お前は今回どこをほっつき歩いてたんだ?」
と思っていたら、広場から繋がっている街路を歩いていた足を止め、ケトスの方を振り返り睨んできた。
あからさまに、怒っているんだぞ、という表情。
それもそうだ。まだ朝が早い。冒険者には早起きをする義理なんてないのだ。まるで母親がやさぐれた息子を問いただすように、聞いた。
んー、とケトスは悩んだような表情をした後、人差し指を立てて。
「近くの森……?」
とふざけて言ってみる。
「何日」
ぶすっとした反応。ケトスのふざけた態度で可愛らしい顔が歪んでしまっている。
質問に返せれずにいると、リリーが下から見上げながらズイっと近づいた。
「何日、だ」
リリーの圧力にケトスは、気まずそうに視線を外す。
「どうだろー……わかんないや。で、でも、三か月ー……とか? いつも通りだよ」
「当分外出禁止だな」
「え、酷い!」
自己弁護をしようと血で真っ赤になった服で寄り添おうとしたら、顔面を手で押さえられ「近づくな!」と頭をぽかんっと殴られる。
身長はケトスの方が高く、リリーはクラディスとそう変わらない体躯をしているというのに、歳は圧倒的にリリーの方が上の様に感じる。
それもそのはず、リリーは暗黒森の番人と小人のハーフだ。人族のケトスとでは――実年齢は明かしてはいないが、おそらく――桁が一つは違う。
元来、小人という種族は冒険者になる数が少ない。理由は単純明快、非力であるから。
だが、その一方で頭がよく働く種族でもある。それは行商人であったり、一部の魔法使いの素質として出てくることが多い。
そして、暗黒森の番人は頑丈な肉体で剣闘士の素質にずば抜けて高い種族だ。
これらの種族値が加わったリリーは「魔法がある程度使え、武器も扱える」という稀な素質を持って生まれたことになる。
種族値で言えば、だが。
本人がそれをどう使うのかは、本人次第だ。
実際のリリーが魔法を使う場面はほとんど無く、基本的には背中に携えている大きな槍をぶん回す戦闘スタイルに落ち着いている。
本人曰く、「魔法の勉強が面倒臭い」と。
つまり、リリーは、華奢な体からは考えられぬほどの膂力を持ち合わせている数十年来の熟練上位冒険者、という訳だ。
「……あ、そういえば、あの少年とはどこで会ったんだ?」
ケトスの耳を抓りながら、聞いた。
「んぇ? あぁ。クラディスのこと? 森の中であったよ」
「森の中……クエストとかか? もう戦闘クエストを受けれるようになったのか。……【アサルトリア】も中々いい子を見つけたな」
「え、クラディスって【アサルトリア】に入るの?」
「レヴィやムロと一緒にいたからな。お前と同期くらいだろう」
外出禁止を言い渡されて面白くなさそうな表情をしていたのだが、一転、表情が緩む。
リリーとケトスがいる血盟は、ムロやレヴィがいる【アサルトリア】と競っている準上位血盟であり、血盟主同士も仲が良い。
マーシャルという上位冒険者率いる【アサルトリア】が少人数精鋭の血盟だとしたら、リリー率いる【ティータ】は勧誘式のさらに少人数の血盟だ。人数は少ないが個々の力で言えば、デュアラル王国に籍を置いている血盟の中で随一の実力を持っている。
「なにやら、楽しそうな顔をしているな」
「あ、分かります? 楽しいですよ」
「そんなにクラディスという少年が気に入ったのか?」
「まーね、今は心も不安定で弱かったけど……強くなると思うなぁー」
リリーはケトスの言葉に目を丸くした。
「…………へぇ、お前がソレを言うのか」
リリーは冒険者ギルド前でクラディスと会った時、矮小な腕、小さな体、覇気もなにも感じられない貧弱なただの少年だと感じた。
レヴィは「今のうちに唾をつけておいた方がいい」と言っていたが、よく見るまでもなく、自分が惹かれるような素質はないと思っていた。
しかし、ケトスがその少年に対して「伸びしろがある」と言う。
同血盟に属する若きエースが、リリーの「魅力がない」とは真反対の感想を言ったのだ。
リリーは珍しく、自分の見立てが外れたな、と笑みを零してしまう。
おっと、と咄嗟に口を塞いだが、ケトスにはバレていないことを確認すると、気まずそうに手を下ろした。
「……ケトスのお気に入りなら、ティータに勧誘する方向でいいかもな」
「うちに来るの? んー、でもそれは良いかな」
「お、何故だ?」
「クラディスとは一緒にやっていけると思うけど。友達、だと思うから」
「友達ぃ? はあ、仲間とは違うのか」
こくりと頷いたケトスの反応を見て、リリーの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「違いが分からん。まぁ、伸びしろがあるならその伸びしろってのを見てから考えてもいいな」
「僕もそれでいいよ」
「――なら、この話は終わりだ」
話を一方的に終わらせると、血盟ホームに入ろうとしていたケトスの服を掴んで後ろに下げた。
「ぐぇ」
「汚ない服のまま入るな! 裏から入れ、汚れるだろ」
「えぇ、いいじゃん! 元々そんなに綺麗なところじゃないのに」
「お前がいない間に掃除させたんだ。だから裏から行け! バカケトス! オラ! 行け!」
「痛いっ! 分かった! 分かった!!」
ガッガッと背中を蹴って裏口から回らせたリリーは、大きくため息を吐きながら血盟ホームの扉を開けて中に入っていった。
その様子を横目で確認して、ケトスも「はぁー」とため息をついた。
蹴られた背中の痛みを感じながら立ち止まり、血に染まった手を見つめた。
同時、楽しそうだった表情が変わり、不安や孤独のような暗い感情が差し込む。
「……父さん、僕、頑張るからね」
ぽつりと呟き、道端に転がっている石ころを蹴りながら血盟ホームの裏口とは違う方向に歩いて行った。
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