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2-2 少年立志編:ロリ鬼教官の来襲
80 先生が増えました
しおりを挟むあれからかなりの時間が過ぎたと思う。
その間で一方的な攻撃はされないようになり、先生は僕の攻撃を見てから対応してくるようになった。
僕は言われた通りに構えないようにした。でも、どんな格好をしていればいいのか分からない。
突っ立っておくのも違うからと、ティナ先生の動作一つ一つを見て勉強をすることにした。
――先生の武器の構え方は特にコレといった型がないように思える。
間合いが外だった場合は、だらんっと脱力したように刃先が床につきそうな程に両手を下げているけど……それ以外は、次にする攻撃に最適な位置に武器を構えていると言えばいいか。
それを真似しようと思っても僕とは明らかに練度が違うし、すぐにそれができるかってなると何とも言えない。
では全く構えないのかというと、そういう訳でもない。そんな先生も構える瞬間があったのだ。
それは僕が先攻した時。その時にとても崩せれる気配がしない構えをする。入ってきたら、どうなるかわかってるよな? みたいな圧があって、うかつに攻撃しようものなら喉元を掻っ切られそうだ。
あの構えと構えないときのシフトは……多分だけど、先生が後手になった瞬間に切り替えているのだと思う。
これは、参考にしよう。
「――鈍い! 素早く動かんか!!」
そうして構えを探していっていると、先生にも何か癖があるのではないかと思い始めた。
先生は攻撃の回転数が圧倒的に多い。だったら、何かパターンのような何かがあるはずだ。攻撃回数を伸ばすためには、足運びで円滑に次の動作へ移す必要があると思う。
あの回転数の速さはただの腕力だけではないと……思う。
「――ヌハハハハッ! その調子じゃ! まだまだ行くぞ――ッ!」
そうして注意深く見ていると、偶然か、それの様な動作が見えてきた。
間合い外から、間合い内に大きく接近してからの防御不可な縦振り。
その縦振りの勢いを生かすために体をそのままクルっと回転させ、踵落としで頭部を狙った攻撃に繋げているように思えた。
その縦振りを打ち込んでくる際、床を蹴る力がとても強い。足の踏み込みも抉るように深い。
そして、縦振りではなく横振りだったら、そのまま回転力を加えての反対の木刀で攻撃。
横振りの時は上半身の勢いを使うから、体全体を使う縦振りよりも踏み込みが浅い気がする。
うん……多分そう。おそらく先生の中で最初はこうするってパターン化している攻撃だ。
だったら僕が付ける隙がある。横の大振り後……回転してこちらに背中を見せる一瞬だ。
間合い外からの攻撃で、踏み込みが浅い時を狙えば……僕でも攻撃を当てれる。
新しい先生にやられっぱなしだったらつまらない。次にその動きを見せたら、その背中に攻撃を当ててやる。
その一瞬を今か今かと待ちわびながら先生の攻撃を何とか躱し、こちらが狙っているとバレない程度に攻撃を挟んで行く。
意図的に間合いを作り出す回数を上げていると、すぐにそれは訪れた。
間合い外だったティナ先生は一気に間合いを詰めてきて、間合い内で”軽く”踏み込んだ。
踏み込みに力が入ってない、これは横振り……!
好機と思い、普段はここで間合い外に逃げる僕はここぞとばかりに接近して木刀を振りかぶった。
――ガッ。
次の瞬間、僕の目線は床まで一気に落下し、床と平行になる。
当たるはずだった攻撃が当たらず、胸から思いっきり地面にぶつかったかと思うと頭に酷い鈍痛が走った。
「――!? いッッ………たぁ!!」
何が起きたのか分からず混乱していると、うつ伏せで倒れている僕の背中に先生は座って。
「見事にひっかかったな」
と言ってきた。
「ひっかかったって……? 何が……」
頭を押さえたらいいのか、胸を押さえたらいいのか……痛い箇所が多すぎて、とりあえずは頭を押さながら顔を上げた。
「さっきの意図的な距離の詰め方は、私の背中を狙った攻撃じゃろ」
「えっ!? あれ、なんでバレて……。あっ、ひっかかったって、もしかして!?」
「わざとじゃー、ハハハ。見事に可愛らしく引っかかってくれたの!」
ペシペシ背中を叩かれ、上げてた頭をゆっくりと床に下ろした。
隙を作るって……どんなだよ……。
先生の方が何枚も上手だった。
分かってはいたんだけどさ。自信があった作戦まで完全に向こうの手の内だったとなると……。もう一々へこまないと決めたけど、これはへこんでしまいそうだ。
実力差を痛感していると目の前にナグモさんが来て、ティナ先生をぐいっと持ち上げた。
「ティナちゃん先生、模擬戦は終わりですか?」
「うむ! 満足した! 一月でここまで成長するっていうのは凄いの!」
「……ボロボロに負けましたけどね」
「何を言うとる、見込みがあるって言ったのだぞ! 素直に喜ぶといいぞ!」
簡単に持ち上げられているティナ先生の方を向くと、ニコニコした顔を返してくれた。
ちょっと照れくさくて、また顔を埋めた。
「――そうだ、『身体強化』を使ってましたね。誰かに教わったんですか?」
「……ケトスっていう冒険者とクエスト中に会いまして、そこで」
「あぁ、あの子にあったんですね」
「なんだ? そいつもつよいのか?」
「うん。でも、ティナちゃんには多分合わないと思うな」
「なんだ、そうか。ナグモがそういうならそうなんじゃろう」
「あら、だいぶ素直ですね」
「まぁーの。……じゃ、ワタシはもう用も済んだし、今日はもう帰るぞ、下ろせ!」
バタバタと暴れ出したティナ先生を下ろした。
「ふぅー。さて帰る――の前に、今日の模擬戦で今の実力は把握したから、次回以降の訓練内容を発表するぞ!」
「わぁ、もう立派な先生みたいですね」
「当たり前じゃろ! ……じゃ、言うぞ! コホンっ! えー、お主の実力は、十分に高いことが分かったから、ここで戦うというよりも外の慣れてない場所で戦闘訓練をする方がいいと考えた。じゃから……」
胸を張って、ふんっと鼻を鳴らし、自信満々の表情をうかべた。
「対魔物の訓練をする!」
「魔物……ですか? 夜にするには幾分、危険かと思うんですけど……」
「ん? 夜? いや、ワタシとの訓練は昼間にするぞ? 夜はワタシが眠たくなるからな! それに、 ナグモの時みたいに毎日はしないぞ、2日に1回だ!」
「二日に一回!! えっ、でも、ナグモさん、それって……」
「ハハ、ギルド長には後で話をしておきますよ。これからはティナちゃんに一任するので、私はそれのサポートをさせてもらいます」
「サポートって……ティナ先生に全部任せて、業務怠慢とかそういうアレはしないですよね……?」
「お、クラディス様も冗談を言ってくれるようになったんですね。そうですねぇ……サボタージュといえば、そうですけども……。まぁいいんですよ? 別に、連日で訓練をやっても」
意味ありげな風に話をして、倒れている僕の顔を覗き込んできた。
「だけど私より厳しい彼女の訓練と、私の訓練を連日でやっちゃうと……クラディス様、死んじゃうと思いますし」
それでもいいなら、と悪魔的に笑いながら問いかけてきた。
「二日に一回で……お願いします……」
「はいっ! そっちのほうがいいと思いますよ。じゃあティナちゃん先生、あとは任せましたね」
「うむ! ワタシは鬼教官だからな!! しっかりと鍛え上げてやるぞ! それでは次回の訓練は明後日だ! 解散!」
ナグモ先生より……厳しいって、死ぬ気がするんだけど。
でも、一回の模擬戦闘で勉強できることは本当に多かったから……厳しくても、強くなれるなら頑張ろう。
こうして、僕に可愛らしくも恐ろしい先生が新しく一人増えた。
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