【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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2-3 少年立志編:大人たちは机で語る

099 ふ、不法侵入者……

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 ぱたりと裏口から出て、ふらふらと街中へ。
 ようやく帰れるって気持ちと、お金の問題をどうしようって気持ちと。
 頭が回らない。疲労ってやっぱり体に毒だ……。

「話終わりました~? ささっ、早く帰りましょう!」

 ギルドの敷地の外に出ると、それを見計らってか、ピョンっとエリルが隣に出てきた。

「って……最近ますたーを好奇の目で見る人が増えましたよね……」

 きょろきょろと周りを見回すエリル。確かに、ギルド付近にいると視線を感じることは多くなってきたような気がする。血塗れの服で街路を突っ切ってたら目立つのかな、ケトスとか普通にしてたからいいと思ってたんだけど。

「まぁ、誰も話しかけてこないし、どうせギルドで訓練をしてる奴がいるって噂になってるらしいから今さら気にしなくてもいいし」

「そう……ですか」

 うわっ、ちょっとあの狼人ウェアウルフの顔が思い浮かんだ。アイツが言ってたことだもんな、最近ギルドで訓練している白髪ーって。
 そんな思い出を脳内から消すように力なく頭をぶんぶんと振り、エリルの小さい歩幅に合わせるために少しゆっくりめに歩くことにした。

「……そうだ。エリル。僕、ランクアップしたよ」

「あれだけ頑張ってたので当然です! もっとグーンっと上げるべきです!」

「アハハ……そうかなぁ~……?」

「もちろんです! 毎日毎日休みもせず魔物モンスターと戦ってるんですもん、まだまだ足りない評価ですよ!」

「そうなのかなぁ」

「むしろ努力し過ぎですよ! オーバーワークです! 過労です!」

「わあ……その言葉めっちゃ刺さる」

 本来、僕くらいの冒険者って家族がいたり、親族と暮らしている人が多い。
 だから一つのクエストで貰えるお金が少なくても生きていけるし、二日に一回のハイペースでさらにクエストを掛け持ちみたいなことを必要も無い。
 ケトスも同じ様なものだけど、彼はまた別格だし血盟に入ってるから色んな保証を受けてるのだろう。

(しっかし、過労とか久しぶりに聞いたなぁ)

 そうしているとエリルがじぃーっと顔を見つめて来る視線に気づいた。

「なあに?」

「ますたーも気絶しないようになりましたね」

「そりゃあ、あれだけ2日に1回ボコボコにされてたら耐性がついてきますよー」

「ふむ。それなら色んな耐性をゲットしてそうですね」

「そういうスキルって簡単にゲットできるモノなの? できたら嬉しいけど」

「あんな日々を送ってて『簡単』っていうのはますたーくらいですよ」

 簡単、というのは違うか。でもこんな短期集中でスキルをポンポン会得できるのはありがたみがない気がする。
 いや、これは価値観の違いか? 考えようと腕を組もうとして、持ち上げるのすら重くてまただらんっと下に投げた。

「……あっ『ユニークスキル』があるからやっぱり比較的『簡単』にスキルはゲットできるかも……」

「あー、でた『ユニークスキル』。ソレに振って無い人達って、それこそめっちゃ強かったりするんでしょ? 前言ってたし」

「それが『転生者』の特典みたいなものなのでね。でも『勇者』とか『賢者』……魔王側の有力な方達も当然のように強いですから! そんな無双ができたりするような簡単な世界じゃあないです」 

「あーやだやだ、強い人は強い人達で戦ってて欲しいよ。僕は無関係でいたいね」

 物騒な世界で使命みたいなのがある人は大変だ。
 勇者だ、賢者だ。みんな強い代わりに面倒ごとに巻き込まれやすくなってる。
 僕みたいなステータスポイントに振るのを失敗した人は、自分がしたいことを思う存分にやって伸び伸びと生きても良い……と思う。
 僕は転生者の印象を変えて、そこからのびのびと過ごせれば満足だ。
 
「ふっふっふ」

「……なぁに笑ってるんだか」

「いえいえ。運命って中々奇妙ですからね! ますたーもなんだかんだで強い人に該当するので、色んな事に巻き込まれるかも……!」

「巻き込まれるわけ。なにが強い人だよ。僕なんか弱いさ……まぁ、虫よか強くなったとは思うけど」

 手をひらひらとさせ、肩をゆっくりと落とした。

 目標のレベルは180と言われた。努力したらいけると言われたこの目標値だけど、どれくらい早く動くのか、どれくらい腕っぷしが強いのか。そういった程度が分からない。
 身近の人に聞いてみる、と思ったりしたけど、気軽に話せれる人ってケトスくらいだからなぁ、と。いや、ケトスが悪いって訳じゃないんだ。でも、もっとこう……手軽で凡人みたいな人に聞いてみたい。
 ケトスの口から「僕のレベル? 150だよ」とか言われた日には「無理じゃん!!」と卒倒する気がする。
 ナグモさんはそういうのはぐらかしてくるだろうし。ティナ先生はどうせ化物だし。

 バケモノみたいな人ばかり知り合って、同年代で、同階級で、凡人の知り合いがいないのは如何様な物か。

「……なんだかなぁ」
 
 

      ◇◇◇



 帰りながら睡魔と戦っていると何とか寮に着いた。
 後ちょっとでベッドで寝れる。その欲求に涎を垂らしながら何か投函されているかを軽く覗いて、自分の寝泊まりしている二階の部屋へ行くべく階段をゆっくりと上がる。
 カツカツと静かなギルドの男性スタッフ寮に足音を響かせ、息切れしながら階段上で休憩。壁に体を擦りながら自分の部屋まで到着。

「やっとっ、ねれる……ぅ」

 鍵を開け、ドアを開くとぶわっと風が吹いた。
 うっと目を瞑り、疑問に思いながらゆっくり目を開くと――

「すぅ……すぅ……」

 自分のベッドの上に人影のようなものが見えた。
 バタン。
 入ろうとしていた体を外の通路に出してドアを閉めた。

「……?」

 あれ……?
 なんで?

「ここって僕の部屋だよね?」

 深呼吸をして部屋番号をしっかりと確認した。
 うん、僕の部屋だ。間違いない。

「ますたーどうしたんですか?」

「いや……。ちょっと訓練で疲れてるのかも……」

「?」

「エリルはとりあえず僕の体の中に入ってて、万が一のことがあるから」

「は、はい」

 目頭を押さえながら再度ゆっくりとドアノブを捻って中を覗き込むように見てみる。

「すぅ……」

 やはり、ベッドで横になっている人影が見えた。
 不法侵入!? と驚く元気などない。あるのは単純な何故? という疑問だ。
 ドアは鍵を開けたから閉めていたし、人が入れる経路はしっかりと戸締りはしていたはず、とドアノブを捻りながら考える。
 風でカーテンが揺れ、差し込む月明かりで薄く見える人影に恐る恐る近づいてみると、フードを被ったまま寝息を立てているのが分かった。

「黒……いや、濃い青の髪色」 

 完全に布団をかぶって寝ているから部屋を間違えて入って来たってことなのかな。

(でも、どこから……?)

 入れるところなんてないだろう。

「……まさか、窓から?」

 風が吹いているということは、開いているということ。当たり前のことすら考える力など残ってないが、ソファに投げていた荷物を退かしながらベッドで寝ている人物をチラ見。
 追い出す。いや、でも……今もめごとになったら絶対負けるし……。
 それでも、被っているフードに手をかけて顔を覗いてみると――僕はビックリして飛びのいた。

「お、女の子……!?」

 僕の部屋のベッドに寝ていたのは、青髪の少女だった。
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