【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

文字の大きさ
109 / 283
2-4 少年立志編:不法侵入者と勇者と転生者と

107 忘れてないよ

しおりを挟む




「お、え……あ……、な、なん、すごいっ……!」

 オーク100体VS僕達三人の戦いは、僕が50体を倒すのに遅れたから時間がかかってしまった。
 ノルマが25体ずつだった二人はすぐに倒して僕を待ってくれていた、それに関しては申し訳ないと反省してるけど……僕の戦いをずっとニコニコして見ていたから謝る気もなくなった。

 その後倒したオークをイブは全部収納してくれて、クエストの報告をして報酬を貰って解散した。

 ギルドから持ち帰る時にすごく重たいと思っていたけど、こんなに……ゴブリンとか倒してた時の何倍だ??
 机の上に投げていた袋の中に入ってるお金を見て、クエストでへとへとだった僕のテンションは頂点まで達してた。

「これ、いくらあるんだ……?」

「貸してみてー。んー……8000ウォル……とかそんなとこかな?」

「8000……!?」

 ってことは、えっと……円換算で――って分かるか!
 地球にオーク討伐のクエストなんかないし、物の価値や貨幣価値も違うし、刷る技術がどれほどなのか、流通はどうなのか、とか全く分からないのに分かってたまるか。 

 机で自問自答しながら髪の毛をくしゃくしゃと掻いた。

 そういえば……今回受けたクエストって中位ちゅういのクエストだったよな? それで僕が倒したのはオークと数体の上位ハイだけだし、僕の階級ランクは低いからちょっと割引みたいなのがされてるかもしれない。なのに8000ウォルってことは――あ、だめだ、自分が今何考えてるか分からなくなってきた。
 疲れもあり、いつにもまして思考回路が機能をしてくれない。

「ほい、これでプラス2万ウォル~」

 ジャリジャリ、と僕の袋より重々しい袋をと机に投げて渡してきた。
 僕は辛うじて動いていた思考さえ止まった。

(……なにこれ?)
「え、あ、ぇ、ぁ」

 口をパクパクと動かし、何かを喋って伝えようとしたけど、目の前の金額に頭がパンクして言葉を失ってしまった。だけど、何故かイブに通じたみたいでウンウンと頷いてくれた。

「あげるよ~、今のボクにはいらないし」

「あげる? これを……?」

「家賃とご飯と昼寝させてくれて、話し相手になってくれる代金だと思ってくれたらいいよ。」

「そんな、でも……こんなに大金貰えない……」

「いいっていいって~、お金必要なんでしょ? じゃんじゃん使ってよ」

 へへへっと歯を見せて微笑んでくれた。
 手元に投げられた貨幣の袋とイブを交互に見てると、ぶわっと涙が出てきた。

「うっ……っ」

「クラディス!? え、どうしたの、大丈夫?」

「いや……なんか、温かさというか、お金とかの話になると思い出すことがあって……」

「そ、そうなんだ。びっくりした~」

「うん……驚かしてごめん」

「あはは、口癖みたいに謝るじゃん。いいよ、なーにも気にしてない。ただただ面白い子だなーっておもうだけ」

 そう言うとイブは上着を脱ぎ、ソファに腰掛けてくつろぎ出した。
 その背中を見て、僕は昔のことを思い出した。

 僕はお金で困ってばかりだ。地球でもこの世界でも……いっつも。
 佳奈を大学に行かせるためにバイトを掛け持ちして……って、少し前の話なのに懐かしく感じるな。
 元は大学を諦めて――違うか、両親が離婚をしてからあの日々が始まったんだっけ。
 毎日が苦しくて、助けてほしくて、でも僕が折れたら残った家族佳奈まで失ってしまいそうで怖かった。あの時はそんなことまでハッキリと思ってなかったけど、ぼんやりと自分の責任感を感じてたな。

 自分ができることを全力で取り組んで、お金を稼いで、貯めて、休みなんかなかった。
 だけど、あの時は自分がどれほどの環境にいるかって分からないんだよな。アレが僕の当たり前だったし。

 ――ズズッ。

 何回思っただろうか、自由に生きたいかって。
 この世界に来てからは向こうの世界よりかは自由に生きれてる自信はある。
 ……時折佳奈のことを思い出す。私のことを忘れないで、と言っているかのように。
 体が、心が満足したときにでてくるコレは……何と言ったらいいんだろうか。何と、比喩すればいいのだろうか。

 椅子に深く座り直し、肩で大きく息を着いた。

 それにしても涙が出たの久しぶりだな。今も少しぼやけるし……。

 涙で滲む目を袖で何度も擦った。
 そして、涙が完全に拭けたと思って顔を上げると――視界に広がる景色は変わっていた。


「……え?」


 そこにはかつての自分が住んでいた部屋の椅子に座った時に見える光景があった。
 佳奈がソファに座り、僕の帰りを待っている場面の写しのような……。
 この所々ボヤけているのは家具や絨毯、記憶が曖昧なところだろう。
 だけど、僕はその視覚情報に……目が奪われた。
 
 そこには――佳奈がいた。
 
「――っ!?」

 肩上までの髪。黒く綺麗な瞳。母譲りの優しくも少年さを感じさせる顔。
 クマを抱きしめるその姿は、何度も見た姿そのもの。
 目が見開いた。その姿を焼き付けるように、その懐かしい姿を見逃さないように。

「かな……」と口から名前が落ちた。

 瞬きを数度挟み、ぼやける目を再度擦ると――イブの姿へ戻っていた。

「あ……」

 胸前まである紺色の髪。赤く綺麗な瞳。聖女のように美しくも美男子を思わせる顔。
 僕は少しだけ浮かしていた腰を下ろし、背もたれに体を預けるとギィっと軋んだ。
 手を見つめ、そのままゆっくりと髪をかき上げるように頭を抱えた。

 今のは、なんだ。イブが、一瞬佳奈に見えて……。

「――クラディス?」

 こちらを見て首を傾げるイブの声にバッと顔を上げる。
 やはりその顔は佳奈ではない。
 だけど、その動作の一つ一つに垣間見えたのは……僕がずっと見てきたモノだった。
 イブが、佳奈? そんなまさか、だって僕より年上で……。

「どうしたの? 顔色悪いよ?」

「……ね。イブってさ、平野佳奈……って知らない?」

「……ひらの、かな?」

 言葉をなぞられただけだと言うのに、ドクンドクンと心臓がうるさく大きな鼓動を立てる。
 目の前にいるのが妹なのかもしれない、という期待と不安を胸に抱いていると、やや考えるような間が空いて。

「……ううん、知らないよ」

 イブがいつもの笑みを浮かべていた。
 他人の空似。イブは、佳奈じゃない。

「そ……っ、か」

「その人がどうかしたの?」

 その問いかけに答えを話すことはせず、自分の頭にある言葉を言い聞かせながらイブの顔をしっかりと見て、そして精いっぱいの苦笑いを浮かべた。

「……いいや、なんでもないよ――イブ」

 きっと僕はつかれてるんだ、と。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...