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2-5 少年立志編:友人としての線引きを
115 ファザーの名前発覚
しおりを挟む目の前に連れられて来たのは、赤髪の短髪で左腕の肘から手首まで包帯を巻いていて、筋肉質で引き締まった体の女性。身長はレヴィさんより少し低いくらいだろうか。瞳の色は黒だから剣闘士だろう。リリーさんと横に並ぶとそれが際立って見える。
今まであった女性の冒険者より明らかに強そうな雰囲気を持っている、そんな人だ。
「話って言ってもなァ……って――」
言いかけるとこちらに目を向けて、指をさしてきた。
「なんだ、このお子さん二人は」
「一人は迷子で、もう一人はお前んとこの三人が拾ったクラディスって子。もしかしてあったこと無かったのか?」
「は、え? この子が例の?」
「は、初めまして……」
グイッと近づいて僕の顔をジロジロと見つめたと思うとハンッと鼻で笑った。
「この子がエルシアのお気に入りねぇ。飯食ってんのか? 弱そうに見えるぞ」
「うっ。」
「まぁ、子どもだからそこら辺は仕方ないだろ。……それで、話なんだがログリオ爺さんと連絡って取れるか?」
「なんでログリオ爺さんなんだ? 迷子って言ってた子のやつ?」
「そこの少女は、どーもログリオ爺さんの血盟員っぽいと思ってな」
「へぇー」
興味がイブに移ったようで、今度はイブをじぃっと見始めたのでイブはサッと僕の後ろに隠れた。
(イブってもしかして、人見知り……?)
さっきから何か嫌がるというか、怯えているというかそういう素振りを見せている。
「ばか、そう怖がらせるな」
「あー悪い悪い、癖でな。どれくらいの実力なのかって大まかに把握しようとしちまうんだ」
「なんだそれ、失礼なやつだな」
「血盟主たるもの、そういうものは大事だと思うぞ」
「私はあまり興味が無い。私が聞きたいのは結局お前はあの爺さんと連絡が取れるのか? ってこと」
「おぉ、もちろん取れるぞ」
「……だったらもっと早く言ってくれ」
「リリーが「三人が拾った~」とか「あの爺さんの所の血盟員~」って言うからだろ。人のせいにすんな」
「はいはい、じゃあ連絡してくれ」
「って言ってもギルドに行かないと連絡できないんだけどな、あ、これ血盟五位の特権な」
「血盟二位の血盟員の前で恥ずかしいことを言うな、じゃ、私は寝るから」
マーシャルさんが自慢げに言うことを流して、リリーさんは帰って行った。
「なんだあいつ、今日は元気ないなー」
「宴の後とかなんとかで疲れちゃってるみたいです」
「宴ぇ? アイツそんなに飲んでたか……? 体だけでなく酒のことも童みてぇなんだな」
まだギリギリ見えるリリーさんの方を向いて、ケラケラと笑った。
二人はどういう関係なんだ……? 血盟が違う、それもかなり上位の血盟の血盟主同士じゃないのか? レヴィさんが仲が良いとは言っていたけど、こんな感じなんだ……。
「じゃ、明日の昼頃に西部の冒険者ギルドに来といてくれ。あの爺さんも多分暇だからそれで来てくれると思う」
「あ、ありがとうございます」
「……ありがと、ございます」
「ん、じゃ、早く帰んなさい。私は……ふぁぁぁ……もう一回寝てくるわ」
そう言うとマーシャルさんは体を伸ばしながらの方に入っていった。
それを見て、ぽつんと街路に佇む僕とイブ。
「……とりあえず、一旦家に帰ろっか」
「うん」
なんだか、あっさり見つかって反応に困ってしまった。だけど、これでイブはファザーの元に帰ることができる。少し寂しいけど……こればかりは仕方がない。
◇◇◇
マーシャルさんやリリーさんが言っていた『ログリオ爺さん』っていう人がイブが入ってるトコの血盟主……リリーさん、マーシャルさん、ムロさん達よりも強い人……。どれくらい強いのだろうか。
【ティータ】からゆっくり帰りながら、イブの様子を見てみるがやっぱり浮かない顔をしていた。
若干空気が重たい……。何か話をしないと、今日でお別れになるのにこのままだとダメだ。
「……イブが強いところの人だなんてね。ごめんね、ちょっと偉そうにしてて」
「えー、全然いいよぉ。ボクもファザーがどんな人か知らないし、元々ボクが迷子になったのがダメなんだし」
「でも迷子にならなかったら会えなかったからね」
「なら迷子になって良かったぁ」
「最初の方はイブのことちょっと怖い人だと思ってたんだよ?」
「なんで?」
「強いし、冒険者の階級も高いし、部屋の外だったらずっとフード被ってるし。だけど、一日経ったら全然気にしなくなって毎日が楽しかったよ」
「ふぅーん……そっか」
「2日も経ったらイブもよく笑ってくれるようになってさ、友達ってこんな感じなんだろうなぁって」
「……友達、友達……か」
イブは僕の言葉を意味ありげなように繰り返し呟くと、僕と同じ歩幅で歩くのをやめて立ち止まった。
振り返ると、フードの下の口がキュッと結ばれたのが見えた。
「イブ?」
「ね、クラディス。ボクってクラディスの友達……かな?」
「? うん。僕はそう思ってるよ」
「……そっか」
「どうかしたの?」
「……やっぱり、ボクとファザーと一緒に来ない? ボク、クラディスのこと気に入っちゃった」
顔を上げて優しい笑顔を見せたイブ。僕はそれに一瞬肯定の言葉がでかかったが、それを飲み込んで僕も笑った。
イブなりの勇気を振り絞ったお誘いなのだろうけど、僕は……。
「素敵なお誘いだけど、それ、僕が受けた恩を返した時にまた言ってくれたら嬉しいな」
「……それっていつ?」
「僕にも……わかんない」
イブと会ってケトスと三人でクエスト受けたり、時間が空いたら外食をしたりするのは本当に楽しかった。
向こうの世界だったらそういう友達との付き合いってあまりしてこなかったから、友達と遊んでるって感覚が新鮮でワクワクしたし、直接言ったけど本当に毎日が楽しかった。
毎日が少し色鮮やかに感じた。クエスト中にケトスから話をしてもらった剣闘士《ウォーリアー》のスキルをみんなでやってみたり、また競争をしてみたりしていたのも楽しかった。
それに、イブの戦い方は中々豪快で相手の足元から水の槍を生やしたり、巨大な水の玉をゴブリンキングの顔面目がけてぶつけて固めて窒息など僕を驚かせてくれた。
あとは全般的に水魔法が得意で、紺色の髪の色だからとてもお似合いだと思ったし、ケトスとは違った戦い方で、純粋な魔導士の戦い方を勉強できた。
そんなイブのお誘いだ。快く受けたい。
だけど、僕はムロさん達への恩を返すのが最優先なのは譲れない……だから、今はあまり寄り道ができない。それこそこの恵まれた環境を脱するのは……最適ではない。
「三人と会ったでしょ? ギルドでの冒険者。あの人たちに恩を返すまでは僕は何もできないんだ。ごめんね」
「へぇ…………そっか。わかった」
「だけど、イブとの暮らしは楽しかった! 本当に。だから早く恩返しができるように努力はするよ」
「いーよいーよ、次に声をかけた時にしっかりと返事をもらうようにするからさっ!!」
「イッ――はは……分かったよ、じゃあまた今度お願いします」
背中を思いっきり叩かれてコケかけたけど何とか持ちこたえた。
ヒリヒリするのを擦りながらイブの顔を見上げたけどいつもの表情だ。……さっき、少し表情がイブらしくなかったけど気のせいだったかな。
まぁ、だって今日で最後だもんな。イブも少しは寂しかったり? そうでなくても何かイブに振舞ったりプレゼントをした方がいいよな。そっちの方が寂しさも紛らうし……何かいい案は無いかな? 送別会的な。
「……あ。」
「なになに?」
「いいこと思いついた。ちょっと耳貸して」
イブの耳元でコソコソと、思いついた送別会の内容を話すと頷きながら話を聞いてくれた。伝言ゲームのような感じで思いついたことを伝えると、イブはニヤッと笑ってくれた。
「いいね、それめっちゃいい!!」
「決まり! じゃ、早速準備をしに行こう」
宿舎に帰ろうとしていた足を反転させ、僕達が歩いてきた道を元に戻り出した。
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