【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

文字の大きさ
160 / 283
3-2 残穢足枷編:彼女の幸せは

155 不十分な治癒魔法

しおりを挟む



「まだまだだね、ほんと」

 直撃するはずだった黒い槍は方向がズレ、アンの左肩を掠めた。

「ケトス……!」

「白髪……っ」

「主人に似て、よく考える頭をお持ちのようで」

 ケトスの大斧はその一振りで壊れ、武器無しの状態となってしまった。
 一方で、キングの魔法によって肩が抉られてしまったアンは態勢が整わないまま勢いよく地面に落下してしまい、身動きが取れない状態だ。

 そこは、大斧を持ちながらも魔法を使うことができるゴブリンキングの真下であり、群れの中心地。
 そこに落ちてきた無防備な少女が一人。
 体の力が抜けて立ち上がることができないアンの頭上に、不器用に斧が振りかぶられているのが見えた。

「――『身体強化』!!!」

 クラディスはアンに当たる寸前に身体をねじ込み、右手に持った小刀でなんとか受け止めた。

「あるじ……」

「ッ!! ぃケトス! 周りの奴頼める!?」

「僕はいいけど、クラディスは片腕で戦えるの?」

「どうにかする! 出来るかわかんないけど……頑張ってみるから!」

 ゴブリンキングを巻きこんで一時的に敵の前線を下げてくれたケトス。
 その彼に見えないように勉強会で習った内容を思い出しながら、骨折している左腕を抑えて淡い青緑色のいびつな球形を作って治癒魔法ヒールを施そうとして、腕を止めた。

「ぅっ……まだ、無理だ」

 苦い表情を浮かべると、包帯を取り、先程とは違う魔方陣を展開していった。

「『痛覚鈍化アネステディア』『脳内麻薬ドーパミン』……」

 覚えたての『回復ヒール』では、骨折を直すことができないと踏んだ。
 それなら、魔導が完璧に把握できていない痛覚軽減系の治癒魔法をしようと思ったのだ。

 しかし、これらが使えるのなら最初から使っていた。

 使ってこなかった理由は、不完全な治癒魔法を使うと自分の体にどんな影響を与えるか分からないという恐れがあったからだ。
 こればかりは通常魔法のように魔素量を増やしたとしても意味がない。
 そして、クラディスは後ろで絶望の表情を浮かべている少女を『土壁ロテム』で囲んだ。

「あるじ!! なんで……!!」

「肩の傷が悪化するから、そこでゆっくりしてて」

「そんな……! 私はまだ戦えます!!」

 ガリガリッと土を削る力がない音が背後から聞こえる。
 それだけで、少女の体がすでに限界であったのが分かった。
 強引に治癒魔法をかけたことで、結果的にクラディスの骨折していた左手は動くようにはなった。だが、完璧に治った訳ではない。
 歪な魔導と文字ルーンで不完全な麻酔を打って、誤ったやり方でドーパミンを脳内に溢れさせただけだ。いつ効果が切れるか、体にどんな影響がでるか分からない。最悪、骨折が悪化して治らなくなることだってある。
 
「あるじッ!! ここを開けてください!!!」

「すこし、待っててね……早く倒すから……!」

「わたしは、あるじの……身を護らないといけないのに! なんで……お願いです……っ。わたしを……」

「――っ」

 声色に哀哭が混ざる少女の声に耳を貸さず、左手にも小刀を持ち、歯を食いしばった。



      ◇◇◇



 僕はアンをおぶってペルシェトさんの所に走っていった。
 ゴブリンキングと戦う時に両手での連撃をしていったのだが、硬い皮膚を切ろうとしたら腕に鈍い痛みが来て、折れた骨が皮膚を突き破りそうになったのを確認して左手を庇うように戦った。

 危ないところがあったが、なんとか倒すことができて一緒に森を脱した。
 
 アンの容態は、会話はできるが、足の捻挫と肩の抉れたところに炎症のような症状が見て取れる。あとは、スキルの酷使により魔素ロストの様な状態だ。
 時折、痛みが続く様子で痛みを耐えるような声を発している。

「アン、もうちょっとだからね……」

「……ごめんね、あんなに無理するとは思ってなかったんだ」

 ケトスも少し反省した様だ。さすがにやり過ぎたと思ってるのだろう。

「はぁ……謝らなくていいよ。それを承知で行くって言ったと思うし、一番分かってると思う。だけど、もうこんなことしないでよ」

 ケトスは僕がアンのことで悩んでると思って、このクエストを受けてきてくれたんだろうと思うし、現に……理由は分かった気がする。
 あの時、僕がいない間で何か話をしたんだな……。

「すみません……わたし……」

「! アンも謝らなくていいって。それより痛みは大丈夫?」

「……はい、でも、あるじの腕が……」

「これは僕が弱いせいだから、気にしなくていいって」

 冒険者ギルドに着いたらケトスは正面から入ってクエストの報告をしに行って、僕は裏のスタッフ専用の入口から入っていき、仕事中だったペルシェトさんを呼びに行った。
 一番忙しい深夜帯なのに、訳を話すと奥の診察室へと案内してくれて、アンの腕を触れないように診てくれた。

「……妖術の類だね、これをどこで?」

「キングの中に使う奴がいて、その攻撃を肩に掠めて……」

妖術士シャーマンだね。その魔法ってことは闇属性魔法系統の……。ちょっと失礼するね」

 炎症が酷い肩の近くを触れ、目を細めた。

「……うん。大丈夫、治せるよ」

「ホントですか!」

「早く来てくれたおかげでね。魔法の中でも闇魔法というか、ゴブリンが使う魔法というのがちょっと厄介なのが多くて、血液を止めたりしてその部分が壊死しちゃうってのがよくあるんだ。今回はそれ。気づいていたかもしれないけど、患部に血が流れてないでしょ? そこの魔素をとっぱらって、この傷を治すように治療したらいいだけ」

 アンの肩に手を触れずに治癒魔法をかけて行き、抉れていた部分も元通りになった。途中に血が溢れていたのは布で拭って、袋に入れて縛った。
 治ったアンはベッドに座らされていて、涙を浮かべて一言も発さない辺り、酷く落ち込んでいるようだ。 

「よかった……見たことない魔法だったから心配し――痛っ!!」

「やっぱり、クラディス君骨折してる手こっちを使ったでしょ」

「えっ、その……使ってないーかな?」

「私の前で嘘言うの? お見通しだぞ~? すっごく悪化してるから完治するまでの時間が伸びちゃうけど、何もしなくていいの? ホラ、ここ。あとちょっとで骨がこの柔らかい皮膚を突き抜けて出てきちゃうよ? 寝返りしたら朝起きたら「こんにちわ」って白いのが顔を見せるかもね~? それでもしないの?」

「うっ……」

「さ、治癒士クレリックが言う言葉を聞かないおバカさんは大人しく座って! はやく!」

「……すみません」

「――って、不十分なまま治癒魔法使った……?」

「え、っと……」

「『痛覚鈍化アネステディア』……あとは『脳内麻薬ドーパミン』使ったでしょ。おいー、不完全なまま使ったら治りにくくなるからダメだってー!! もー!! 悪ガキだなぁ……」

 治癒魔法をする時にお叱りの言葉を言われていると、途中で入って来たケトスも巻き添えを食らい、僕の骨折の治療が終わるまでペルシェトさんの言葉を永遠と聞かされた。

 僕らは俯いて、たまに相槌を打つしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...