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3-3 残穢足枷編:禍根会遇の処
165 アイツは転生者なんだぜ?
しおりを挟む僕の体を貫いた武器は抜かれ、空いた傷口から血が大量に流れ出て行くと共に意識も段々と薄れていくのを感じる。
そのまま意識を失えたら、これ以上の痛みなど感じずに済んだかもしれない。
だが、この男はそのような優しさは持ち合わせていなかった。
僕が意識を失いそうになる度に顔面を地面へと叩きつけたり、擦り付けたり……それによって僕は強引に意識が戻されていた。
「話の途中だろ、寝んなよ」
「ぁ……あ……」
「どこまで話したっけか」
僕の背中の上に腰を掛けているシルクが呟いた。
「新しいガキがロバート公のとこに来たってとこだな」
近くの岩に腰かけ、煙草を吸いながら話を聞いている金等級の冒険者がそう答えた。
「そうだっけ? まぁいいか。あいつは来たばかりの時はクソ雑魚だった。今は闘技場で『最強の少女』だってチヤホヤされてるみたいだがな。館にいた時は人の血を見るだけで怯えるような奴だったんだぜ?」
「へぇ~、そんなんでも買われるんだから奴隷ってのは分かんねぇな」
「アイツは実力で買われたワケじゃねぇよ。どうせ顔が気に入ったとかそういう感じだろうよ。それでも、一時期は俺と一緒に仕事をさせられてたんだけどな……。だけど、アイツ、いつからか急に姿が見えなくなったんだ」
「ん、どういうことだ?」
「奴隷の姿が見えなくなるってのは前から何度かあったが、そのほとんどが使い物にならなくなって捨てられたか、単純に俺の知らねぇとこで死んだか、館から逃げた――まぁコレも結局は死んじまうんだが。そんな感じかと思ってたんだが……まぁ、実際は全部違った。アイツ、地下室でサンドバックにされてたんだ」
「はははっ、マジかよ!」
興味津々に話に食いつく、金等級の冒険者。
「ご機嫌取りでも間違えたのか?」
話から冷静に分析をしている大柄な白金等級の冒険者。
「いーや、他の奴に聞いた話だと「主人に夜伽を迫られて、それを断った」らしい。それで一気に評価が落ちてサンドバックって感じだ。身体中にアザを作って、ボロボロになって泣き叫んでも声が外に聞こえないように律儀に防音の魔法を張られて、癇癪を起したらその都度殴られてたよ。あのくそ女、自然治癒が早いから直ぐに回復しててさ、それでずっと殴られてんの。弱ぇし、何もできねぇ奴だったからお似合いだったが」
「ロバート公は女児好きなのか……いい性癖してんな」
「顔だけはほとんど綺麗なままだったから、まぁ余程気に入られてたんだろうな」
「で、結局ソイツとロバートさんは夜伽ったのか?」
「知らねぇ、強姦ったんじゃねぇのか」
「へぇ~……俺も最近溜まってるから今度ちょっと見てみようかな」
認識阻害の結界に触れながら、こちらを振り返りながら会話に参加した軽装備の金等級の冒険者。
「はっ、お前らなんか一生かかっても買えねぇよ」
「あぁ? その白髪のガキは買ったんだろ」
「どうせ1発当てたんだろ」
そんな頭の上でされている会話を聞いて、僕は怒りで気が狂いそうだった。
僕は今日までアンに傷をつけたのは闘技場関連のことだけだと思っていた。
しかし、そのロバートってやつがアンの感情を抑制し、傷つけていたってのが今分かった。
だけど予想以上に僕の体にはガタが来ているみたいだ。
湧き上がってくる怒りの感情のままに体に力を入れようとすると、筋肉が収縮して傷口が焼き石にでも当てられたように熱く感じ、頭の天辺から足元までを痛覚が支配して上手く動けない。
それではと『回復』を試みたが、痛みに気が散らされて上手く発動が出来なかった。
(アンの事を馬鹿にされ、虐げられているのに……僕は何もできないのか……)
悲しい。
自分の無力がなさけない。
(僕の……大事な人をコケにされても、ただの痛みで動くことすらできないのか……!)
「そういえば、ちゃんと聞いてなかったな。なんでお前はアイツを買ったんだ?」
「……ぼ、くは」
「喋り方が分かんねぇか?」
絞り出した言葉を遮るように頭を持たれ、体を持ち上げられる。
「ぐ……あっ……」
「で、なんだって?」
「アンが……僕と――から」
「聞こえねぇよ」
頭を強く握られ、強い頭痛が襲う……が、今回ばかりはそれに助けられた。
「っ! 僕と、同じ目をしてたから……! 彼女は、絶望してたんだ……ッ!!」
痛みのお陰で感情がはっきりと出て、叫び声じみた声が腹から外へと出ていった。
「目ぇ……?」
「生きるのに希望がないような目をしてた! だから、僕は……自由に生きて欲しかったんだ!! アンは殺されていい訳じゃない。生きていいんだ、彼女は何も悪くない!!」
「……はぁ。」
呆れ、嘆息のような返答が聞こえると思うと体が地面に落とされた。
「うっ……」
「やっぱり……俺、お前、嫌いだわ」
地面に落ちた僕の体を全力で蹴飛ばし、まるで球技の玉のように広場の地面へと転がした。
僕が転がった先へと歩きで近寄り、さらに遠くへと蹴飛ばされる。
男の靴の先が傷口に触れ、僕がどれだけ声にならない声をあげようと、何度も何度も何度も何度も蹴りを加えられた。
そして最後に力強く蹴られると、僕の体は広場の大きな木の所にぶつかって止まった。
「ぁ……あ……ぅ」
「お前は言ったな。あのくそ女は自由に生きるべきだってよォ」
僕の体は今、五体満足なのか……? 全身が痛い、体の震えが収まらない、血液を失いすぎた、早く止血を……。
森林の奥から血が付いた醜い道が出来上がっている。その道をゆっくりと歩いているシルクと【フーシェン】の冒険者達が見えた。
何か聞こえる、シルクの声か? マズい、早く何かしないと──……。
「――そんなお前に良いこと教えてやるよ」
地面にうつ伏せで倒れているまま頭だけを起こし、何かを呟きながらこちらへと着ているシルクの顔を見た。
そのおかげもあって、彼の次にいう言葉はしっかりと耳に入ってきた。
「あいつは……あのガキは転生者なんだぜ?」
笑みながらも、引き攣り、様々な表情が混ざった表情で彼はそう言っていた。
たしかに、そう言っていたんだ。
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