181 / 283
3-4 残穢足枷編:禍根断ち切りし暁
173 目を見られたので告白を
しおりを挟む頭の中がグチャグチャになる感覚だ。
身体中の至る所の風通りが良くなった……そしてそこに熱が篭もり、何かが体から抜けていくような気がした。
僕は……どうなったんだ。
一人……いや、二人? 違う、もっと……十人はいない男達と戦っていたのは覚えてる。けど、そのあとは……。
閉じていた目をゆっくりと開くと見えたのは森ではなく、木目の天井。
「生きてる……?」
訓練した後の全身疲労みたいな気怠さ……よりも強いのというか……そういうのがある。
上手い表現が出てこない辺り、脳みそも仕事放棄してるみたいだ。
「よいしょ……っ……と?」
体を起こそうとすると布団の重みとは別の重みを感じて、そちらの方へと目をやると布団にもたれかかる形で寝ているアンの寝顔が見えた。
よかった……アンも無事だったんだね。
一度死んだ経験があるから、もしかして、と不安で不安でしょうがないな。
「ん……っ、あるじ……?」
「おっ、起きた。アン、おはよう」
「…………?……! あるじ!! あるじっ!!!」
「わっ……!」
突然胸元に飛び込んできたアンの重みで、ぼふっと後ろに倒れてしまう。
「ひぐっ……あるじぃ。あるじっ、あるじ……っ! わたしのせいで、わたしのせいで……ぇっ!」
「あはは……ごめんね」
泣きじゃくるアンの頭を撫でながら部屋を見渡すと、ココは自室ではないようだ。
天井の模様とかが一緒だったから僕の部屋かと思っていたけど……どうやら違う。
でも、ギルドの寮であることは間違いなさそう。
「もう、ほんと、嫌ですから、あんな命令しないでください……」
「最善策だと思っちゃったんだ。でも、結局生きてたわけだし、ね? ダメかな」
僕の胸に顔を埋めながら、アンは首を横に振った。
「心配で……だって、あんなに血を流して……最後には気を失ってて……っ、全然目を開けてくれないからっ!! 三日間も、ずっと……!」
三日……も寝てたのか。
「……心配してくれてたんだね」
「当たり前です……! 何を言ってるのですか! あるじは、あるじは……っ。わたしの……うっ、ああああっ……!!」
再び泣き出したアンの頭をまた撫でて、僕は思わず微笑んでしまった。
泣き止まないアンの背中をぽんぽんと叩き、落ち着いてもらおうとするけど、一向に泣き止んでくれそうにない。
まいったなぁ、と思いながらふと部屋の入口の方を見てみると、束ねられた細長い黒髪と白い髪の毛がチョロっと覗いているのが見えた。
「そこにいるのって……」
「あっ、バレちゃいました……?」
出てきたのは、ナグモさんとケトスだった。
ナグモさんがいるってことはー……ここは、ナグモさんの家か。
いつも通りの表情で話すナグモさん。だけど、その隣にいるケトスは少し表情が暗い気がする。
トイレでも我慢してるのかな……?
「お体の方は大丈夫ですか?」
顔色を覗き込もうとしていたけど、ナグモさんの一言で初期位置に戻って、ぐるっと体を見回してみる。
服の上からペタペタと触ってみるが、ふむ……。
「……僕って刺されましたよね。結構酷かったと思うんですけど。それにしては、違和感がないと言いますか……えーと」
「えぇ、酷い傷でしたね。ですが、ペルシェトが怒って全部治癒してました「いい加減治させろ」って」
「あぁ……それで」
ペルシェトさんには傷を負う度にお世話になっちゃってるな……。
骨折した時もあれこれと注文したし、今度ちゃんとお礼を言いに行かないと。
「それで起きたばかりなんですが……クラディス様、少し話をしてほしいことがありましてですね」
「話……? って、なんのですか?」
すこしだけ、ナグモさんの言葉が真剣みを帯びた気がした。
「なんて言ったらいいのでしょうかね~……えーっと」
「――クラディスがずっと眼帯で隠していた目の事さ。気づいてる? 今、眼帯付けてないんだよ」
「……え? 眼帯……――」
隣のケトスが真剣そうな顔で言った言葉で、いつもより視界が広いことに気付く。
一気に背筋が凍り、急いで片目を隠そうとしたが――ゆっくりと手を降ろした。
ダメだ。今更、隠したら余計変な風に思われてしまうかもしれない。
「見られちゃったんだ……。はは、そっか……」
精一杯に空気を悪くしないように笑顔を取り繕った。
だが、ケトスの手が腰にある小刀に当てられているのがチラと目に入ると、悟られない程度には笑顔が崩れてしまったかもしれない。
返答次第では抜くのも辞さない感じかな……。そうだよね、そう、だよね……。
あの男達の反応がそのままこの世界の意見だ。意志の強弱はあれど、転生者に対しての思いはほとんど一致してるのだろう。
「……うん。良い機会だし、話をしてもいいかな……」
アンとナグモさんもいるし、これはいつまでも隠し通せることではなかった。
腹を括るしかないんだ、こればっかりは。
真剣に、でも仰々しくないように、誇張表現をしないように……僕という人間のことを理解をしてもらえるように――
「実は僕……転生者なんだ」
上手く伝えられるかは分からないけど、僕が話してなかったことを話そうと決めた。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる