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幕間のお話
閑話 ユシル村①
しおりを挟む太陽が暖かい日差しを降り注がせ、それを草花が受け取り生き生きとしている。
時折吹く風に草花は体を揺らし、自然の香りを乗せて次に送っていく。
その場所は辺り一面人工的な建物がなく、所々に木が生えており殺風景と表現してしまうとそれまでだが、人の手があまり加えられていない平原。
そんな平原の路上にある小石に、少しの振動を加えられながら目的地に向かっている六輪の車が一台。
その外装は配送業のトラックのような形をしており、先頭がすこし屋根のように突き出し、雨が入り込まないような構造だ。
先頭の中央部には台が置いてあり、そこには球体がつけられていて、荷物が置けれるような車体の大分部分は、金属がむき出しという不格好な見た目を避けるため、濃い緑の厚い布がかけられている。
「ねぇ……まだ~?」
その車の中にいる女性はつぶやいた。
車の中には三人の人が乗っているようだ。
一人は剣を帯剣し壁にもたれ昼寝をしており、一人は遅めの昼食を食べている。もう一人は車の先頭に座り、薄く光る球体に手をかざしている。
「もうそろそろ着くはずなのだが……ムロを起こしておいてくれないか?」
車の周りを見回し、手に持っている地図に目を落とす。
どうやら目的地に向かう際の目印のようなものがなかなか見当たらないらしい。
「はーーーい」
返事をした女は、手に持っていたパンの外皮をぱりぱりと咀嚼音を立て飲みこみ、指をペロっとなめてパンの粉を取った後、布で手を拭いた。
そのまま向かい側で寝ていたムロという男を起こしに膝を立てのそのそと移動していった。
「ムーロー、そろそろ着くらしいよ~」
ゆさゆさと揺らされた男は眠たそうな目を開いた。
「ぁ……。あ? あぁ。寝てた」
「知ってる、気持ちよさそうに寝てたもの」
ムロという男は額に手をやり、頭をすこし揺らすことで目を覚ましている様子。
ムロが起きたのを確認した女は満足そうな顔をして、車の進行方向とは逆側に歩いていき、かかっている布を持ち上げ外の日の光を車内に差し込ませ、日向部分に体を置いて外を眺め始めた。
外は日はまだでているが少し暮れ始めているようだ。
「おはよう、いまどこらへんだ……」
ムロは操縦台の横にまで移動してきて辺りを見回す。
辺りを見回しても、今どこに自分たちがいるかわからなくなるほど目印となるものがない。
地面に整えられた道に従って走らせると何回目かの分岐点から目的地にも道が伸びるようになっていて、分かりやすいように看板が立てられている……という少しの情報をたよりに車を走らせている状況だ。
「おはよう。んー、まだわからないな。だが、時間的にそろそろ看板が見えてきてもいいと思うのだが」
車を動かしているレヴィの横で少しあくびが出そうになるのを何とか飲み込み、辺りを見渡せる場所に座った。
「……それにしてもユシル村でも国の意向には逆らえなかったんだな」
足を外に投げだし、外を眺めながらつぶやく。
「まぁ、どれだけ国民を一番だと考えていてもさすがにおかしいことだとは誰しも気づいていたからな」
「だとしても今更すぎじゃないか? いままで黙認してたってのに」
「何々、何の話~?」
日向ぼっこに満足したのか、ムロとレヴィの会話に混ざろうと女はレヴィを中に置きムロの反対側に歩いて座った。
「エルシア、ユシル村は知ってるよな?」
「それくらい知ってるわよ」
ムロが少し小馬鹿にした質問をし、それに対してエルシアと呼ばれた女が頬を膨らす。
「そのユシル村は元々、王国兵の警備や冒険者の警備を全て拒んできていたんだ。なんでかはしらないが」
「警備を拒むって……?」
「簡単に言うと、村人以外村に入ってくんなってこと」
「えーー、なにそれ。不思議」
「それが理由なのか、冒険者の立ち寄り所にもなろうともせず、国に金銭は納めているらしいがそれ以外ほとんど外との接触がなかったらしい」
三人は今現在向かっている、ソフィス平原と呼ばれる所の北部に位置するユシル村の話を始めた。
エルシアは全くそこら辺の情報は知らなかったらしく、ふんふんと頷いて少し驚いた表情をしていた。
彼女より早めに冒険者になっていたムロとレヴィは、冒険者の先輩の話を聞いた程度の知識しかなかったが、そのまま情報を共有していった。
元々ユシル村の情報は少なく、王国が管理しているとはいえ、冒険者達の中じゃゴミ村だの、暴言でよく罵られている。
冒険の疲れを癒そうとユシル村に宿を借りようとした冒険者が、真夜中にもかかわらず突っぱねられ、村人と喧嘩したというのは冒険者の中で話のネタの一つになっているほどだ。
「――で、なんでそんな村に私たちは行こうとしてるの?」
「クエストだからだな」
レヴィはエルシアの問いかけに少し呆れた表情をし、答えた。
あ、そうかと目を開いたエルシアだったが、その態度をよく思わなかったエルシアは操縦中というのにレヴィの頬を軽くつねった。
その様子を眺めていたムロは少しにやけ、再び北側の風景を眺め始めた。
何の気なしに眺めていただけのムロの鼻に、何か自然の香りとは違う匂いが風によって流されてきた。
その異質なモノに笑顔だったムロの表情が歪む。
「まて、車停めろ」
ムロの真剣な声に反応し、頬をつねってくるエルシアのことは置いておき、言われた通りに球体に注ぐ魔素量をゆっくりと減らし減速させていく。
「どうした」
「いいから、今すぐ」
よくわからないまま、魔素の供給を止めその場で車を停車させた。
「いったいどうしたっていうの?」
車からひょいっと降りたムロが、小走りで北の方向へと駆けていった。
事情を説明しないことを疑問に思い、ムロの後を追っていった。
しばらく走っていくとムロはきょろきょろと見回し、先程鼻に入ってきた匂いの元へと近づいて行った。
そしてムロは立ち止まり、匂いがする場所へと到着したと判断した。
そこには倒れている看板とその数メートル先にある倒壊した家屋があった。
「……やっぱりか」
倒壊している家屋は一つ。周りに他の建物もなく看板が近くにあっただけのようだ。
ムロに続いてレヴィとエルシアも走って後に付いてきて、倒壊した家屋を見つけて足を止めた。
「こんなところに一軒家? 人でも住んでいたのか?」
「いや、おそらくだが……違う」
ムロが家屋の近くに歩いていき地面に落ちている木材を持ち上げ、家屋の下を覗き込む。
人の匂いや、死体のようなものがないことを確認するためだ。
「――死体なしか」
ムロは持っていた木材を元あった場所に置き、家屋の近くで何か考え込むような表情で見つめている。
その様子を見届けたレヴィは冷静に地図を広げ方角と場所を確認していく。
エルシアはその家屋だったものの残骸をじっと見つめ、何か思い当たることがあったのかぽつりとつぶやいた。
「……監視家?」
「かんしや……? 初めて聞く言葉だな」
「あ、昔。各村に提案されたっていう。村の四方に無人の家を配置してそこに魔素感知機を置いて魔物の接近を確認するっていうモノだった気がする。うろ覚えだからあれだけど」
珍しくエルシアが知識を披露したことでレヴィは驚いた顔をした。
「へぇ、エルシア物知りじゃないか」
地図から目を上げ、エルシアの方を見て意地悪そうな表情をした。
それに対してエルシアがジトっとした目を向け、落ちている看板を拾い上げ書かれている文字を読んだ。
「……南か、ここ南の監視家だからここから北に向かったらユシル村があるみたい」
「……のようだな」
先程まで確認をしていた地図を丸め、木材を踏まないように気を付け、北方向に歩いていこうとすると、まだ家屋から離れようとしないムロに気づいた。
「ムロ、ユシル村に……」
「この壊れ方……多分、最近のモノだぞ」
「? それはどういう……」
ムロは顎に手を置き、監視家の壊れ方、その状態を脳内でまとめていった。
倒壊した家屋の状態は最近壊されたような状態であり、変に草にまとわれていたり、木材の状態が家の外壁の木材は多少傷んではいるが、内壁だったと思われる部分は綺麗な状態で地面に落ちている。
木材と木材をつなぐ金属部位も土が被っているわけでもなく、使いなおそうと思ったらできそうなものが多い。
それに微かに残っている微細な魔素反応が気になる……。
日にちまで特定はできないにしろ、ここ1カ月か2カ月のどこかで壊されたような気がした。
監視家が壊されたから今まで拒んできた警備の受け入れをしたのか? とも考えられた。
しかし、監視家が壊されるような事態なら王国やクエストの説明の中にあるはずだった。監視家が壊されているという話はないということは、クエストが発行された時から、ムロたちが到着するまでの間に――
思考がまとまったのかムロは家屋を見つめ考えていた顔を上げ、北方向に走りだし止まっていた二人を追い抜いていった。
「ムロ……」
「レヴィ、エルシア急ぐぞ」
「突然……! どうしたのさ」
「村が危ない」
焦りを含んだ言葉を出したムロについていくようにエルシアとレヴィは走っていくが、ムロの速度には追い付けず距離は少しずつ開いていった。
走って走って、息切れを起こしながら三人は北へ北へと走っていった。
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