【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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4-1 理外回帰編:大規模クエスト

179 かくしごと

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 一部の団体が冒険者に支援をする。これは元来、否定されるようなことではない。
 冒険者組合ギルドがいくら中立組織であったとしても、その血盟までは中立を保つ必要はない。

 だが、『程度』というものが何事にも存在している。

 【フーシェン】という最大規模の血盟に『ロバート』という二大貴族が支援をする。この度合になると、有事の際に動ける非常用の戦力を一団体が獲得したと想起させてもおかしくはない。
 事実、そうであるかどうかは別として。
 『ロバートが秘密裏に私兵を有していた』とデュアラル王国が片を付けると、王国としてもロバートに対する対策として何らかの動きを見せてくるのは明らかだ。

 ――それこそ、軍拡、とやらで。

 ワインレッドの男の見立てがおそらく、正しい。
 それもまた王国にまで情報が行けば、の話だが。段階を飛んだ推測であっても、起こりうる可能性の一つではある。

 中立組織の冒険者組合ギルドが王国へと情報を流すことがあれば、どちらかへの加担とも取れる。多くの冒険者に依頼を振り分ける組合がそのようなことをすれば、中立だのとは言えなくなる。
 これにも、程度、というものが存在するだろうが、冒険者組合ギルドの情報に関する規則はこと細やかに取り決められているのも事実。
 規則を逸してまで行うような事柄か。見定めは現時点ではできない。保留。
 仕留め損ねた対象は当然のように保護される。強引に殺そうとするのならこれまた手間がかかり、連鎖的に面倒事が増えていく。   

 冒険者組合ギルドの動向次第。情報を流すか、流さないか。で、あるならば……。

「生じている問題に過度には反応せず。処理をするとしても、時期を見極める必要がある、と」

「無難に行くと、そうなる」

 数分の間に情報を交換し、情報が漏れた場合の対策などの話をしていった。
 脱出用の経路の確保、資産的価値のあるモノの保護、機密性の高い文書の隠匿。元より行われていた事柄がほとんどだったが。
 冒険者には縁のないモノであるため、そのほとんどをロバートに一任。貴族の方がそういった思考能力は長けている。
 『脱出用の経路』に関しては、ウィンストンが一つ追加するということで話し合いを終えた。
 
「……終わったぁ? 喋っていい?」

「あぁ」

「んっ……んー……ぁあぁっ。寝ちまってたよ。俺が普段寝てる布団よりもふかふかなんだよな、これ」

 手をぐぐぐっと押し込めば、その形のまま数秒、そしてじわじわと戻っていく。
 低反発さを存分に発揮するソファに腰掛けることなど、冒険者の彼らからしてみれば一生に一度あるかないか。
 話し合いがどうであったか、を聞かず家具で遊ぶ武闘家。ロバートはそちらに意識を移し、戻す。
 
「……それで、先ほどの話は……そちらの血盟の意見として受け取っていいのですな……?」

 今までの話をまとめるようにロバートが、しおしおと聞いた。
 十数分前まではあれほどまでに怒りの感情を露わにしていたというのに、切り替えが早いものだ。
 客人がいる前で憤慨する二大貴族もどうか、とは思うが。
 タイミングを計ったような問いに、二人は口々に「問題ない」「左に同じ~」と答える。

「そうか……それなら、それに従おう」

 どのような意図があっての問か。ウィンストン個人の意見であるなら聞かなかったつもりなのか。
 人の心は魔導よりも奇怪なもの。掴みづらく、掌握し得るのはこれまた困難。
 最上位の魔導士ウィザードであっても、ロバートの感情の行方は理解ができない。

 ――ふむ、人、とはめんどくさいな。

 感情を爆発していた時に口にしていた言葉を思い出す。あぁ、そうか、殺されたとか、なんとか。

「……放置というのは不安が残るだろうか? 監視とまではいかないが……我々が意識はしておいた方が公爵も動きやすいな。一応はその二人の情報を話してくれないか」

 精一杯の思いやりの気持ち。ウィンストンなりの高齢者の敬い方。
 ロバートは要求を受けるとシルクからの連絡をまとめていた用紙を取り出し、そこに書かれている情報に目を走らせた。

「奴隷を買った少年の名前はクラディス……。今現在は銅等級カッパーの冒険者で、銀がかった白髪で片目に眼帯をしている剣闘士ウォーリアー。奴隷の名前がアン。黒髪の分血の暗黒森人ダークハーフエルフで、こちらも銅等級カッパー剣闘士ウォーリアー……」

「奴隷の分血の暗黒森人ダークハーフエルフ?」

 ロバートの読みあげる内容に、ウィンストンの表情が明らかに変わった。

「それは、始末すると言っていたモーティアの娘か」

 突如として空気に張り詰める緊張感。その正体はウィンストンの声に微量に混じった懐疑。
 しかし、そのような威圧的とも取れる怪訝な顔を向けられてもロバートは――表面上では――動じなかった。

「いえ」と答えつつ、二人からは見えない机の下で汗ばむ両の手を組む。「その者は既に」

「……そうか」

 粛々と収まっていくウィンストンの感情。
 威圧的に見えたとしても、当本人はただ疑問を持っただけ。どう捉えられるかは別物として。
 こちらが引き受けなければ出さなかった情報だと勘繰ったが。考えすぎなのか。
 机に座っているロバートが引き出しに紙を戻す動作を一つ一つと視る。

 ――気のせい、か。

「って、一等級の戦闘奴隷と中位の冒険者が銅等級カッパーに負けたって? マジ?」

「あぁ、負けた……のは確かだ」

「ありえねー……が、面白い話だな。クラディスとアン、ね。どっかで会うかも知んねぇな」

「こちらとしても気には止めておこう。――では、今日はこれくらいで帰らせてもらう」

「もー帰んの?」

「次の用事があるだろう」

「うぇー……」

 早々に立ち上がり、ソファにかけていたローブを手にして羽織ったウィンストン。その姿を目で追いながら、よいしょっ、と武闘家も勢いをつけて立ち上がる。
 ん、と小さく納得したように声を出すと、扉の方へと歩くウィンストンから目線を外し、ロバートの方を向いて手を振った。
 にこっと笑う武闘家に、ロバートは何も思わずに手を出して笑みを返そうとする。
 次の瞬間、距離があったハズの男が目の前まで迫ってきていた。
 同時、出した手を掴まれてロバートの表情が強張ってしまう。

「下手なことしたら俺らより怖い奴らが来るからさ。旦那はあまり目立ったことをしないようにね?」
 
 隠し事も、さ。男は耳打ちをして、目を細めた。
 その何でも見通すような黒の瞳に、ごくり、と唾を飲み込む。

 ――この男には、隠し事がバレている。

 遠目で、ドアに手をかけながらこちらを不思議そうに見ているウィンストンが見えた。
 冷や汗をかき、小さくコクリと頷く。
 
「ん! やっぱり、ロバートの旦那はいいパートナーだよ。これからもよろしくネ」

 ロバートの返ってきた反応を見ると、ぱっと手を放して満足そうに声を大にして話す。

「分かっている……。こちらとしても君たちの血盟とは長くやって行きたいのでな」

 放された手を片手で覆うようにして言葉を返すと、武闘家の後ろの空中に長大な杖がふわふわと浮かんだ。
 それが、こつん、と男の頭を小突く。

「いてっ」

「おい、ティナ。次が閊えているんだ、早く行くぞ」

 「ティナ」と呼ばれたワインレッドの男性は嫌そうに振り向き、大きな扉の前に立っているウィンストンの不機嫌そうな顔を見た。
 うへぇ、マジ怒りじゃん。肩を落とし、未だ浮かんでいた杖を払うようにシッシと手を動かす。
 
「……じゃ、俺ら帰るからさ。またなんかあったら言ってね、旦那」

 と言ってギザ歯を見せて笑うと、杖を追いかけるようにピョンっと飛んでウィンストンの隣に着地した。
 お待たせウーさん。扉を開けて外に出ようとしていた相方の肩に手を回す。
 ウィンストンはやや嫌そうな顔をしたが、小さなため息を一つだけ零し、二人は部屋から出ていった。
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