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4-2 理外回帰編:血盟お試し期間
198 いろんなお話をムロさんと、ランニング中に
しおりを挟む「とりあえず、5キロ、ですか?」
「ばーか、んな訳ねぇだろ。20キロ……いや、30キロだ」
「うげぇ……」
僕の体をじろじろと見て、走るキロ数を上げてきた。
「無理なら、別にいいんだぞ?」
あの日みたいにニヤニヤと笑いながら煽ってくる。
カチン。必死に締めていた堪忍袋の緒が切れた音が聞こえた。
「はぁ~? 望むところだっての!」
良かろうともさ! 僕の成長を見せてやる。
隣を走るムロさんについて行き、右、左、もう少し行ったら右、あー行き過ぎた。こんな感じで決まっているランニングコースを走っていく。
朝の寒風が顔や腕、脛に当たって温まった肌を一生懸命冷やそうとしてくる。
吐く息が白くなり、空中に消えていく。当たる空気は寒いけど体はぽかぽかだ。
日の明かりも建物の隙間からちらちらと。早朝も良い所、街に人はほとんどいない。
「どうだった? 3ヶ月のギルド生活は」
「比喩じゃないレベルで死ぬかと思いました。ほんと、何回も死にかけたんですよ」
「ハッハッハ、まぁ死にかけるくらいのことはするだろうなぁ~。具体的にはどんなことやってたんだ?」
「スキル無しで魔物と戦ったり。それも8時間とか、長い日は10時間以上も」
「うっわ」
隣を走りながら見てみると、哀れなものを見るかのような表情。
「あ! 引きましたね!? 僕だってそんなことやりたくなかったですよ!」
「スキル無しで魔物? 気持ち悪っ……」
「ドストレートに言ってくれるじゃないですか!」
脇腹に肘を当てようとすると、華麗に回避された。
やいやい、と煽られ、速度を上げたのに顔を顰めながらついて行く。
体格差が二倍以上は違う。歩幅も全然違うのにほとんど同じペースで、人が少ない街路を走っていく。
そんな中、ふと思った。僕の成長についてのことだ。
このランニングは、僕が訓練をする前にやった唯一の運動。つまり、ギルドでの生活で自分がどれだけ成長したかっていうのがステータスの数字ではなく、体感的に理解できる。
体に調子を聞いても、それなりに走ったと言うのにまだ元気だよと返ってくる。
息も上がってないし、ペースにも問題なくついて行くことが出来ている。それも話しながらときた。
もう5キロは余裕で過ぎてる。10キロも過ぎてる……か。
「息、上がらなくなったな」
汗でペタンとなってる赤茶髪をかき上げながら、にやりと笑った。
えーと、なんでこの世界の人はこうも僕が考えていることを言い当てるのだろうか。
考えてることが筒抜けなのか、ってたまに思う。エリルしかり、周りの人達はエスパーなのかもしれない。
「自分でもビックリしてます」
「だったらあの時より早くなってるのに気づいてるか? 二倍以上は出してるぞ」
「……それはー……気が付かなかったです」
これまで何キロ走ったのか分からない。そして、まだ終わる気配もない。
道中のムロさんの会話は楽しくて、この3ヶ月の間にあった話したかったことを沢山話して行った。
話す度に大きく笑ってくれて「そんなことがあったんだな」と言ってくれた。
◇◇◇
そして、人がチラホラと見えてきたと思ったら、いつの間にかアサルトリアまで帰ってきてたみたいだ。
「うぃ、30キロくらい……か? 分かんねぇや、もっと走ったかも」
「ふぅ……ぁ。さすがに疲れました」
「嘘つけ、涼しい顔しやがって」
「疲れましたよーだ」
「小生意気になりやがって……」
話しながら血盟拠点の前で運動後のストレッチ。
ムロさんの見よう見まねで筋肉をほぐしていっていると、ドタドタと足音が聞こえてきて、入口からアンが顔が覗いてきた。
「あ……いた……。あるじ……おはようございます」
「おはよー、まだ寝てていいのに」
目がほとんど開いていないし、うとうとと眠たそう。
「おぉ、アン、朝起きな主を持つと大変だな」
「……あなたにアンと言われたくありません」
ほとんど開いていない目を向け、ふいッと不機嫌そうに外す。
「……もしかして俺のこと嫌い?」
「あるじ以外の人と話すのが嫌なだけです」
「どうなってんだ。お前のお仲間さんはよぉ~」
「ちょ、汗かいてますから!」
疲れてるのに、頭を揺らすなあ! 吐いちゃうかもしれないだろ!
振りほどこうとしても、大きな手で頭をわしっと掴まれているから抜け出せれない。
「こ、この! その手を放せ!」
「いや、真剣か。もっと優しくしてくんねぇとオジサン泣くかもしんねぇぞ」
「泣け、勝手に。お前らに微塵も興味はない!」
ごわごわにされた髪の毛を直しつつ、言い合う二人を見た。
実は僕、アンの他の人に対する態度は結構課題だと思っている。
冒険者に登録した時も僕を板挟みにしなかったら進まなかったし、ムロさんとは一度戦ったからまだ会話は出来るみたいだけど……。
「くそ生意気なガキめ」
「無駄にでかいだけの男が何を言う」
「無駄じゃねぇっつーの!」
「わたしに負けたではないか。無駄だ」
会話……なのか、これは。
人間不信的な感じではないと思う、人と接する機会がなかったから……とかなのだろう。
いつまでも僕が隣に居れるわけではない、から、そうだな……。
「ムロさん。ちょっと」
「んぉ? どうした?」
「提案なんですけど、アンを受付嬢にしてみるのはどうですか?」
「ほお?」
ここは血盟、それも大きな大きな血盟だ。
血盟拠点の中には外から来た人を対応する受付のような場所がある。
アンの態度が他の人と接するのに慣れてないだけなら、慣れる機会を作ればいい。
と、単純な思考結果が出た。
僕が言いたいことをなんとなく読み取ってくれたようで、ははん、といい顔をした。
「えっ、その、あるじ……」
「面白れぇ。やらせようぜ、どうせ残り二日とちょっとは俺らんとこの血盟員だ。いろんなことやらせてやるよ」
不気味に笑ったムロさんの視線に、アンは物凄く嫌そうな目で応えた。
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