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4-3 理外回帰編:始まりの街・レイメイへ
207 ちょっとした勉強会
しおりを挟む「はい、質問があります!」
「どうぞ! クラちゃん!」
「エルシアさんの無形者って職業は何をするのですか!」
乗り合いの馬車に揺られている時間は何をするの? という心配等どこ吹く風。
僕は暇があればレヴィさんに魔導書を解説してもらい、ダンジョンで役立つ魔法を絶賛教えてもらっている途中だ。
アンもアンで、ムロさんやエルシアさんの戦闘技術を何かに生かせないかと模索中。
そして、今日は闘技場で見て疑問に思ったことの質問中だ。
「ふっふ~ん! あれはねぇ、すごい職業なのですよ! クラちゃん――いや! アル君!」
「エルシアさん!」
「アル君!!」
はぐっ。
「何やってんだお前ら……」
二人で抱擁を交わしていると、辛辣なムロさんの言葉が刺さる。
自分を見失っている気がするが、自分を見失っているのだ。
僕は、この人たちと旅ができて、ものすごく興奮をしている!
「おい敗北者、まだ話の途中だ。早くその能力強化というスキルを教えろ」
「……こっちはこっちで」
ムロさんの隣。アンがペンと紙を用意して言葉を待っている。
「いいのか、お前の男が取られようとしているぞ」
「? あるじが、あいつに? なぜ?」
「なぜって……見えねぇの? あれ」
「……? あいつは意中の者がいると、この前話をしていたぞ」
「だとしても」
「意中の者がいるのにあるじに手を出すような女なら、あるじは認めていない。恩人と言わない。だから早くスキルを教えろ」
向こう側でされる会話を聞いて、その通りだ! と言ってやりたい。
僕とエルシアさんはそういう関係ではないのだ。お姉さん、という立ち位置なのだ。
そう思ってエルシアさんの顔を見上げると、
「……ぇーっと」
顔が引きつっていた。
なぜ? 会話の流れで引きつる内容なんてあったか?
まぁそんなことはどうでもいい。とりあえず、聞いておきたいことを先に済ましておこう。
「で、職業についてなんですけど」
「あ、うん。えっとね……私の無形者っていうのは、遊撃者っていう職業の派生でね……」
「はい」
「ほんっっっとに、器用な人しかなれない職業なの」
「……なるほど?」
無形者っていうくらいだから、型にハマらないって感じなのかな。
遊撃者は聞いたことがある。臨機応変に攻撃や守備に回るという攻守の両方に長けて、戦況の把握ができる人がなれる職業だ。
「――エルシアの職業の話か」
と言ったのは、僕の組み合わせた魔法陣の添削をバレないようにしてくれていたレヴィさん。
その紙を受け取り、赤ペンで真っ赤なのを確認。
「うげ……」
レヴィさんに教えてもらっていた魔法の展開に関する陣を作っていたのだけれど……。どうやら、魔導がぐちゃぐちゃらしい
簡単に言うと、角灯ぐらいの火加減でいいというのに燃やし身を焦がす程の火力になっているのだと。
《火》に関する魔導はそこそこ自信があったっていうのに……くそお。
と、反省は後にしよう。今はお話の途中だからな。
「レヴィ言ってやってよ! 私の職業がどれだけすごいかって!」
紙をこそっと鞄に入れて顔を上げるとレヴィさんが、そうだな、と一呼吸。
「無形者というのは迷宮のマッピング、敵の感知、前衛で戦闘、後衛で補助、薬草に関してもある一定の見聞も持っている。投擲技術も長けていて、暗殺者のような奇襲もできる。道具の扱う範囲に関しても他の職業よりも幅広い」
ペラペラと話される説明に、エルシアさんはこくこくと頷く。
「つまり、剣闘士内での器用貧乏だな」
その一言で肩を落とした。
「だが、少数の一党だと非常に助かる存在だ」
この一言で再び元気に。
「まだ成り立てだからミスも多いがな、特に前衛での仕事と薬草についてが――」
「そ、そんなことまで言わなくてもいいじゃない!」
まるでスクワットでもしてるのかって思う程の動きで一喜一憂してる。
「レヴィさん達のパーティーは三人ですもんね。それも補助系の職業がいない超攻撃型のパーティー、エルシアさんの器用な職業が光るのか……」
「事実、エルシアが足らない部分の補助をしてくれているからな」
「ふっふっふ。私なしではこのパーティーは機能しないのよ!」
周りの乗客にも絶対聞こえるような声量で胸を張り、顎を上げた。
確認をするようにレヴィさんの方を向くと、一瞬考えるような間が合って、肯定するように小さく頷いた。
「つまりエルシアさんは、すごいんですね!」
「そーなのよ! なのにムロはいっつも馬鹿にしてくるの!!」
「――馬鹿だろ、ホワイトボグに負けそうになってる時点で」
「――おい、まだ途中だ。早く教えろ」
ムロさんが普段のように茶々を入れようとしたら、アンが遮った。
ぐぬぬ、といった表情をするムロさんに「べろべろばー」とエルシアさん。
そしてとうとう一般の乗客さん達から小さく、愉快だねぇ、と聞こえてきてしまった。
それを見ながら、別の紙を取り出して魔法の勉強を再開した。
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